学校プールがなくなる
多くの人が経験したであろう学校の水泳授業が大きく変わりつつあります。
学校のプールを思い切って廃止し、学校外の屋内プールを活用するケースが増加。中学校では“座学のみ”という地域も現れています。
というのも、いま学校プールは課題が山積み。全国的に施設の老朽化が進み、改修費用は億単位…。近年の酷暑や豪雨で授業ができない日も増加…。その維持管理は、先生たちが時間外勤務で行うことも…。
水難事故を防ぐためにも大切な水泳授業をどう続けるか。プールの取材からは、現代の学校を取り巻く現実も見えてきました。
(社会番組部 ディレクター 藤田盛資/岐阜放送局 記者 吉川裕基)
水泳授業は“校外の屋内プール”で
464名が通う東京都 葛飾区立白鳥小学校。ことしから学校のプールは使わずに、外部の民間スポーツクラブで水泳授業を行っています。
この日は4年生が1~2時間目を使って授業。貸し切りバスでプールへ向かいます。
車内は遠足のような雰囲気。
やや渋滞に巻き込まれつつ10分後に到着、いよいよ授業開始です。
学校で行う授業と違うのは、指導する大人の人数です。
この日は担任の先生に加え、7人のインストラクターが授業に参加。子どもたちは4グループに分かれて、レベル別に指導を受けていました。
そして、日ざしのない屋内の温水プール。
学校の屋外プールと違って、プールサイドが熱すぎて飛び跳ねたり、水が冷たくてガクガク震えたりすることはありません。
授業を受けた4年生
「バタ足やクロールがあまりできなかったのが、結構前に進むようになってうれしい。コツを教えてくれて、“頑張ろう”と励ましてくれるので、すごくできるようになった」
「学校のプールだと外だからすごく暑くて、プールサイドにいると結構大変だったけど、ここは室内でそんなに暑いわけではないから、結構楽にできる」
先生たちも“助かっている”
プール授業は昭和30年代に子どもの水難事故が相次いだことで広まったとされています。
ただ、業務が多岐にわたり長時間労働も課題になっている教員にとって、専門知識が求められる水泳授業は大きな負担。授業中に児童が溺れて亡くなる痛ましい事故もたびたび起きていました。
ある自治体の調査では、教員の4分の3が“水泳指導に自信が持てない”と回答。水泳のプロが指導に加わることは大きな助けになっていると言います。
学級担任
「僕たちも頑張って指導しようとしていますが、限界もあります。やりたいことがあっても準備が大変という面もあります。この取り組みは子どもにとってもプロの目で見ていただけてありがたいですし、僕たちにとっても指導力向上につながっています」
こうした取り組みはどの程度広がっているのか。
国や都道府県の集計はないため取材班が独自に聞き取り調査したところ、都内で2割以上の自治体が実施していると分かりました。
(島部をのぞく53市区町村のうち13。モデル事業含む)
私たちが各教育委員会に聞き取る中では「プールの老朽化は大きな波で困っている」「公共施設再編に向けた議論で話題になっている」「教員の負担軽減の1つとして重要視している」など詳しく話してくれる自治体もあり、関心の高さを感じました。
実は課題が山積!学校のプール
いまプールの見直しが進む背景には、大きく3つの理由があります。
1 猛暑や雷雨で、屋外プールでは授業を実施できない日が増えていること
2 教員の長時間労働の要因になっていること
3 施設の老朽化が進んでいること
まず「天候」。
葛飾区がまとめた近年の区内の天候からは、熱中症のおそれがある猛暑日や雷雨の日が以前より増えていることが分かります。
プール授業は6~7月の限られた期間で実施する学校が多いですが、授業できない日が増え、計画を立てるのが難しくなっていると言います。
そして「教員の負担」。
学校ではプール開きのために、全教員が参加して半日かけて掃除を行うことがよくあると言います。さらにプール授業が始まれば、毎日管理する必要があります。
プール管理を行うのは児童の登校前と授業の直前。足洗い場に水をためて塩素剤をまき、プールサイドに危険物が落ちていないか確認。掃除をして、水質検査を行います。塩素濃度と水素イオン(pH)の値を測り、基準値になるよう薬剤を投入。この学校では気温と水温も測り、合計が50~65度以内であれば授業を実施することにしています。
くわえて「施設の老朽化」。
文部科学省によると、学校施設は第2次ベビーブーム世代の増加に伴って昭和40年代後半~50年代に多く建設されました。それから約50年と更新時期を迎えつつあり、多額の費用負担が財政上の課題になっているのです。
学校プールと外部プール、どちらが有利?
