仮題『小さな奇跡と大きな愛で』


暑い夏が始まる。そして恋も・・・・・・2005年。


俺の名前は前籐行洋。都内で一人暮らしをしてるのだが、ひょんなことに一週間前からルームメイトがいる。女ならいいものの男だ。よく喋る男だ。自分のことをベラベラと喋る。


一週間前・・・・・・・。行洋、本屋に行く。そこで男と出会う。店員に大きな声で話し掛けている。

「ねぇ、ねぇ、この本ある?この『青い空と僕』っていう本なんだけど」。

その男は、赤いキャップをかぶり、タンクトップに短パンの夏男だ。紙切れを店員に見せて話し掛けている。

店員「ですからお客さま、お客さまの求めてる本は当店では取り扱っていません。申し訳ございません。」

その男はそれでもくい付いた。あるはずもない本に。だいぶ前に廃版になっている。何十年も前に世にでていた本だ。なぜ、そんなにその本に対して詳しいのかって?行洋はその男とこの所に向かう。

「あのぉ~、その本もってますけど」

行洋はその男に話し掛けた。

「えっ?」

男の目は瞬時に俺のほうに向けられた。

「えっ?持ってるの?」

さらに男の目に力が入る。
「持ってますよ。書店で手に入れるのは難しいですよ。廃版になっていますから。」

店員はあとはあなたに任せますといわんばかりに、その場を去っていった。

「お願い!その本を売ってちょうだい!!」

男は俺にしがみついてきた。


それから二十分後、気が付けば二人は俺のマンションの前に立っていた。

「すげぇーマンションだなっ」

男の開いた口がふさがらない。自慢のマンションを誉められるとうれしいものだ。玄関を開け廊下をわたるとリビングがある。

リビングの奥に寝室と書斎の二つの部屋があり、ほとんど書斎にこもっていることが多い。なぜ、男が今俺の家にいる? 普通、今さっき出会った人を家に呼ぶか? そう思う人が大半だが、今の俺はおかしいのかもしれない。毎日ほとんど家にいる。書斎で本を読んでいるか、部屋の片隅にあるパソコンをさわっているかだ。刺激がほしかったのかもしれない。でなければ話し掛けないし、ましてや家に呼んだりしないはずだ。別に呼んだつもりはないが・・・・

「すげぇー、すげぇーじゃん!チョ~広いじゃん」
そういいながらズケズケと部屋の奥まで入っていく。いつのまにか例の本も見つけてやがる。

行洋「ねぇ、どうしてそんなに必死でその本を手に入れたいの?」

男は黙ったままでいる。黙々と本を読んでいる。さっきまでうるさかった男の存在はなくなっていた。

「この本売ってくれる?いくらで売ってくれる?」

男はそう言いながら、ポッケからお金を出してきた。あきれた。その金額は324円しかなかったのだ。所持金がそれだけしかないのに書店に行っても買えるはずもない。

行洋「・・・・あげるよ」
男「えっ?いいの?ほんとにいいの?」

行洋「うん、いいよ。俺が持ってるよりいいかもしれない」

男「ありがとぉ」

気が付けば、日が暮れていた。
その日から毎日家にくるようになった。はじめは話の多いやつだとしか思わなかったが、慣れてきたせいか俺自身もよく話すようになった。彼の名前は比部木淳26歳。俺と同じ年だ。新たな日々が始まった。