東雅夫 編集『文藝怪談実話 文豪怪談傑作選・特別篇』(ちくま文庫)を読み終える。この時期には最適とも云える妖しい話が盛りだくさんである。文字にすると言霊となって一人歩きしそうなので、ここで詳細に触れることは控えよう。幽霊や物の怪のあるなしを論じても結局は堂々巡りであるから、そんな野暮なことは置いておいて、名だたる文人たちの百物語をとくと味わっていただきたい。


小生は「物の怪」好きではあるが、大の恐がりである。親父殿は戦争体験者だけに、肝が据わっている。子供時分に、田舎の畦道で火の玉に出くわした体験の持ち主でもある。そんな話を小生が幼い頃より聞かされてきたこともあって、ヘンテコな書物を貪るようになってしまった。親父殿の田舎は、小生が小学生頃までご多分に漏れず厠は外にあった。お盆の時期になると田舎に顔を出すことになるのだが、便所に行くのが怖くて怖くてしかたがなかった。ぽっちゃん便所であるから、用済みのものは総て丸見え、臭気もかなりものである。夜などとてもじゃないが、一人で行くことなどできやしない。まさに魔界への入り口であった。実家は臨済宗なのだが、ここでは葬式もかわっている。参列者は、いろいろな飾り物を手にして行列で寺まで歩いていくのだが、最後には小銭(五円は抜いて)やら、お菓子やらをばらまくのだ。葬式の出た家では、よく、怪し火が飛んだと親父殿は云っていた。それでも最後にこう付け加えた。「頭の上を、自分よりもでっかい火の玉が、しゅーと音と立てて飛んでいったんだ。だけどちっとも怖いとは思わなかった。それよりか、ただ、綺麗だなあと見とれていたんだ。」


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