葛飾区は、学校のプールを新設した場合と民間プールを活用した場合の費用を比較。学校プールは長寿命化を施して80年使うと仮定、規模は葛飾区の平均である1校421人としました。
結果は、民間等のプールを活用すると約260万円コストを抑えられるという試算でした。
検討のすえ、区は将来的に学校のプールを廃止し、徐々に学校外に授業を移行すると決めました。
葛飾区教育委員会 森孝行 学校教育推進担当課長
「プール整備には億単位の費用がかかります。一方、プールを使うのは夏場の限られた時期だけ。猛暑や雷雨のときは授業ができないという課題もあります。近年の気象コンディションや、教員の働き方改革、施設の老朽化対策などを考えると、確実に授業ができるほうに限られたお金を投資していくことが、子どもの教育環境にとって大切だと考えています」
中学校では“実技取りやめ”の動きも
さらに全国の中学校では、老朽化したプールの改修はせずに、実技を取りやめる動きも広がりつつあります。
岐阜県の海津市立平田中学校では、夏休み前の7月、水難事故を防ぐ方法を学ぶ授業が“体育館”で行われていました。
平田中学校のプールは土台が傾き、水が漏れるなど老朽化が進んで使えなくなっています。
約5キロ離れた市民プールでの授業も検討しましたが、この学校の体育教員の中には社会科を兼務している教員もいることなどから、“学校から長時間離れてしまうと時間割りが組めなくなる”として断念。ことしの水泳の実技授業は取りやめました。
この日はプールに代わって用意されたウレタン製のマットを使って、あおむけで水に浮く体勢を体験。また、川や海で活動する際はライフジャケットを着用することを教わっていました。
海津市立平田中学校 体育教員
「実際のプールで着衣泳などを学び、自分の命を守るための時間が減っているのは残念に思います。知識の部分はしっかり指導していきますが、理想を言えば、市民プールと連携して水難事故に対する知識をプールで学ぶ授業を行っていきたいです」
学習指導要領では「適切な水泳場の確保が困難な場合にはこれを扱わないことができるが、水泳の事故防止に関する心得については、必ず取り上げること」とされています。埼玉県鴻巣市も今年度から中学校のプールを廃止し、実技は実施していません。
プールを巡り、議論になった地域も
一方、学校のプール廃止をめぐって議論を呼んだ地域も。
岐阜市立長良小学校のプールは、ことし完成を迎えるまで、賛否両論さまざまな意見が交わされました。
おととし(令和2年)、岐阜市はプール建設の入札が不調に陥ったことなどを理由に、建設を中止して水泳授業で民間施設を活用すると表明。
教育委員会が保護者向けに行ったアンケートでも、過半数が市の方針に賛同していました。
一方、市議会からは、プールの建設費用を盛り込んだ当初予算案がすでに可決されている中での建設中止は「議会軽視だ」という声が上がりました。
岐阜市議会議長(当時)大野一生議員
「一方的にプール整備を取りやめる方針が示されたことは唐突感を拭えず、率直に軽率ではないかとの印象を受けた。整備するための予算の議決まで済んだ段階にあった長良小学校プールとは別途、市内全体の今後の学校プールの在り方をどうすべきかについて十分に議論を重ねるように求めた」
プールのない学校の惨めさは容認できぬ
市議会だけではなく、地域住民からも建設続行を求める署名運動が立ち上がり、運動を行った市民によると署名は1000筆を超えたといいます。
さらに、教育委員会に提出された「意見書」にはこんなことばもありました。
“区内には「民間プール」は存在せず、学区外の民間プールなどへの移動となり、負担は大きくなります”
“子どもたちの「校内プールならではの満足感」を体験させてあげられないことをご想像ください。長良の地区に「プールのない学校の惨めさ」はとても容認できません”
署名運動の中心メンバーを務めた男性(79)
