08:Cambodia - 冒険心と恐怖心
遺跡巡り2日目。
今日は、アンコール遺跡大回りルートで行く。
そしてその後は、サンセットの有名なトレンサップ湖へ行く予定だ。
LALAの後ろに乗り、目指すは『プリア・カン』だ。
今日もいい天気だった。
暑い。
『プリア・カン』に行くには、バイクで通れる限界の場所からまたしばらく、密林の中の小道を歩くのだ。
ここでまた、驚くべき出会いをすることになる。
私は、本に載ってるプリア・カンについての歴史を読みながら、小道を歩いていた。
両側はすぐに密林。
朝早いためか、周りに人の気配はなかった。
しかし…
ガッサガッサガッサガッサ
右側から、草木を掻き分ける音がする。
?
と思いつつも、本にのめり込んでいたので、さほど気にせずに歩いていた。
ガッサガッサガッサ
ガサッ!
!!!!??
本より前の視界が、いきなり真っ白になった。
ばっと見上げると、なんとそこにいたのは、
巨大な 牛 。
右側の密林の中から、いきなり出てきたのだ。
小道が塞がる。
さーーーっと、血の気がひいた。
牧場で見る牛は、なごやかで可愛いもんだ。
でも違う。
こんな密林の中で、逃げ場は後ろしかない、しかも周りに人はいない。
そんな状況で、巨大な野生(?)動物に会うのは、恐怖以外の何でもない。
昔テレビで見た、牛にツノで突かれて空高く飛んで死ぬマタドールの映像が頭をよぎる。
そのまま、十秒ぐらいその牛と睨み合っていたと思う。(すごい長く感じた)
目を背けたら確実にやられる そう思った。
しばらくして、牛はまたガッサガッサと左側の密林へと消えていった。
………ほっ……
手汗でシワが付いた本をかばんにしまって、全速力で遺跡まで走った。
よかった…ジャングルで牛に突かれて死にましたーなんて、完全にギャグだもんね?オイシイけど。
その後は続いて、
『ニャック・ポワン』→『東メボン』→『プレ・ループ』を見て周った。
この頃から、私のひとつの遺跡見学に対する所要時間は、どんどん増えていっていた。
遺跡の中でぼけーーっと座り込むことにハマりだし、気が付けば2・3時間経っているのだ。
だから毎回決まって、LALAを探すのにも時間がかかる。
「LALA--ッ!!!」
と叫びながら探しても、遺跡の周りにはいない。
まぁ大抵は、どっかの売店のハンモックなどで寝ていた。
『プレ・ループ』から帰ってきて、やっと見つけ出したLALAを起こして「次行くよー!」と言うと、
「もうちょっとだけ寝かして…ごはんとか食べてて…」と子どもみたいなことを言うので、
仕方なくその売店でご飯を食べることにした。
暑さと遺跡への興奮で、あんまりお腹は減ってなかったハズだが、
チキンライスとココナツジュースをがっつり平らげた。さすが私!と思った。
そうしてアンコール遺跡の見学が終った後、
寝起きでふらふらしてるLALAのバイクにまたがり(大丈夫か)、
トレンサップ湖へ!
30分くらいか?かなりの距離を走ったと思う。
夕暮れは本当に、綺麗な湖なんだろうな~~とワクワクしていると、
なんだか分からない建物の前で降ろされた。
建物には、「トレンサップ湖、ボート・チケット」というようなことが書かれてあった。
え?ボート乗るの??普通に見れないの???
一応中に入ると、白い服を着た現地の人が7・8人いた。
値段を聞くと… えっ!高い!30ドル!?無理無理!!!
そう言って、やっぱ良いですって帰ろうとすると、
そこにいた全員が笑い出した。
「高い?これが高いっていうの??日本人のお嬢ちゃん♪」
「他の日本人はほいほい払ってくよ~」
そんな風に言って、私のことを小馬鹿にしてゲラゲラ笑っていた。
実に、不愉快極まりなかった。
バンッ とカウンターを叩いて、しーんとしている全員に一瞥をくれてやり、その建物を後にした。
外でLALAが待っていた。
見るなり、「チケット買えた?」と聞いてきた。
「買ってないよ。高すぎる。」と答えて、
「もうトレンサップ湖はいいから、とりあえずアンコール遺跡に戻って。今日もずっと遺跡巡りにするよ。」と言った。
「なんで怒ってるの?」とLALAは聞いてくる。
イライラを説明できるほどの英語力はなく、黙っていると、
「OK、でも、アンコール・ワットまではまた長い距離を走る。だから追加で僕に13ドル払ってね?」
と言ってきた。
は?なんで?
「最初に、3日間は専属だって、約束したよね?なんで追加で払わなきゃいけないの?絶対嫌。」
「ガソリン代とかかかるじゃん」
「だから、それも踏まえての3日間契約でしょ?」
「払ってくれないなら、アンコールには行けない。」
「なんで?第一、ここからチェンラーまでの帰り道の途中にあるんでしょ?アンコール・ワットは。何で行けないの?それともなに、最初から帰り道に追加料金とるつもりだったの?」
そんな風に散々モメた。
さっき、「すぐ金を出す日本人」と罵られたばかりで、私も感情的になっていた。
最終的に、チェンラーGHに戻る、ということで落ち着いた。
今思うと、寝起きに無駄足でイライラするLALAの気持ちも分かるが、
お客様第一の日本人の考え方からすれば、やっぱり腑に落ちない点は多々あった。
チェンラー到着。まだ昼の3時。
物事は前向きに捉えなくっちゃな!
