東雅夫『江戸東京怪談文学散歩』(角川選書)を読み終える。とかく人の住まうところに怪談は発生するが、重ねられた土地の記憶があらたな怪異をも湧かせるのだ。作者は怪談文学の作品を紐解きながら、実際に江戸東京を歩き廻ることで、まるで実体験を持って何ものかを肌で感じ取ろうとしているかのようだった。


今回取り上げられた土地の多くには、やたらと橋や川、池、坂が登場する。作者自らが住む墨田区を中心に、江東区、台東区などの怪談と縁の深い土地土地を巡っているため、興味そそられる話が多い。芥川龍之介「妖婆」の両国一つ目橋、森鴎外の「百物語」から向島百花園、泉鏡花「怪談会」の向島有馬温泉、宮部みゆき「あかんべえ」の深川界隈、永井荷風「来訪者」の深川四谷怪談めぐり、岡本綺堂「青蛙堂鬼談」の切支丹坂を始め坂巡り、三遊亭円朝「怪談乳房榎」から淀橋などの橋巡り等々。


作者は云う。


 先の姥ヶ池といい、あるいは吉原弁天池といい、明治新政府は躍起になって、かつての女たちが身を投げた大池を、せっせと埋め立てることに腐心したフシがある。

 しかしながら明治後期、怪談気運が高まるとともに、泉鏡花をはじめとする文人墨客は、水辺の妖かしに惹かれるように好んでこれらの地を訪ない、ときに怪談会を催した・・・・。

 無惨に埋め立てられ、あるいは暗渠に変えられてしまおうと、地下深くを流れる水脈が絶えることはない。

 ときにその流れは、地霊の囁きと化して、水辺をもとおる幻視者たちの想念へと流れ入り、数多の怪談文芸に結実したのではないか。


怪異の発生する場の多くが境界であることが多い。そのため、橋や辻、川場などが怪談場面によく登場することになる。当然、狐狸の住み処というような寂しい場所でもあり、人気の少ない住居に適していないようなところも多いので、怪談にはもってこいの場所ともなる。また、被差別者などはそのような場が生活圏であることも多く、怪異との相関関係も根深いものがある。


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