中央通り沿いにあった古書店U文庫。ブログでも何度か取り上げたが、店主が亡くなると共にその店も姿を消した。在りし日の何時間居ても飽きなかった棚を、今でもまざまざと思い出すことができる。店がなくなって以来、そこは空き店舗になっていた。しばらくの間は、閉店を知らせる案内が掲げられていた。たとえ閉店したとはいえ、看板が掲げられている間は、古書店がなくなったという現実感が乏しかったのも事実だ。もしや誰かが看板を引き継いでくれるのではないかと云うような、甘い考えが浮かんでは消えた。しかしそのような妄想を吹き飛ばすかのように、少し前より施工業者と思われる人たちが出入りするようになった。こうなってしまえば建物の姿が変貌するのと時同じくして、否応なく思い出も消えてしまうようであった。


昼飯でも食べようと、かつてのU文庫あとを通りかかると、新規店舗オープンの大きな花輪が飾られているのに気付いた。どうやら新しい店舗が開店したらしい。どんな店かと確認すると、本とは全く業種の異なるラーメン屋であった。興味本位から店に入る。こだわりの古書店の後に入店したところが、どのようなラーメンを出すのか、とても興味を覚えたのである。入口で食券を購入し(小生はこの食券の券売機というやつはどうも好きになれない)、店一押しと思われるラーメンを注文する。すると新規オープンのサービスとして、並の値段で大盛りが食べられると云う。ならばお言葉に甘えて、大盛りを注文。しばし待つ。その間に懐かしむように店内を見渡してみた。


あたり前だが店内は以前の面影が全く、綺麗な現代風のラーメン屋へと様変わりしていた。白壁には石など埋め込め込まれてあり、一見、ラーメン屋とも思えぬ造りである。稀覯本や、任侠もの、右翼関連の並んでいた辺りはすっかり厨房と化し、エログロ、性科学、社会風俗、江戸・東京もののあった棚は、メインのカウンターに取って代わった。そんなことを懐かしみながらラーメンを啜る。鰹風味の和風味である。下町にはお似合いの味かも知れない。そんな感想を持ちながら、何の気為しに割り箸の袋の裏に刷られていた店主の心得を読んでみた。するとそこには、やるべきことをやる 手間を惜しまぬ仕事がこだわりの味を支える・・・と記されているではないか。店は変われど、この場所で営む店主の心意気は変わっておらぬのだ。なんだか嬉しくなった。そんなとき、ふと、焦げ臭い匂いをふりまいて、昼間に店で食事をしていたU文庫の店主の顔が思い出された。辺りには食欲をそそるラーメンの香りが店一杯充満していた。