シェムリアップのマーケットでお土産ショッピングでもしよっと♪
そう思ってLALAに別れを告げると、
「これから暇でしょ?何するの?夜一緒にBARにでも行かない?」
と誘ってきた。
こんのイロオトコ。
冗談じゃない。
もちろんお断りした。
荷物を全部部屋に置いて、お金とi-podだけを持ってオールド・マーケットに向かった。
チェンラーから一本道だったため、地図は必要ないと思った。
しばらくマーケット内を散策して、
カンボジアシルクのスカーフや、アンコールビール柄のプリントTシャツを数枚買った。
おしゃべりしながらの値切り交渉は楽しかった。
それからそれから、カンボジアといえば…やっぱ食べたいものがあった。
パンプキン・プリン!!!
名物屋台らしい、と本で読んだ。
ずっと探してたが見つからず、Tシャツを買った店のおばちゃんに聞いてみた。
「この通路を真っ直ぐ進んで、右にあるよ!」
と教えてくれた。
そのとおり、店は発見したのだが…
「ごめんね、今日は完売しちゃったの。」 と。
…ショック!!!
食べられないと分かると、よけい食べたくなるものである。
絶対にまた来るぞ!と心に決め、マーケットを出た。
その帰り道に、可愛らしいタイ料理レストランを発見。
お店の人は、女の人5人くらいで、わいわいテラスでお喋りしていた。
客はいないみたいだった。
入ってみると、なぜだか大歓迎された。
タイ風チャーハンと、ブドウジュースをいただいた。
よく話しかけてくる、可愛らしい店員さんたちだった。
その夜、部屋に戻ると、やっぱりまだそこに張り付いたままだった。
大トカゲ君。
「やぁただいま。」
いつの間にか仲良しになった気がした。
暇だったので、明日行く郊外の遺跡の勉強をはじめた。
と、ここで、衝撃の事実を知ることになる。
明日行く予定のいくつかの遺跡には、まだ地雷が残っているということ。
郊外はずっと人気のない山道が続くため、信用のおける旅行会社のタクシーをチャーターするべきだということ。
最近、遺跡内でのレイプ事件が多発しているということ。
そして、山賊に遭遇する可能性もあるということ。
…さ、山賊!?うわ、すごい!ちょっと会ってみたい!!!!
…じゃ、なかった。
すごいリスク高いじゃないか!!!
カンボジアに行くって言ったときの母親との約束は、"地雷未撤去地域には行かないこと"。
LALAに絶対の信頼があるわけではないということ。しかも前科アリ。
自分が一応、女だということ。力がないということ。
そしてきっと山賊は、私が思ってるほどカッコいいもんじゃないということ。
本の中の、郊外の遺跡に対する魅力的な文章と
リスクが付き纏うという赤文字の警告文とが。
無事に帰ることが大前提だという理性と
スリルを求める冒険心とが。
ざわざわ ざわざわ 頭の中で揺れた。
どうする?わたし、
ざわざわ ざわざわ
こんな時は決まって、恐ろしい妄想しかできないものだ。
少しだけまた、緊張で手足が震えてきていた。
そんな時だった。
フッ
急に電気が 消えた。
え?
停電だった。
完全な、真っ暗闇だった。
ドタドタと、数回転びながら、扉の方向へぶつかっていった。
ドアノブをさがして、必死になる。
たくさんの人が泊まってるはずのGHなのに、ドアの向こうからは物音一つしない。
なにが起こったの???
ドアノブを見つけ、ガチャガチャと引っ張った。
開かない!!!なんで!!????なんで!!!!!!
恐怖でいっぱいいっぱいになった。
ジェイソンの殺人シーンとか、カンボジアGH内での従業員によるレイプ事件の記事とか、スマトラ沖大地震のこととか、ちっちゃい時押入れに閉じ込められたこととか、ここにはいざって時頼れる人が一人もいないということとか、GHの幽霊のこととか、
そんなことがいっぺんに頭に浮かんだ。
落ち着け、落ち着け。
本にあっただろ、アジアでは停電はよく起こることだって。
落ち着け、とりあえずベッドに戻れ。
じっと、明かりがつくのを待った。
目はまったく慣れなかった。
しばらくして、明かりがついた。
ほっとした。
天井のトカゲは、微動だにしていなかった。
なんだか、自分を、ものすごく恥ずかしいと思った。
ただの停電に、強烈なボディブローをくらったのだ。
あたしは、何も知らない。
まだまだ、何も知らないんだ。
本物の恐怖ってのが、どんなものなのか。全然分かってない。
そんなんだから簡単に、ただの冒険心と天秤にかけるなんてことが、出来てしまうんだよ。
明日の、郊外の遺跡は、
リスクの高い場所は、避けよう。
きっとまだ、時期じゃないんだ。
恐怖に怯えて尻込みしただけじゃないか と言われれば、そうかもしれない。
けれど私は、
自分の身を守るために当然の判断をしたのだと、胸を張って言える。
自分を守ってくれるのは、自分しかいないのだ。
大切なのは、判断を誤らないことなんだ。
郊外の遺跡には、今回は、縁がなかった。
たったそれだけのことだ と。
私が下した判断こそが、運命だったんだ と、 結局はそういうことなんだ。
いつかまた、もっと強くなって此処へ戻ってくる。
そうすればいいんだ。
(2008/02/19 26:03) in Siem Reap/Cambodia











