たくさん売ることを目的にも目標にもしていないと、仕事は楽しい。目の前のお客様の話を聞くことに集中して、その人の気持ちに心を配ることだけをしていればいい。

 

 そんな風に切り替えていって、もう完全に切り替わったよ。

 

 だから話しかけてくる人が、ああこの人はどうやって売ろうかと考えているな、ということがよくわかる。まるで煙草を吸わなくなってから、喫煙者のたばこ臭さに敏感になったように。

 

 できたしこ、という熊本弁があるが、それで充分。

 

 そうやって仕事をしていって、なんかお客様の気持ちに合ってないな、というときにどうするか?そこが考えどころ。

 

 自分の気持ちややっていることを変えるかどうか。これも、変えられると思ったら変えればいいんじゃ、と思う。変えきれないなと思ったらそうすればよく、それから先付き合ってくれるかどうかは相手次第。

 

 ここで無理するといけない。無理する行動とは、売りたい気持ちがあって、自分の気持ちにそぐわない人に合わせること。満足は数字だけであって、ほんの一瞬。その後は後悔が残る。

 

 セールスの本を読むと、買ってくれるということが大事で、好かん奴だと思っても、継続して買ってくれるならそれでいいんだ、なんて書いてある。

 

 ただそれは、「たくさん売る」ということを前提にしているだけ、と思うわけである。

 

 好かんと好きの中間の人がたくさんいて、実はいつもどうしようかと迷っているのだけれど、結局相手が自分を求める気持ちが強ければ、それに反応して行動することにしている。先々気持ちがそぐわない同士であることにお互い気づくことになったとしても、まあそれはしかたがない。

 

 自分の経験で、ずっと永く続く人は九人に二人。あとの七人はどこかで気づいて離れていく。

 

 それが分かってきたので、気持ちに無理をかけないようにした。

 

 「聞く」というのを第一にしている、という人が、「たくさん売ろうと思ってない人はいない」と同じ口で言っているのを聞くと、そもそもあなたの言う「聞く」は、売るための手段ということかと露見する。

 

 そうじゃない。(了)