「この小学校は清流・長良川の近くにある。地域が誇りに思う川の近くに住む子どもたちが水と親しみ、水を知るためにはプールが欠かせない。一度プールを作ると約束したのだから、子どもたちや住民との約束を守るべきだ」
この年の市議会では、プール建設の速やかな予算執行を求める決議が全会一致で可決。最終的に市は約2億6000万円をかけて併設する集会所と合わせて新たなプールを建設しました。
完成したプールは、屋外に合わせて5レーンと低学年用の水深が浅いレーンが設けられています。プールは教室から渡り廊下で直接つながっていて、授業はすぐに始まりました。
岐阜市立長良小学校 林則安校長
「プール建設に長い時間がかかったので、子どもたちは完成を楽しみに待っていました。隣の学校のプールを借りていたときや民間のプールに通っていたときは移動の時間が大変だった。今はすぐに泳げるので、泳ぐ時間が多くなりよかったです」
“1校1プール”は見直す時期に?
岐阜市は今後も改修や建て替えが必要なプールが増えると見込んでいます。
市内68校すべての小中学校にプールが設置されていますが、築後50年を超えたプールは現在10校。今後、プールを新築して50年使った場合にかかる費用は2億7400万円と試算しています。
市教育委員会は、当面の間は建て替えが必要になるプールはないとするものの、これまでのように1学校に1つのプールがある体制は見直さざるをえないと考えています。
岐阜市教育委員会 野田薫次長
「地方自治体を取り巻く財政状況が今後厳しさを増す中で今後も『1校1プール』を維持していくかどうか考えていく時期に来ているのではないか。今の学校の実情を皆さんに知っていただいたうえで、保護者や子どもたち、関係者に丁寧に説明をつくしながら一緒に考えていくことが必要」
大人世代が当たり前のように受けてきた教育は、学校が抱える現代ならではの諸問題や合理化のなかで変わらざるをえない状況があります。ただ、取材に応じてくれた誰もが「子どもたちにとって何がベストなのか」を必死に考えていました。
学校が変わることはセンシティブな議論を呼ぶことが多いですが、建設的な議論のために、学校や教員、そして子どもたちが置かれている現状を理解することがより大切になると感じました。
変わる学校プール
減り続ける公営プール
〜誰のための、何のためのものかを見極めた、計画的な施設整備を〜
熊谷 哲(SSFアドバイザリー・フェロー)
多くの人が親しんだであろう学校・公営プール環境は、この20年ほどの間で大きく変わってきている。先日、スポーツ庁が公表した「令和3年度体育・スポーツ施設現況調査の中間報告(速報値)」によれば、全国の小・中学校に設置されているプール施設数は約22,036か所となった。25年前の1996年からは約6千か所の減、小中学校に設置されている割合も5ポイントの減となっている。さらに減少幅の大きいのが公共スポーツ施設に設置されているプール、いわゆる公営プールで、1996年から約4割減の3,914か所となっている(令和3年度の速報値が公表されていないため、平成30年度の調査結果)。
公立の学校施設は第2次ベビーブーム世代の増加に伴い、1970年代から80年代半ばにかけて多く建設された。公営プールもまた、60年代から全国的な整備が進み、バブル期に計画・建設された80年代半ばから90年代半ばにピークを迎えた。また、子どもの数は1982年から40年連続で減少し、市町村合併や地方の過疎化、学校統廃合なども進行した。
そうしたなか、自治体や学校の現場では、急務となっている老朽化対策も含めて、どのような課題に直面しているのか。また、運用面ではどのような工夫をしているのか。この間の動向を概観しつつ幾つかの事例を紹介し、今後の方向性にも触れてみたい。
図1:「体育・スポーツ施設現況調査」より筆者作成
図2:「体育・スポーツ施設現況調査」及び「社会教育調査」より筆者作成
