木曜日の夜のこちらの音楽番組は、ついつい見入ってしまうことが多い。前のgooブログでも何度か記事にしたので、継続している読者の方はご記憶の方もいることだろう。寺尾聰特集の番組を視聴して、よし、私も77歳まで音楽活動の現役として頑張るぞ、と思ったり、坂本龍一の特集番組を視聴して、彼がまもなく死去するであろうことを予測理解して涙したり、というような記事を複数残してあるはずだ。
その他様々なベテランの著名なアーティストについても取り上げていて、たまたま良い番組に出会うと、ついつい記録として残したくなる。もちろん、何でもかんでも視聴しているというわけではない。すぐにテレビを消してしまうこともある。
今回は、ユーミンこと松任谷由実さんによる新しい取り組みについての紹介という番組内容だったので、興味深く視聴することができた。
これは番組の最後に、余韻を残してユーミンが光の彼方に去っていくというような演出の場面。
AIを駆使して新しい音楽を創造する、みたいな感じだったので嫌だなあと思っていたが、予想外に人間味を感じる内容だったので、少し安心した。
声質のブレンド、という部分にAIを駆使しようというアイディアであり、その方向性が正しいか否かは私にはわからないが、興味深い内容であると感じた。大昔だが、一時デジタル的アレンジのサウンドがアナログを駆逐しそうになっている時期があり、そんなときに山下達郎さんが、自身の作品においてデジタルミュージックについての新しい考え方を提案していて、私はさすがだと感じたことがあった。何でもそれ一辺倒では角が立つし、偏向は鼻につくものだ。デジタルとアナログのベスト・ミックスを目指そうという彼の考え方には、私も大きな影響を受けたものだった。
今回の番組においても、一流ミュージシャンの生演奏というアナログチックな場面に、AIを駆使した技術がさり気なく、そして惜しみなく投入されていたのだ。聴く側の心地よさを最優先しているという点に、大いに共感できた。
生演奏を土台としているという点が心地よく、ユーミンの若い頃の声質に係る部分がAIで再現され、今のユーミンの声とバランスよく配置されるというコンセプトだった。賛否両論が出るかどうかはこれからだろうが、聴いている側にとっては、ことさらAIを意識しなくて済むという点がプラスであると感じる。
ユーミンの演奏と言えば…出てくるだろうなと思っていたら出てきた、武部さん。彼はプリレコ(予め録音しておくこと)による当てぶり(録音された音源に合わせて演奏はしているが、聞こえている演奏は予め録音をしておいた音源であること)を好まないので、この演奏は実際のスタジオライブ演奏であることは間違いないはずだ。
もちろん録画番組であるから、テイク2、テイク3というように演奏のやり直しはあったかもしれないが、実際の演奏を聴くことができているという充実感はありがたいものだ。
武部さんは、意外とシンプルなセッティングで演奏されていて、いつもながら感心してしまう。しかし、背後にある音源を駆使しているということもよくわかった。デジタルミキサーを活かして最適な音量バランスを曲ごとに、もっと細かく言えば小節数ごとに設定しているのだろう。見えているキーボードは、単なるリモートのマスターキーボードであり、音色は後方のラックマウントタイプの機材で出しているようだ。私も昔はこのようにして音を出していた時期も長らくあったので、再びこの方法にチャレンジしてみたくなってきた。
キーボードの上に譜面を置くというこのアイディアも、是非参考にしたい。どういう方法でこのように置いているのだろうか。キーボードのパネルの全面が譜面で覆われているので、本体の操作は何もしていないということがバレバレだが(つまり、このキーボードの音色を変える必要がないということ)、マスターキーボードとして使う上では何の問題もないことである。
ドキュメント番組でもあるので、リハの様子なども収録されていた。この中では、運よく武部さんが若い?キーボーディストに演奏の指導をしているような声も聞こえた場面もあり、ついつい表のアナウンスの声など聴かずに、裏の武部さんの声に耳を傾けてしまった。私は、以前に何年か続けて武部さんの音楽講座を受講したことがあり、それ以来ずっと尊敬している。
武部さんは、番組の中でも自らのアレンジに関するエッセンスをどのように表現していくのかということにこだわっていた。音楽のAI化の未来性を謳っている番組であるのに、あえて人の手による演奏のアナログ的な部分にスポットが当たっていることに感動した。視聴者の多くは、こういったことには気が付いていなのかもしれない。
武部さんご自身は、一度は小室ファミリー的な音楽が巷に溢れるような不遇の時代を経験し、自らの音楽性が不要とされるようになったという(後になってみればそんなことはなかったのだが)苦い体験をしてきた方である。そういったどん底から、不死鳥のように蘇った方であり、デジタルの時代をしなやかに乗り越えて、そして、新しいAIの時代も再び自らの演奏技術とアレンジ力で乗り越えようとしている。素晴らしい方だと思う。
私も、当然ながら足元にも及ばないが、古希を目前としてもこのように第1線で活躍するプロフェッショナルな人たちのエネルギーを享受し、自らの生きる力に変えていけたらと考えている。






