代休で時間があったので、昨日の原稿を抄出してみた。
「乞食裏物語」の對する感想 石角春之助
改めて云ふまでもなく本書は、体験で書くべきもので、其の体験こそ本書を物すう総であると云つても過言ではない。何故なら、彼等乞食の生活が、一般社会に見ることの出来ない奇々怪々な、人間離れのしたそれであるからだ。私は其の実状に触れんが為めに、見栄を棄て、苦痛を忍び、冒険を冒し、不良の仲間にも入り、出来る限り彼等に近寄つて行つたものだ。だから其の為には、堪えがたい苦痛のさまざまを体験したし、又忍び得られない侮辱も受けた。しかし、其の結果は、全く奇想天外な、幾多の○○を見ることが出来た。殊に、其の中でも最も凄惨を忍ぶものは、バタ公の凶暴な生活と、ミイラ其のもののやうな腐りかけた肉体を持つ男娼と、更らに乞食淫賣婦(オカ○とも云ふ)の暗中飛躍などである。が、総称に於て彼等乞食ルンペンの生活は、今日の検閲制度下にあつては、到底、其の半ばをも書き現はすの自由を持ち合せない。これが著者として、一番に迷惑に堪えないことでもあり、又残念なことでもある。つまり獲物が、素敵に大きいにも拘らず、其の収穫がつい僅少であつたと云ふ矛盾が○されてゐるのだ。だから本書に対しては、決して自信のあるものではない。だのに世間では、ひどく好感を持たれ、さまざまと取り沙汰されるとては、感謝に堪えない許りか、却つて心耻しく感じてゐる次第である。
何れにするも本書に對する感想としては、無暗に書きたいと許りであるが、與へられたスペースが餘りにも僅少なので、最はや、何事も書くことが出来ない。で、○○一言しておくことは、彼等乞食生活の全貌は、決して社会人が考へてゐるやうなものではなく、寧ろ其の反對の場合が多いことと、かうした人間離れのした生活に触れたことが、ひどく見栄坊な私をして、徹頭徹尾○○主義につかしめ、どんなボロを纏つてゐても、決して羞しさを感じないやうになつたこととである。本当に私としては偉大な収穫の一つと云はねばならない。
*○は、判読不明の文字。他にも誤った解釈があるやもしれませんのでご了承下さい。