※点線部は、社会教育調査を基に筆者が推計したもの
○多様化するプール授業
学校プールは、そもそもすべての小・中学校に設置されていたものではなく、およそ8割程度の設置率であった。それは、学校設置基準においてプールは必須施設とはされておらず、学習指導要領に定められている必修の「水遊び(小学1年〜4年)」及び「水泳(小学5年〜6年、中学1年〜2年)」について、「適切な水泳場の確保が困難な場合にはこれらを取り扱わないことができるが、これらの心得については、必ず取り上げること」(小学校)、「水泳の指導については、適切な水泳場の確保が困難な場合にはこれを扱わないことができるが、水泳の事故防止に関する心得については、必ず取り上げること。また、保健分野の応急手当との関連を図ること」(中学校)とされ、学校規模や周辺環境に応じた判断がなされてきたからである。2015年調査時点から学校プール施設数が下げ止まっているのも、元々プールのなかった小規模校の統廃合が進む一方で、統合校での整備が一定程度行われていることを示唆している。
一方で、建替や大規模改修の時期を迎え、プール設置ありきではなく多様な観点からの検討・評価が行われ、プール授業のあり方そのものから見直されているケースも少なくない。安全確保のために複数の教員配置を行わねばならない授業編成上の難しさ、指導や維持管理に対する教員の負担感、ほとんどが夏休みを除いた6月〜9月にしか授業が出来ない屋外プールの特性、それ故に猛暑や豪雨といった天候に左右される近年の状況、学校施設のなかでも一般・地域開放が進んでいない現状などが、主な課題として挙げられる。これらに、一昨年来の新型コロナウイルス対策が追い打ちをかけている。
そうした検討が自治体レベルで重ねられ、従来通り学校にプール設置を続ける以外の選択肢としては、現時点では概ね以下の4つに集約されている。
①学校プールの拠点化・共同利用
②公営プールの活用
③民間プールの活用
④水泳授業の一律廃止
①は、近隣数校で拠点校となる学校のプールを共同利用するもので、複数校のプール施設の整備・維持が不要となることから、大幅なコスト削減効果が見込まれる。また、維持管理についても拠点校に依存することのない体制が考慮されている。
他方、移動手段や介添の確保が新たに必要となる、拠点校が屋外プールの場合に天候によっては学校間の授業調整がより煩雑になるなど、教員の負担増を招いているケースも見受けられる。
②は、公営プールを近隣数校で共同利用するもので、これも複数校のプール施設の整備・維持が不要となることから、大幅なコスト削減効果が見込まれる。加えて、維持管理は通常通りの運営者が担うことから、この点での学校及び教員の負担は解消される。また、公営プールが屋内温水プールの場合には授業可能時期が拡大するほか、児童・生徒の身体に与える負荷も軽減される。
他方、自治体内の公営プールが限られる場合、すべての学校に展開するのは現実的ではない。また、「場所借り」のみで安全管理や指導は教員が担う場合、人的配置の困難さや教員負担の軽減効果は限定的である。
③は、民間プールを近隣数校で共同利用するもので、指導・安全管理及び維持管理は通常通りの運営者が担うことから、この点での学校及び教員の負担は大きく軽減されるとともに、インストラクターの専門的な指導も受けられる。また、ほとんどが屋内温水プールのため、授業可能時期が拡大するとともに児童・生徒の身体に与える負荷も軽減される。
他方、全国的に見て民間プールは公営プールの半数以下であるとともに、存在する場所にも偏りが見られるため、恩恵を享受できるのは一部の学校に限られる。また、利用する児童・生徒の人数や回数、委託費の設定によっては、施設減によるコスト削減効果が相殺される可能性もある。
