トランプの「日米安保破棄」

「米軍がアジアからいなくなる」

アメリカ国防権威の「衝撃論文」

いま習近平が考えていること

 

 

米軍が東アジアからいなくなる

 

不安がいや増す論文が、やはりこの3月、アメリカ外交問題評議会が発行する権威ある外交誌「フォーリン・アフェアーズ」に掲載され、日本の関係者を激震させた。ずばり、〈アメリカを守るよりよい方法―米軍を西半球で増やし、アジアとヨーロッパでは減らす〉と題するものだ。

 

 

  いま台湾有事が近いと言われる理由…「軍人60人が逮捕」「中国人妻が絶叫」 

 

「著者のスティーブン・ピーター・ローゼン氏はハーバード大学名誉教授で、軍事戦略研究で著名な『アメリカ国防エスタブリッシュメント』のひとりと言っていい人物です。 そうした安全保障の権威までもが、中国・ロシアへの対抗という文脈であっても、『技術の変化、日本やEU各国のいまの国力を考えれば、最前線に展開する米軍は削減すべき』『米軍は西半球(南北アメリカ大陸とデンマーク領グリーンランド)に戦力を集中させるべきだ』と言い出したことは軽視できません」(前出・玉置氏)

トランプ大統領 は就任早々「グリーンランドを併合する」と何度も発言したほか、3月末にはヴァンス副大統領が同地を訪れ「デンマークはグリーンランドを放置している」と述べた。こうした、日本からは支離滅裂に見える言動も、彼らは一貫した考えに基づいて「本気」でやっているということだ。「日米安保を破棄する」といったトランプ大統領の言葉を妄言とみなすのは、もはや危険なのである。 自由貿易をやめ、世界中の米軍を減らし、アメリカが北米大陸に引きこもる―そうなったとき、日本は中国と西側世界がぶつかる最前線にポツンと取り残される。中国にとってこの上ない好機が訪れるのは、言うまでもない。

今が台湾を獲得するチャンス

いまのところ、トランプ大統領は対中国で「合成麻薬の流入対策」と「相互関税」以外に目立った政策を打ち出していない。政権首脳には「対中強硬路線」を唱える者が多いとされるが、トランプ大統領自身がどう考えているかは、はっきりとは分からないのが実情だ。上智大学教授で現代アメリカ政治・外交が専門の前嶋和弘氏が言う。 「いくら周囲が具申しようと、大統領の胸三寸で政策がひっくり返るのがトランプ政権です。そもそもトランプ大統領は直近でも『日本は中国と一緒になって為替操作をしている、とんでもない国だ』と発言しており、これまでの日米関係や東アジア情勢のバランスを踏まえる気があるのかどうかさえ、怪しいほどです。 

トランプ大統領は大統領選のときに『中国が台湾侵攻をすれば、関税を200%に上げる』とも発言しています。しかし仮に中国が台湾を取りに来る場合、中国はアメリカや日本とは断交する前提でしょうから、いくら関税を上げられても痛くもかゆくもない。 可能性は高くはないと思いますが、中国側が『トランプ政権の安全保障政策がはっきり定まっておらず、東アジアが混乱しているいまこそ、台湾を取るチャンスだ』と考えるおそれも否定できません」

「12万人の避難計画」は機能するのか

前章でも記した通り、中国ではいつ軍部が暴発してもおかしくない事態が進行している。アメリカの視界から東アジアが外れたいま、日本は戦後80年で最も「戦争」に近づいていると言っていい。にもかかわらず、日本政府は台湾有事の危機に「空対地ミサイルの購入」「血液製剤の増産支援」といった周辺的な対策ばかりでお茶を濁している。唯一、具体的に見えるのが、3月末に発表した「先島諸島の住民12万人の避難計画」だが、その内容も万全とは言いがたい。有事における国民保護を専門とする、日本大学准教授の中林啓修氏が言う。 

「今回の計画は、『台湾有事の具体的な避難計画』として報じられていますが、実際には有事発生から1ヵ月ほどの初期段階だけのもので、避難民の長期的な生活保障については来年から検討することになっています。受け入れ先の自治体についても、九州に決まったわけではなく、あくまで将来受け入れ先になる自治体で必要な要領の整理が求められている、という段階です。 

難しいのは、戦火が上がる前に避難を始めること。そのためにはアメリカ・台湾、のみならず中国からも綿密に情報収集を行い、侵攻の予兆をとらえる必要がありますが、いまのところ日本政府は台湾有事の対策そのものを曖昧なまま進めています。国民にいつアラート(警報)を発するのかといった戦略を早急に練るべきでしょう」 

避難計画でさえ遅々として整えられない日本政府に、本当の危機を乗り越える力があるとは思えない。長年、「アメリカによる平和」に守られてきたツケを日本人が払わされる日は、思ったよりもずっと早く訪れてしまいそうだ。

 「週刊現代」2025年4月28日号より

 

 

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