母を入居させて十日余り。早くも母は母らしさを失っていっている。短期の記憶も脱落が早い。
昨日は母の日だったので、花を届けに行った。
「わあ可愛か。」
喜んだのは一瞬。相談室における・その後の三十分の滞在の後、施設の人がついて部屋に戻る廊下で、
「息子が持ってきたっだろか。」
そんな言葉が聞こえる。
生花だったので、施設に置いておくことはできませんでした、と後で電話が掛かってきた。部屋には置いておかないそうだから、もう母は花のことは忘れているだろう。
相談室に母といて、母が自分から口にしたのは、花のことを除くと
「便所に行きたか。」
「よかとば着とるね。」
それだけにすぎない。持って行った新聞はその場で目を通しだしたので、そこは習慣になっているようだ。
こういう状況をどう見るか。母と一緒でないことで、自分のストレスが軽減されるのと引き換えに、母が段々母でなくなっていくのを許容すべきか。
それとも何らかの方法で、母らしさを維持させる努力をするか。
少し抵抗してみようと思う。
今日は母を外出させ、通院させる日。もともと通院だけでなく、施設での昼食前に連れ出し、自宅で食事を摂らせて、梅干しする予定でもらった梅に塩を振るのをさせようと思っている。
一月下旬から久しぶりの自宅だ。母がどういう反応をするかを注意深く見るようにする。
自宅に居たがるのか?それとも施設が楽でいいという態度、言葉を出すのか?
まだまだ施設が気楽でいいとは思ってほしくないが、無理をしても介護は続かない。どこかで納得しなければならない。
でも自宅にいたがる気配なら、週一でなく、週三くらい昼飯を自宅で食わせるようにしてみたい。そうであって欲しいのだけれど。(了)