政治学者・御厨貴氏
6月上旬に時事通信が実施した世論調査で、岸田政権の支持率が最低の16.4%まで低下。国民の中には「再びの政権交代」を期待する声も出始めている。
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第一線の政治学者やジャーナリストは、その可能性をどう見ているのか。
田原総一朗、御厨貴、牧原出、久江雅彦、井上達夫の各氏が「週刊現代」のインタビューに応じた。
田原総一朗さんのインタビューはこちら:【田原総一朗が立憲民主党に喝「本気で政権を獲る気があるんですか!?」批判ばかりで満足する野党の「怠惰と無責任」】
---------- 御厨貴(政治学者)/1951年生まれ。東京都立大学教授などを経て東京大学先端科学技術研究センター教授。2012年退職、東京大学名誉教授に ----------
自民が「右派」になる日
岸田総理は、9月の自民党総裁選より前の衆院解散を断念したといいます。与党にも野党にも、「自分が国を引っ張る」という気概のある政治家がおらず、ダラダラと日々を送っている。これほど政界にニヒリズムが蔓延しているのは、日本の近代以降で初めてではないかと思います。その背景には、前回の民主党への政権交代が「大したことがない」ものだった、という感覚があるのではないでしょうか。
自民党からすれば、もし政権を取られても、どうせ2~3年もすれば取り戻せるのだから、焦って政治改革をする必要もない。自民党が内部論争を欠いた「死に体」の政党になってしまったのは、そうした野党の弱さも関係しているはずです。ただ、いずれはこうした宙ぶらりんな状況に、国民が耐えられなくなるでしょう。そのとき懸念されるのは、自民党の派閥がなくなったことの悪影響です。
「イデオロギーの時代」再来
自民党のような大きな政党は、内部にまったくグループを持たないわけにはいかない。そのとき、政策ではなく、安倍政権以降に党内で広がってきた、右派イデオロギーにもとづくグループができるのではないかと私は見ています。
ハト派と見られていた岸田総理でさえ、政権を取って以降は憲法改正についてたびたび言及するようになりました。かつての旧宏池会はそうしたタカ派的な主張をしてきませんでしたが、今はこうした意見を言わないと政権が持たないと考えているのでしょう。具体的な政策や統計の数字ではなく、イデオロギーにもとづいて自民党が動くようになると、国全体に排外主義が広がりかねない。イデオロギー論争は政策論争よりも影響力が大きく、あっという間に拡散していくものです。
1970年代前後には、自民党内で「中国をとるか、台湾をとるか」という争いがありましたが、そのような対立が令和にますます先鋭化して再燃するおそれがあります。私が注目しているのは、そのとき公明党がどうなるか。自民党がイデオロギー政党になっていけば、「平和の党」を謳ってきた公明党もそのままではいられないでしょう。しかも次の総選挙では、自公あわせて過半数前後まで議席を減らすでしょうから、国会運営が不安定になる。岸田政権が終わったあとは、数ヵ月~1年ごとに短命の政権が生まれては倒れるような、混乱の時代が始まるのかもしれません。
御厨貴(政治学者)/1951年生まれ。
東京都立大学教授などを経て東京大学先端科学技術研究センター教授。2012年東大名誉教授に。
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