
そして、あの「世界遺産の合掌造り」の宿に泊まってきました。
築100年あまりの幸エ門さんという民宿です。
「ベストの白川郷合掌造りが見たい」と思い、年にわずか3回しかないライトアップの日を予約したのは半年前。
■日本昔話の世界
期待しながら、車で向かいました。
この日は、幸運にも?大雪。
茅葺の屋根には、ふんわりとした雪が乗っています。
まさに日本昔話の世界。
(遠山家の方が言うには、汚いものをすべて隠してしまう雪の時期が、村が最も美しいとのこと)
幸エ門さんに着くと、HPにのっていた古いたたずまい。
建物に一歩足を踏み入れると、部屋の真ん中には、囲炉裏、上には太い黒々とした梁があります。
わずか100年前、おじいさんやひいおじいさんまでは、日本人はこんな生活をしていたのです。
部屋の中のダルマストーブは、とても温かい。中にマキがくべられていて、少し煙の臭いもしています。
廊下を歩くと、床の板がギュウギュウと軋みます。
部屋に案内されると、古い柱時計がありました。
ノミの跡の残る柱によりかかって、窓を見ると、
雪が舞い降りてくる様子が見えてきて、とても懐かしい気分になりました。
村々を散策しながら、雪道を展望台に向かいます。
展望台からみた、白川郷はまさに、100年前の日本の村でした。
(こんな感覚に浸れるのは、景観を大事にする村の方の努力です。トタンなど現代を感じさせるものは茶色く着色して、電柱柱は、地中に埋めてしまうのですから。)
夕方にはいよいよ、ライトアップ見学です。
50棟のライトアップされた建物は、夕闇の中で浮かび上がります。

この日と翌日で、和田家も神田家も、民家園も、ブルーノ・タウトが訪れた遠山家も行って合掌造りの家を堪能しました。
驚いたことに、和田家や神田家は、現在もそれぞれの家族が住んでいるのです。
人がすんで、囲炉裏に火を入れて、食事をして、そんな温かさが使われている家にはありました。
新築の家の匂いがあるように、100年住んだ家の匂いがあります。
(私の田舎の蔵と同じ匂いがしました。)
一方で、移築されて長く誰も住んでいない民家園の建物は、なんだか剥製やマネキンを見ているような感覚でした。

■合掌造りの秘密
立派な合掌造りをたくさん見て、、、疑問??
こんな立派な建物が、山と山の間にしか耕作地がない下下の国(飛騨の国のことで、古代の制度で豊かな国を上国、普通の国を中国、貧しい国を下国と言って格付けしていた。下国の中でも最貧の国が飛騨であった。もちろん下下の国という格付けはなく、揶揄されていたということ)でどうして作ることができたのだろう?
宿の本やインターネットや、地元の人に聞いて、答えが出た。
こんな辺鄙な山奥にあっても、白川郷は「実は豊かであった」
もちろん自然が豊かだとか、比ゆ的にではなく、経済的に豊かだった。
4つ理由がある。
①山奥に位置するため、豊富な材木が多数あった。しかも、荘川で運ぶことができる。これは、現金収入となったでしょう。
②養蚕も現金収入となった。あの大きな合掌造りの2階は、お蚕様のためなのだ。
③火薬の原料となる硝石を作っていた。物騒な話ですが。(信長時代は硝石は、輸入に頼っていた。恐らく、密かに作りかたが伝えられていったと思われる。まさに秘密だった)
④江戸幕府の直轄領であったため、比較的年貢は安かった。
いつの時代も、立派な建物は経済的に恵まれないと作れません。
イギリスのコッツウォルズのはちみつ色の建物は、毛織物業が作り、
ブリュージュやブリュッセルの建物は、オランダの貿易が支えました。
日本の老舗の温泉旅館の立派な建物は、大正バブルがつくりました。
都庁の威容も90年代のバブルがなかったらあのような規模にはならなかったでしょう。
■失われた合掌造り
戦後には、37棟もの合掌造りが、都会のレストランなどに買われていった。
このままでは、合掌造りの村が失われてしまう。
そんな危機感が白川村ではあったそうです。
いまでも60棟ほどの合掌造りがあるが、以前は100棟以上もあったとのこと。
実際に、すでに、合掌造りの半分は失われているのです。古い物が失われると、二度と取り戻すことはできません。
白川郷の合掌造り・・・大切にしたいものです。
今、世界遺産となり、白川郷は観光という、経済的基盤を持った。
我々にできることは、合掌造りに泊まって、お土産を買って、お金を落とすこと。
(8800円/1泊2食 民宿としては高めですが、飛騨牛もおいしかったし、何よりも世界遺産に泊まって、この値段は安いです。)
それが、現代の合掌造りを良い状態で残すことになるのです。
そして、泊まった私達は、失われつつある古き良き日本を自分の中に残すことになるのです。
■幸エ門さん
8800円/一泊二食
出合橋と和田家、神田家の間に位置していて、どっぷりと白川郷に浸れます。
歴史のある建物を保存しつつ、快適性を求めるとの方針の下、
床暖房やシャワートイレを完備しています。
でも、テレビは部屋に置いてなかったり、柱の時計(愛知時計!)はゼンマイだったりと
雰囲気を崩すことはありません。
また、布団に湯たんぽをいれてくれたりと気配りもうれしかったです。