朝からのどんよりとした空模様に比例して、気分は低調で何もする気が起きないのである。しかたなく録りためたテレビ番組をオーケストラにして、すでに更新期限の切れたNウイルスソフトを削除し、新しくKソフトを導入してみた。使い方はイマイチよく分からぬが、噂通りのスピードでPCへの負担も少ないようだ。ウイルススキャンに時間がかかるような話を聞いていたので、その間を利用して、題名が気になり購入していた櫂広海『鬼談』(あおばコミックス)を読むことにする。最近は漫画を読む機会がめっきり減ったが、それでもこんな何もせずに日がな一日過ごそうというときには大層助かる。腰を据えて読もうと半分ほど差し掛かったとき、拍子抜けするほど早く、ストレスも感じないうちにスキャンが終了してしまった。まさに嬉しい誤算である。PCを終了し、漫画に集中する。すると興味ある怪異譚なだけに、こちらもあっという間に読み終えてしまった。そんなわけで作業も手早く終了し、漫画も読み終え、すぐに手持ち無沙汰となった。そこで途中であった『幽』を引っ張り出し、怪談文学賞の短編部門の大賞を受賞した「るんびにの子供」を読むことにした。いままで散々、猟奇だ、化け物だ、怪奇だと騒いできたので言いづらいのであるが、本心で云えば、あまり怖い作品は好きではない。臆病者だからである。だから心底怖い幽霊談など苦手なのである。それでも怖いもの見たさから、ついつい手を出してしまう馬鹿者なのである。そういう意味では「るんびにの子供」は小生でも読める質の作品なのである。橘外男の作品に子供が登場する怪談話があるのだか、あれを読んだ日の晩には、しっかりうなされた記憶がある。そんなことも思い出しながら読んでいると、霊を観た姑が大きく目を見開く場面に差し掛かったあたりで、脇に置いてあった携帯電話がいきなり振動しだしたのである。思わず身震いする。動揺しながらも確認すると、相棒からのメールである。読めば、ある知り合いの方が亡くなられたので出かけるという内容だ。もともと具合が悪い話はしていたので、驚く内容でもないのだが、何となく自分の一連の行動が不謹慎に思えてきた。さっさと続きを読み終えると、一つ深く息を吸い込んだ。そして『幽』を脇に追いやると、近くに転がっていた井狩春男『本屋通いのビタミン剤』(ちくま文庫)に手を伸ばし、気分一新をはかるのだった。