大熊玄『善とは何か 西田幾多郎『善の研究』講義』を読んで | 杉原学の哲学ブログ「独唱しながら読書しろ!」

善とは何か: 西田幾多郎『善の研究』講義

 

やさしく解説してくれていながら、内容の深みはしっかり維持している、本格的な講義の書。

高尚に思われがちな西田哲学が、読了後にはちょっと身近に感じられる。

西田の思想に沿いながらも、ところどころ入る著者のツッコミが、読者に安心感を与えてくれるのがよい(笑)。

プラトン、アリストテレス、カント、ヘーゲルら西洋思想の影響を見るのも面白く、西田が和洋の思想を統合しようとした軌跡としても興味深い。

思った以上にヘーゲルの影響が大きく見えるのも、やはり近代化に邁進する明治という時代のゆえだろうか。

個人的には、西田の考える幸福観には共感するところが大きい。

「最も深き自己の内面的要求の声」に従うというのは、カント的な道徳観に近い気がするが、それを「内なる自然」と捉えれば、人間は環境としての「外なる自然」と、魂としての「内なる自然」との統合、調和を目指す存在なのかもしれない。

けっこう分厚い本だが、著者がまさに山岳ガイドのように「もう少し歩いたら休憩地点ですよ」「ここは少し大変ですが後は楽ですよ」と導いてくれるので、読者としてはそれがとてもありがたかった。

著者の講義を直接受けてみたくなる一冊。