私のバイト先の店長は、じつは料理人。
ていうか、本来ならその道の超、プロ。
大人の事情で(笑)、
現在はデパ地下のお店の店長をやっている。

その店長がある時教えてくれた。

ずっと料理をしていると
豆の声が聞こえるようになるんだよって。

豆は、ひと晩水につけて、
さらに弱火で何十分も炊かないといけないもの。
タイミングが早すぎれば豆は固いまま、
茹ですぎればやわやわのおいしくない豆が炊けてしまう。

でも店長は、豆の声が聞こえる、と言う。

炊きあがるそのタイミングで、
豆が“もういいよ!”って教えてくれるんだって。

そこで火を止めてざるにあければ
必ず、おいしい豆が茹であがる。

豆の声ってどんなだろう?
想像できるようで、ちっともできない。

足りないものがあったら
豆の声は聞こえてこないんだろうな。

技術? 愛情? 情熱? 楽しさ?

“もういいよ!”
その奇跡みたいな声が聞こえる瞬間、
それが日常になって体に染み込む時間、
それがプロと呼ばれることなのかもしれない、と思う。


いつか店長に
“店長! 豆の声が聞こえました!!”
という日がくるのが、
私のちょっとした夢である。