十五年前の晩秋、十一月の末。母を連れて、紅葉の京都を訪れました。
「京都をゆっくり見たことがない」と話していた母。
いろいろな意味で衰えが隠せなくなっていた母を、旅行に連れ出す機会は、これが最後になるかもしれない。
そう思い、休暇を取って、平日に一泊二日の京都旅行に出かけました。
旅行会社に二日間の観光タクシーを申し込む際、「できれば女性の運転手さんにお願いしたい」と伝えたところ、普段は「京都検定」の講師をされている方を手配してくださいました。
母は「あぶり餅を食べてみたい」と言っていたので、今宮神社だけを指定し、あとは紅葉のきれいなところを効率よく巡っていただくことにしました。
京都の街は、どこもかしこも紅葉に彩られていました。
なかでも、真如堂と天龍寺の紅葉は圧巻でした。
畳の上に座り、色づいた木々が織りなす見事なコントラストを、心ゆくまで楽しみました。
宿は清水寺の近くに取り、夜にはライトアップされた清水寺を歩きました。灯りに浮かび上がる紅葉も、忘れがたい光景でした。
日常に戻ったとき、母は現実と夢の区別がつかなかったようです。
それから五年後、母は他界しました。
決して親孝行な息子だったとは言えません。
それでも、最後に母を旅に連れ出せたという経験が、今も私の心を慰めてくれています。
余談ですが、二日間お世話になった女性運転手さんは、実はタクシー会社の幹部で、当時はもう、気が向いたときだけ乗務されていたようです。
行く先々で、誰かが挨拶にやってきては、深々とお辞儀をして去っていく。
その様子が、今でも印象に残っています。
そんなすごい方に、二日間も案内していただけた幸運にも、感謝しています。


