かのお笑い怪獣と呼ばれる明石家さんまが
娘につけた名前は「いまる」さん。

彼の信念である
きてるだけでまるもうけの」
が由来だそうだ。

まさかぼくもそんなふうに思うことが起こるとは…

ここからは、回想です。

朝10時過ぎ、いつものように土曜日はお買い物。
車に凍らせた水や、温かいお茶やお菓子を入れ、
2時間弱のドライブ。
食料品を買う予定。

買い物に行くことを嫌がり、車に乗る直前まで愚痴る息子の反抗期も恒例だ。


天気はグランアイルの山では、少し雪が降り始めていた。


山道を下りワイパーをかけると妻が、

「今朝、いやな夢を見たから運転気をつけてね」
「大丈夫、俺、雪道も事故ったことなから」
「みんなで車で事故にあう夢を見たの…」
「えっ?うん、気をつける。」
言われるままにスピード落として、
80キロも出さなかった。
この道は通常100〜120キロぐらい出せる、
車のない山道だ。


国道16号に降りてきた。

山よりも雪がなぜか多い。

国道ハイウェイとはいえ、二車線のみ。
すれ違う車も少ないが、
対向車線のトラックなどは、120キロは
確実に出している。

中央線も見えにくいので、
すれ違うたびに雪のドロがかかる。

いやだなと思って、中央線から離れると、
妻や息子側が谷なので、
落ちるのではないかと、
気になって我慢して中央線寄りを走っていた。

前の車に合わせて走っていると、
前の車は120キロは出している。

なんとなく固まってできた雪の轍が、
さらに中央線に寄る。
ハンドルが少し取られる。
対抗車が遠くに見えた。
このまま、氷の轍で走っていると、
中央線でぶつかる可能性がある。
だから、少しハンドルを右に切った。

そして、さらにスピードを落とそうと、
少しブレーキを踏んだ。


すると、車は何かに操られたように、
ゆっくりスピン。


もう一度スピン。


泣き叫ぶ妻の声に、ハンドルだけ強く握るぼく。
息子は後部座席だからパニックなはずだ。
ハンドルが効かずメリーゴーランドのように、
ゆっくり二回転…

二回スピンした円運動につづき、
車は3.4m下の谷につっこむ。
バンドルは効かないので、
流されるまま。

物すごい衝撃で胸を強打。
着地の反動で車が上下に一回転。

さらに、一回転半。

最後に、
着地した状態は、回転していて、
頭が下に来ている。


「出ないと!」
浅く速い呼吸と同時に、
ドアノブを力いっぱい押した。
しかしドアは開かない。

パニックの妻に息子が
「落ち着いて!」
「どこか必ず出る所がある!」
と冷静に指示している。


息子はこんな大事態でも、
大好きなコナンのようなセリフまわしだ。

妻は落ち着きを取り戻す。
「ママ、窓を開けて!」
古い車だったおかげで、
窓を開けるのは手動の回転式だった。
息子の言葉に従って妻は窓を開けたそうな。


一番に窓を這い出た息子。
妻もなんとか窓から出た。
ぼくと言えば、
息子の「落ち着いて!」の言葉に、
安心したのか、完全に記憶が切れた。