西田敏行と竹下景子の二人で演じるラジオドラマ。
妻に先立たれた男。妻の作ったローストビーフ。見送った病院から帰宅すると、料理は完成している。
西田と竹下の語り口と、そのような場面設定だけで、胸の詰まる思いがする。
もし先立たれたら、その思いにとらわれると、もう何もすることができない。
ずっと前、一人暮らしだった頃、年末にスキーに出かけ、年明けに帰宅した。ドアを開けると、前の年のまま、止まった時間があった。
そんな思いは二度としたくない。
今は、どんなに外で何かに没頭して、他のことは何も頭になくっても、帰って玄関を開ければ、朝と異なった空気が動いている。自分以外に家を支配する妻の気配がある。何にも替えられない、その空間と時間の経過。
そんなことを思う。西田と竹下の二人の合力から、いろいろなことが広がっていく。それは聞く者によって、違ってくるだろう。二人が語ってくれる宇宙は、とうに原作を超えている。
これ以外のラジオドラマに満足できなくなって久しい。
自分で本を読むとき、いつしか自分で作った宇宙で、登場する人物や風景が動き出す。それは自分だけのものであって、誰かと共通する部分はあっても、決して同じ宇宙ではない。あるはずがない。
そしてその宇宙には、本のストーリーから外れている事象がいっぱいある。気持ちがそっちにとらわれてしまうことも多い。そんな本を読み終えると、言いようのない満足感にとらわれることがある。
西田と竹下のドラマは、時にそういう気持ちになる。常に満足感ということではない。経験した何かが改めて目の前によみがえってくるような感じ。
誰かに何かを話すとき、その人の想像するものと、自分の想像しているものが同じ方向を向くことがある。現在一致することもあれば、先々で一致するだろうとお互いがわかることもある。そんな時会話は楽しい。
『日曜名作座』というこの番組は、母が一番好きなラジオ番組でもある。(了)