アンドラーシュ・シフさんによるベートーベンのピアノ・ソナタ「第30番 ホ長調 作品109」の講義を訳してお届けしています。
講義の合間に演奏が入るので、実際の講義を聞きながら訳を読んでいく方法をお勧めします。
講義を聞くには、こちらのウェブサイトに行き…
Beethoven Lecture Recital Part 8 を探して…
1. Piano sonata in E major Op.109 をクリックします。
あるいは、YouTubeでも聞くことができます。
今日は、第3楽章の主題について(32:28〜36:32)のお話を訳します。
さて、この楽章は私個人の見解ではベートーベンの作品中、最も美しい楽章です。
皆さんも一番好きな楽章があると思いますが、私の場合はこの楽章が一番好きです。
(形式は)主題と変奏で、6つの変奏曲があります。
主題を弾いてみましょう。(演奏32:54)
(前半が)16小節で、これを繰り返し、後半…(演奏33:26)
(後半の)16小節も繰り返します。
前、後半とも16小節で繰り返し、という左右対称な構造です。
主題はサラバンド風です。
例えばバッハのサラバンドは…(演奏34:17)そして(作品106、第3楽章主題)
(このように比較すると)ベートーベンがバッハのサラバンドに影響を受けたことは明らかだと思います。
もう一つの、皆さんよくご存知のサラバンド風の音楽は…(演奏35:02)バッハの『ゴールドベルグ変奏曲』から「アリア」です。
確かな証拠はありませんが、ベートーベンは『ゴールドベルグ変奏曲』を熟知していたに違いありません。
バッハの音楽はベートーベンの時代には忘れられ、演奏されていなかったので、もしバッハの音楽が知りたければ、図書館に行くか、個人的なコレクターで自筆譜や初版の楽譜を持っている人に見せてもらう以外はなかったわけです。
ベートーベンはこれをどこかで見たに違いありません。
作品109の最終楽章の構成は、『ゴールドベルグ変奏曲』をモデルにしたことは明らかです。
『ゴールドベルグ変奏曲』の「アリアと30の変奏曲」とは違い、作品109の最終楽章は6つの変奏曲しかありませんが、『ゴールドベルグ変奏曲』の様に、最終変奏曲が初めの主題の様なシンプルな曲になり、(音楽的に)元に戻って完結するという構成になっています。
次回は各変奏曲についての講義になります。
お楽しみに。