ショパン・コンクール第2ステージ、出場者皆さんの心と力のこもった熱演が続きますね!

 

ところで、このコンクールのウェブサイトを見ると、楽譜について次の一文があります。

 

While it is permitted to use the texts contained in any available edition of Chopin's works, contestants are recommended to use the Urtext in The National Edition of the Works of Fryderyk Chopin edited by Prof. Jan Ekier.

 

「どの版でも良いですが、ヤン・エキエル教授が校訂したナショナル・エディションを勧めます。」

 

エキエル版は伝統的な音と違う音が時々あり、当初、私は違和感を感じていたのですが、だんだんその音に慣れてきて、今回はかなりの出場者がエキエル版で弾いていることもあり、伝統的な版での演奏を聞く時の方が違和感を感じ始めています。

 

 

 

 

 

 

 

ウィリアム・グラント・ナボレ先生がバイオラ大学でマスタークラスをして下さった時の事を思い出します。

 

ナボレ先生は、「コモ湖国際アカデミー」という、授業料無料で、有名な音楽家のレッスンを受けられるアカデミーの、理事長をしておられます。

 

アカデミーの過去の先生方は、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、レオン・フライシャー、マレイ・ペライア、アレクシス・ワイセンベルク、アリシア・デ・ラローチャ、メナヘム・プレスラーなどがおられます。

 

生徒は世界中の応募者から7人しか選ばれないそうです。

 

卒業生の中には多数の国際コンクール優勝者、入賞者がいます。

 

そのような生徒達を指導した経験から、ナボレ先生は「ショパンはナショナル・エディションを使いなさい。」と強く勧めておられました。

 

また、「楽譜を注意深く観察すること」も厳しく教えて下さいました。

 

例えば、『バラード4番』では・・・

 

「11小節目、右手に現れる4つのE♭をショパンはすべて違うように書いている。

 

初めのE♭は前のフレーズの終わり、2つ目のE♭はフレーズの初めでスタッカートが付いて、もちろん短くドライには弾かないが、音質や音量は変わるはず、3つ目のE♭は4つ目のE♭に向かっていて、4つ目は中強拍だが同時にディミニュエンドの途中。

 

この記載通りに弾くべきです。」

 

 

 

この4つのE♭が弾き分けられるまで、学生は何度も弾かされました・・・

 

でも、そのうちに、「なるほど、この記譜はそういう意味なのね!」となってきました。

 

 

ちなみに、パデレフスキー版はそこまで詳しくありません。

 

 

 

 

バイオラ大学でのマスタークラスの後、演奏した学生達が「ナボレ先生と同じように足を組もう!」とポーズを取って写真を撮りました。

 

 

 

 

 

ところで、ナボレ先生が日本でマスタークラスをされた時の印象として、「日本には外国人の先生や海外を良く知っている先生があまりいないのかなという印象を受けた、先生方がかなり細かく言うようなので、生徒はその範囲内で演奏してしまいやすいような印象を受けた、もっと本人の意思を引き出したら良いかもしれない、 本来演奏とは自己主張があるべき。」とお話しされていました。

 

(このお話しは日本の音楽雑誌のインタビューで話されたそうです。)

 

楽譜に忠実であることと自己主張の共存。

 

ディーナ・ヨッフェさんもお話しされていた課題でした。

 

下差し

 

 

 

 

私の個人的な経験からですが、楽譜を読み込んで出てくる結論にすでに個性があり、それを演奏することが自然に、「楽譜の再現と自己主張の共存」につながると思います。

 

その自己主張は楽譜を土台にしているので、説得力が増すことになると思います。

 

 

河村まなみ