上記の通り、①〜③にはメリット(効果)とデメリット(懸念)の双方があり、どれかに方針を一本化できるのは環境に恵まれた一部の自治体のみである。実際には、自治体の実情及び環境を踏まえながら①〜③及び1校1プールをミックスさせた取り組みが現実的であり、そうしている自治体が多い。
④は、先に挙げた学校設置基準及び学習指導要領の記載を踏まえ、水遊びや水泳の心得や事故防止等については教室での座学で学ぶこととし、実技授業については廃止するものである。この数年、自治体レベルで廃止を決定したところが散見される。
○価値問われている公営プール
住民がスイミングを気軽に楽しむ場として普及するとともに、水泳競技者の練習拠点として競技力の向上に寄与してきた公営プールは、学校プール以上に淘汰の波にさらされてきた。
80年代半ば頃から急増した民間プールは、若年層の習い事、競技者の練習拠点、中高年齢層の健康増進というニーズを高めると同時に、公営プールの需要を奪っていった。また、バブル期のリゾート開発と軌を一にして90年代前半に急増したレジャープールは、バブル崩壊とともに供給過多に陥った。
加えて、公共施設の管理運営を民間法人に包括的に委任する「指定管理者制度」が2003年に導入されたこと、公共施設の長期的な保全や利活用などを計画的に進めるファシリティマネジメントの取り組みが2000年代半ば頃から本格化したことにより、利用実態の把握やコスト分析などを踏まえた管理運営の健全性が一層求められるようになった。こうした流れを振り返れば、新たな需要を掘り起こせず安定した利用者の確保も困難になり、老朽化が進むにつれて屋外プールの廃止が相次いだのも、無理からぬことと言えよう。
一方で、屋内プールについては、民間プールのない地域では貴重な拠点施設として、民間プールのある地域では競争力を保てている施設が生き残り、活用されているケースが見受けられる。屋外プールが半減するなか、屋内プールは96年調査以降ほぼ横ばい状態にあるというのも、その1つの証左であろう。また、公営プールを廃止することになっても、市民がスイミングやスポーツに親しむ環境が損なわれないような工夫がなされている自治体も少なくない。
それは、「学校プールを廃止して公営プールを新設」、「公営プールを廃止して民間プールの利用費を助成」、「公営プールを廃止して学校プールを一般開放」、「公営プールを廃止して民間スポーツ施設に転換」、「行政・民間協働事業として公営プールを建替」など、多岐にわたる。その一例として、公民連携の今日的な特徴を備えた、岡山県津山市、京都府福知山市の事例を紹介したい。
○津山市のグラスハウスの場合
2019年当時、津山市には4つの公営プールがあった。その1つであるグラスハウスは、1998年に建築の特殊性とレジャープールの特異性を備えた施設として岡山県が整備し、その後2011年に行財政改革の一環で津山市に譲渡され、営業が継続されてきた。だが、建築面積5千平方メートル超という巨大な建物が総ガラス張りのドームで覆われているという特徴的な意匠故に、維持管理に大きな負担がかかっていた。当時の指定管理料は約1億1千万円、12万人以上の年間利用者があっても収支を均衡させるのは容易ではなかった。
結果として津山市は、経常的な管理運営費に加え老朽化による多額の改修費用が見込まれることから、継続運営は困難と判断し、指定管理期間が終了する2021年3月末をもって営業終了することとした。その上で、RO-PFI方式(民間事業者が施設を改修し、改修後に維持管理・運営等を行う方式)とコンセッション方式(施設の所有権を公共主体が有したまま、独占的な運営権を特定の民間事業者に設定する方式)を組み合わせた施設へと転換。市内のスポーツ事業者が10年間の運営権を付与されて施設を全面的に改修し、レジャープールが中心だった施設は、バスケットコート、ボルタリング、50mの直線トラック、人工芝エリア、ジムトレーニングエリアなど、様々なスポーツアクティビティや健康増進プログラムに対応した空間へと生まれ変わった。上限2億6500万円に設定された改修費用は、サービス購入料として事業期間の10年間の分割で市から事業者に支払われる。事業者からは年間380万円の運営権料(当初3年間は免除)が市に収められることとなっている。
