各地の図書館から八百冊以上の本を盗み出した男が逮捕されたという記事を読んだ。八百冊以上も盗んだことも驚きだが、動機が直木賞を取るためということを知って、あんぐりしてしまった。本を盗むような輩が、命を削って文字を切り売りする仕事など出来るはずがないではないか。大馬鹿者め!戦前、寒村翁などは金が無くて一番困ったのは本が買えないことだと言っている。幾らか金が入っても食うや食わずの毎日だから、あっという間に生活費に消えてしまうのだ。だから好きな本を買いたくても女房にはいえない。どうにかわずかばかりの金が入ったとき、奥方に内緒で少しだけ本代をくすねて洋書を買ったことがあった。するとすぐに奥方(お玉)にばれてしまったそうだ。そのときのお玉さんの言葉が実にいい。


「この家の中に、あなたが稼いだのでないお金が一銭でもありますか。みんなあなたが稼いだ金ですもの、必要だったら残らず使ったって私は一言も苦情はいいません。それだのに、なんという卑怯なまねをなさる」(『寒村夜話』の「山と犬」より)


大杉栄をして「女 大久保彦左衛門のお玉さん」と言わしめたというのだから、さもありなん。監獄の中で反省しなさい。