バーンズレイクの病院から、
プリンスジョージの病院まで、
およそ400キロ。
地区の制限があるみたいで、
100キロほど行った所で、
救急車が止まった。


こんどはプリンスジョージの病院の
救急車に乗り換えるわけだ。

救急車から救急車に乗り換えるって、
すごい経験だなと思いながら、
雪がしんしんと顔にかかって冷たい。
冷たいと感じられて、生を感じる。

プリンスジョージの病院行きの救急車に
乗り換えると、男性救急隊員が語り始めた。


「キミはラッキーだ。命がある。今日は、
6件の事故があった。こういう日は、
すごく事故が起こるんだ。
あれは、2年前だったかな…続く」

とずっと話してくれた。

話しながら、救急隊員は、
ぼくの左手を握りしめ、
ガンガン採血を始めた。

20本は刺された感覚があるので、
マジでか?
隊員その話もういいから、
採血やめてくれと内心願い続ける。

気付くと眠っていて、
4時間かけてプリンスジョージの病院に
到着した。


プリンスジョージの病院に着くと、
再度レントゲンを撮る。


そして、CTスキャン。


どこに異常があるのかを調べてくれた。

街の病院で言われていた通り、
肋骨の骨折、肺、横隔膜、腸の炎症など
いろいろあるみたいだが、
一番まずいのは三箇所の背骨の欠損だ。

ここでは、背骨の手術はできないとのこと。

これからバンクーバーに救急用の飛行機で
搬送することになった。

搬送に次ぐ搬送と痛みと疲労で、
「勘弁してほしい」と懇願するが、
一生に関わることだからと、
飛行機の手続きに入る。


バンクーバーに行けば、背骨専門の
ドクターがいるらしい。

しかし、問題がある。
ぼくの身体には事故のショックでできた
たくさんの気泡があること、
そして、
胃に昨夜の夕飯や朝食が残っていること。

気泡は背中から何やらよくわからない管を
入れられて抜かれていた。

朝食は昨夜の残り物のトマトパスタだ。

とりあえず、のどが乾いたから、
水が欲しいと何度も懇願したが、
「水はダメ!」の一点張り。
なんでやねん!と思っていたら、
さらに新たな試練が…

飛行機に乗ると上空5000Mまではあがるため、
胃や腸などにすごい圧がかかる。
通常の状態なら何も問題ないが、
ぼくのこの状態だと、破裂する可能性も???

そこで、胃に残ったトマトパスタなどを
鼻から取り出すというのだ!

そんな経験したことない。
下剤とか飲んで、
下から出すのじゃダメなのか?
と拒否していると…

「これしかない!」と言われ、
鼻から胃袋までチューブを入れられる。

これはかなりキツイ。
痛いを通りこしてる。

鼻から喉にチューブが到達すると
「Swallow!」とナースに連呼される。
スワローって、飲み込めって意味だったよな?
と単語帳を思い出し、
必死に管を飲み込んだ。
飲み込みたいが、水分カラカラの喉には、
砂漠で唾を飲み込めと言われているようなもの。

飲み込むのも一苦労だ。
胃にチューブが辿り着く感触。
かなり‪不快。
そこから、胃の中を吸い上げる機械が作動。

ぼくはずっと管を飲み込み続ける。

身体中痛いのに、一番辛いのは喉。

「これは、どれくらいの時間やるの?」
と必死にナースに聞いたら、
「8時間ぐらい…」と笑顔で言われる。

さすがにここで、意識が耐えた…

8時間って、たぶん明日の朝やん!

妻の優しい声が遠くに聞こえる。
妻はどうやら病院の近くのホテルで一泊する
そうだ。

そして、妻は息子がいる以上、
バンクーバーへは来られない。

不安と孤独と、謎の「Swallow」を
唱える中、長い長い長い一生忘れられない日は、
終わった。

浅い眠りで起きながら、
「これは夢なのか?」と、考える。
何度も何度も事故の場面が、
フラッシュバックして、起きる。

皮肉にも、喉の辛さが
これは現実だと教えてくれた。