校正という仕事がある。
要するに、
原稿の誤りを正す仕事である。
僕はこれまで、
けっこうこの校正の仕事をやってきたのだが、
ある時こんなことがあった。
その会社ではかなり重要な書類を扱っていて、
1ヵ月くらいの短期の仕事だったとしても、
最初の4日間ほどが研修の時間に割かれる。
研修を担当する男性社員も、
文字通り「冗談ひとつ言わない」
真面目な雰囲気のおじさん。
確かに校正の仕事をするのには、
こういうタイプの人の方が
合っているのかもしれない。
その部署では、
ひとつの書類の校正が終わったら、
その書類を担当者に渡して、
次に取りかかる書類をもらう、
というような仕組みになっていた。
校正の仕事ではよくあるパターンである。
さて、長い研修が終わり、
実務にもようやく慣れてきた頃のことである。
ひとつの書類の校正が終わり、
担当者にそれを渡しに行った。
ちなみにその担当者は、
研修をしてくれた
あの真面目なおじさんである。
僕が書類を渡すと、
彼はなぜかその書類ではなく、
僕の後ろに並んでいた
男性の股間のほうに目をやった。
そしてこうつぶやいた。
「チャックが少し開いていますね」
男性は突然の指摘にとまどい、
「あ、全然気づきませんでした……!」
と恥じらいながら慌ててチャックを上げた。
……っていうか、
どこを校正しとんねん!!
確かにそれは「誤り」であり、
「正す必要がある」かもしれんけど、
「いま言う必要はなかった」はずだ。
あんまり長く校正の仕事をやっていると、
ちょっとした「違和感」とか「誤り」とかを、
そのまま放置しておくことが
できなくなるのかもしれない。
あなたの周りにも
校正の仕事をしている人がいたら、
くれぐれも気をつけていただきたい。