プールとして使用されていた当時のグラスハウス(津山市提供)
大規模改修しオープン後のグラスハウス(津山市提供)
特筆すべきは、そのスピード感である。19年11月に住民協議会でのあり方検討を開始すると、協議会の意見を踏まえつつ翌20年2月には見直しの方向性を打ち出し、3月〜5月には民間事業者からの事業提案を受けるサウンディングを実施。民間事業者の新たな運営方策に手応えがあり、その後は事業スキームの構築と20年度末での事業終了に向けた調整に奔走。すると、閉館翌月には新たな運営事業者の募集を開始して7月に決定、5か月間で詳細協議(契約内容、改修内容、資金調達等)を終えて11月には施設改修及び維持管理の実施契約を締結、5か月で大規模改修を行い、今年5月にグラスハウス利活用事業「Globe Sports Dome」がオープンするに至ったのである。
津山市にはグラスハウスよりも古い公営プールが、あと3つ存在している。うち1つは施設の不具合から閉鎖中となっている。だが、市民のニーズと実利用とのマッチング、持続可能な施設活用と付加価値の創造を高いレベルでまとめてきた、速やかで柔軟な判断力と高い事業遂行能力をもってすれば、必ずや良い公営プールのあり方を導くことだろう。
○福知山市のプールの場合
福知山市の唯一の屋内温水プールであり、年間約9万人弱(2019年度実績)に利用されている福知山市温水プールは、1982年に建設されてから約40年が経過して施設の老朽化が著しく、漏水の発生やボイラー設備の不調が見られるなど、あり方の検討が急務となっていた。他方、市体育協会(現スポーツ協会)が指定管理者となっている施設運営の状況はと言うと、7レーンのうち5レーンを民間のスイミングスクールに通年貸与(有償)しているのに対し、主体的かつ継続的な自主事業はほとんど見られないことから、「事実上のまた貸し状態にあり適正性に欠ける」という指摘を受けていた。そのため、2018年度末に策定された福知山市スポーツ推進計画において、「民間とも連携したあり方の検討を進める」ものと位置付けられた。
その後、2020年度にはサウンディングを実施し、民間事業者による新温水プールの設置・運営の可能性について調査した上で、PFIではない行政・民間協働事業としての大まかな事業スキームを固めた。その内容は、
・市は、事業用地を無償貸付する。また、施設基準を設定する。
・事業者は、建設費及び運営・維持管理費用のすべてを負担し、納税の義務を負う(ただし、当初3年間の固定資産税は免除)。また、市民の健康増進と市のスポーツ振興に資する施設及び運営とし、市民サービスの低下を招かない範囲内で自由な事業活動が担保される。
・事業期間は20年間とし、事業者は事業終了後に土地を原状回復し、返還する。
・市民の利用料金については両者協議の上で決定し、場合によっては市が補填(単価契約)を行う。
・学校プール授業を可能な範囲で委託化し、当該学校のプールの廃止を進める。
というもので、民設民営のプール施設に土地を無償提供する代わりに行政目的を付加し「(新)市温水プール」の看板を与える、言わば「逆ネーミングライツ」のような性格を有したユニークなプール施設となっている。
図3:(新)市温水プールのパース図(福知山市提供)
これにより、市は新たに必要となる経費を想定しても、建設費が不要となることも含めて20年間で6億円以上の財政負担減が図れると見込んでいる。民間プール施設の収益性と市中心部でのニーズの高さが相まっての事業スキームだが、公有施設へのこだわりや「施設を整備するなら、あれもこれも」という欲を遠ざけることが出来たからこそとも言えよう。この(新)市温水プールがうまく運べば、広大な市域での次なる拠点形成が視野に入ってくるかもしれない。
