受信料の節約だけじゃない

地方在住男性が実感する

『テレビを捨てて良かったこと』

「不要な情報に触れずに済む」

「無駄だった習慣を排除できた」

 

 

 

 

 かつてはどこの家にも茶の間にテレビがあり、それを一家で見るのが当たり前だった。それが、インターネットの普及によって流れは変わり、今では家にテレビがないという世帯も増えつつあるようだ。ネットニュース編集者でテレビ雑誌「テレビブロス」の編集者だった中川淳一郎氏も、いま「テレビがない生活」を続けている。テレビを捨てて1年4ヶ月、中川氏の生活や考え方にどのような変化があったのか、リポートする。

 

 

  【写真】 NHKだけ受信しない装置「iranehk(イラネッチケー)」

 

テレビ全盛時代は「新聞読むヤツはダサい」という風潮もありましたし、ネットが出てからは「テレビなんて見ていない!」と自慢する向きもありました。「何強がってるんだよ」なんて思っていたのですが、テレビを捨てて1年4ヶ月経った実感として、コレは本当に事実だと思うようになりました。テレビを失うとQOL(生活の質)が上がるんですよ。元々私は日々新型コロナウイルスの感染者数をテレビが嬉々として報じ、深刻ぶった専門家が「これはリバウンドの恐れがありますね」などと言い続けるのに辟易としていました。まったく進歩せず「まだ油断してはいけない」「もう少しの辛抱です」なんてことを3年間言い続け、呆れ果てたのです。 

元々よく観ていたのは、NHKの朝7時のニュースからの流れで『羽鳥慎一モーニングショー』、夜7時か9時のNHKニュース、そして毎週日曜日に『サンデーモーニング』でした。この程度だったのですが、とにかくNHKも『モーニングショー』もコロナ煽りが酷すぎた! 徹底的に危機感を煽り、「感染対策をしなさい!」とばかり言う。いやさ、コレ、感染対策してもどーしようもならないでしょ? 自然現象なんだけど……。日本が変わらないのであれば、自分が変わるわ~!と2023年2月、もう感染対策依存症国家・日本にはいられない、とばかりにタイとラオスへ逃亡。この時、日本が感染対策を終わらせず、感染症法上の「5類相当」にしない限りは戻らない、ということを決めて、自分をイライラさせる元凶であるテレビも捨てることにした。そしてNHKには解約手続き。これで受信料も節約できます。それから1年4ヶ月、なんとなんと、人生こんなに好転するのですか!と思っているわけです。

テレビの世界観≒リアルの世界観

 結局、コロナが5類相当になった2023年5月に日本に戻ってきましたが、テレビ不要ライフ続けていたらそちらに慣れてくる。すっかり「なんでオレはあんなもんを観ていたんだ」と思うようになりました。ニュースは新聞とネットと週刊誌で十分。何よりも良かったのが「5類になってもコロナは終わりません!」と騒動を引き延ばそうと頑張る「専門家」とやらを一切動画で見なくなったこと。不思議な感覚ですが、テレビがあった時代は「テレビの世界観≒リアルの世界観」的になるんですよ。それだけ映像というものは強い。その呪縛から解放され、私のQOLは大幅に上向いたことを実感しています。様々な好影響がありましたが、一番重要なのはコレです。 

「テレビが流す情報は、不要なものや知らない方がいいことが多い」  

色々な芸人や俳優がテレビには登場しますが、まったく彼らが誰だか分からない。元々私はネットニュースの編集をしていて芸能人には詳しいほうでしたが、新しい人々のことはまったく分からなくなりました。 「霜降り明星というお笑いコンビの粗品という人が今は人気らしい」「千鳥の大悟が今は出まくってるらしい」「かまいたちというコンビが人気らしい」みたいなことは分かるのですが、それはあくまでもネットニュースの「コタツ記事」(テレビやラジオ、YouTube、SNSでの著名人の発言を記事化すること)のタイトルを見て分かること。とはいえ、わざわざ記事を読むことはない。最低限の「○○さんという人はページビューが取れる人なんだな」という情報さえ分かれば私はいいので、ニュースの登場者に対する思い入れがなければないほど、無駄な時間を費やさないで済むのです。どうせ「○○さんがこれまでの最高月収を明かしたら『お~』と驚きの声が出た」みたいな記事でしょ? そんな情報不要。自分の月収だけ知っておけばいい。  

一方、どうでもいい情報を得なくなったため、国際情勢や政治経済など、自分の仕事にかかわる情報を得るための時間はより多く確保できるようになった。この方が仕事の効率は上がるし、イライラすることもなくなる。無駄なCMも見ないで済むし、テロップだらけの楽屋トークみたいな「騒がしいだけの絵面」を見ないでいいのも快適です。

地方在住者にとって不要な情報

 テレビを捨てることにより、「無駄だった習慣」をすべて排除できたのが最大の利点ですし、結局テレビは最大公約数に合わせる作りをするため、自分のようなひねくれ者には向いてないメディアだったんです。  

あと、もう一つポイントがあります。私は佐賀県唐津市在住ですが、佐賀って独自の局はNHKの佐賀支局とフジテレビ系のサガテレビしかないんですよ。あとは各地のローカルケーブル局ぐらいでしょうか。基本は東京のキー局が制作する番組なわけで、東京のデカ盛りメニューやら行列スポットを紹介され、野菜や果物の価格関連話題になるとスーパーアキダイの社長が登場する。 

「いや、オレ、全然この情報いらないんだけど……」としか思えなくなり興ざめします。こうしたこともテレビ離れに繋がったと思います。正直、佐賀新聞に出ている地元の人の訃報やら表彰情報の方が自分にとっては大事です。そういった意味で、地方に来たこともテレビ不要人生化を加速させたのかもしれませんね。  

まぁ、これ以上新しい芸能人を知りたいとも思いませんし、NHKの大河ドラマやら朝ドラを毎週・毎日同じ時間にスタンバイして観たいとも思わない。アマゾンプライムで名作映画はいくらでも無料で見られるし、YouTubeで魚のさばき方を見たり、1980~90年代のNBAの試合を観る方が面白い。  

なんだか中二病みたいなことを書きましたが、これが私が50歳にして到達した、テレビに対する偽らざる気持ちです。 

 

 

 

中川淳一郎

1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など多数。最新刊は『日本をダサくした「空気」』(徳間書店)。