蝋石、描く。正体不明。
灰色、白く、蝋石、描く。

いびつな曲線の先に
泣き声がする。
笑い声、叫び声。
足音は忍び寄り
ケケケ
と笑って
左親指あたりを駆け抜ける。

そこは何色?
白しか見えないけど。
白のぐるりが
とても眩しい。

虹が見える。
太陽の柔らかい陽射しと
その方角からやってくる水しぶき。
声が聞こえる。
笑顔。笑顔。泣き顔。また笑顔。
フルカラーの景色が、乱反射する。
母と子どもの歓声が
丸く低くこだまする。

蝋石、儚く。
消えゆき、またかく。

蝋石、ひとつ。
消えては、描かれ。
蝋石、ひとつ。
駄菓子屋さんで買ってこい。
蝋石、ひとつ。
消えても、始まる。
蝋石、ひとつ。
忘れずに持て。

雨が降るよ。
帰っておいで。
こんな日に傘をさすなんて馬鹿げてる。
蝋石、ひとつ。
それだけ忘れず
帰っておいで。

灰色、再び、白で、埋まり。
雨は無力に、乾きゆく。
傘なんていらないよ。
蝋石ひとつで
始まるんだから。