○住民の健康増進やスポーツ振興への価値を問え
公共施設の必要性が、意義ばかりではなく、利用状況や付加価値、受益と負担の関係に照らした経営の健全さや成果とともに評価されるようになり、プール施設も例外なく見直されてきた。それは、直接プールを使用する児童・生徒や住民はもとより、地域全体にとって望ましい結果だったと思われる。過剰な施設では、一時の満足を得られても長期的に維持することは困難で、中長期的な負担の増大が避けられず、かえって機会の喪失を招いてしまうからだ。屋外プールが淘汰され続けてきたこの20数年間は、そうした気づきを「自分ごと」に転化するために、必要な時間だったのかもしれない。
とは言え、淘汰が進むあまり、水に触れ、スイミングに親しむ環境が全く失われてしまう地域や学校が生じることは、決して望ましいことではない。水泳や水遊びに限った話ではないが、座学で理解した「つもり」になっても、現実はそう簡単に運ばない。水難事故の件数や被害者数は、この10数年横ばい状態にあり、幼少期からの実技習得の意義が失われているわけではないことも、政策担当者は留意すべきだろう。
一方で、「どうせプール整備をするならば」と言わんばかりに、大規模大会が開催可能な公認プール建設ありきの動きが未だに散見されるのも気がかりだ。住民の利用実態やニーズを踏まえずに、あるいは継続的な大会開催の見通しや競技力向上の具体的なプランもないままに、いたずらに規模を追うのは将来に禍根を残すだけでしかない。
他のスポーツ施設についても言えることではあるが、プールの整備には数十年先を見通しながら、住民の健康増進やスポーツ振興にどのような価値をもたらすのか、具体的な検討が図られなくてはならない。さらに今日的には、学校プールと公営プールを一体的に捉えながら、児童・生徒の教育機会を損ねないように留意し、学校施設の活用ないしは学校施設の外部化を図りつつ、持続可能性を担保することなどを同時に成立させる必要がある。それは、誰のための、何のための施設なのかを見極め、地域の実情を踏まえながら、あらゆる手段を個別に検討し尽くすことでしか達成し得ないだろう。それぞれの地域で真摯な検討が重ねられ、計画的かつ実効的なプール整備が進んでいくことを、役割を終えたプール施設は願わくは新たな地域スポーツの拠点として再生されることを、心から期待したい。
二番目の記事の出所は、笹川スポーツ財団。
俺が山梨で利用してるプールがこれ。自宅では、一番目の学校のプール兼用の市営プールを利用している。あぁ バイクで事故ってから、35年近く、ずっとプールでリハビリ頑張ってきた。最初は、バタ足も痛みでままならず、終わった後の反動の痛みもハンパなかった。コロナ禍のときは、プールがすべて閉鎖で、海に行ってリハビリした(泣) 。
プール=俺の命の糧 かぁ?!
エゴ丸出しで申しわけないが、なんとか「お迎え」が来る迄は ... 。
こんなところにも、国等の衰退はこういう所にも波及する。「風が吹けば桶屋が儲かる」 みんな、繋がってんだよなぁ。
去年の今頃は、右脚の患部が痛くて、ブログでも泣きを入れた。その後、今に至るまで、右脚は至って好調なだけに ... なんかなぁ、複雑な気持ちだよなぁ。
今日散歩のときクロアゲハを見た。
「おかぁちゃんだぁ。」
平成7年の夏に当地に引っ越したとき、夏みかん-故郷の甲府では夏みかんは見かけないんで、ちょっとした憧れがあった。ここを初見したとき、庭に夏みかんがあったのも、決め手のひとつだったにちがいない。静岡のおばちゃんが、ガキの頃、毎年夏みかん送ってくれたっけ-の木で、クロアゲハに出くわした。その年の5月におふくろが亡くなって、なんかクロアゲハがおふくろの化身のように思えた。毎年初夏に、甘い馨りを放つ、可憐な白い夏みかんの花に誘われてクロアゲハがやってきてくれる。