けっこう風情のあるお蕎麦屋さんがあって、
そこで大きなワンコが飼われていた。
僕はその前を通るたびに
ワンコののんびりした感じに癒されていたのだが、
先日その前を通ると、少し様子が違っていた。
いつもワンコがいた場所の脇に、
きれいな花がたくさん飾られているのである。
もしかして、と思ってよく見てみると、
小さな張り紙にメッセージが書かれていた。
それはワンコからのメッセージだった。

もうけっこうな年だとは思っていたが、
なんと16歳というご長寿犬だったとは。
ラッキーという名前も初めて知った。
「とても幸福な犬生でした」
という言葉になんだかほっこりさせられた瞬間、
「そういえば」と思い出したことがあった。
数年前の夏の暑い日、
ラッキーが水の入った桶に後ろ足をつけて、
至福の表情を浮かべていたことがあった。
そのいかにも「悦楽」といった表情に、
僕は思わず写真を撮ったのだった。
そうだ、あの写真をラッキーの家族にあげよう。
翌日、近所の写真屋さんでプリントして、
蕎麦屋さんに持って行ったら、
ちょうどみなさんひと休みしていた様子で、
写真を渡すとものすごく喜んでくれた。
実はラッキーの写真は意外に撮っていなくて、
もう長くないと分かってから急に撮りだしたとのこと。
だからこういう元気な頃の写真は
すごく嬉しいと言ってくれた。
そして聞くところによると、
なんとついこの間の5月20日に、
めざましテレビの「きょうのわんこ」で
ラッキーが紹介されたそうで、
すぐにお店のテレビで録画を見せてくれた。
きょうのわんこ
http://www.fujitv.co.jp/meza/wanko/4364.html
その放送の翌日に、ラッキーは亡くなったという。
しかも、家族がみんな揃っているタイミングを見計らったように。
ちゃんとみんなに思い出を残して、
しかも迷惑をかけないようにとでも思っていたのか。
とても賢いワンコだったのだろう。
テレビを見て、「かわいいですね!」とか、
「ラッキーに会いにお店に行きたいです!」とか、
多くの人が連絡をくれたらしい。
そのたびに、「実は翌日に亡くなったんです…」
と伝えるのがとても申し訳なかったという(笑)。
と、そうこう話しているうちに、
僕はなぜかアイスコーヒーをごちそうになって、
帰りにはジュースまでいただいてしまった。
ご家族の方々と話していると、
ラッキーがいかに愛されていたかが
実によく伝わってきた。
「とても幸福な犬生でした」という言葉は、
本当に、ラッキーの心からの言葉だったに違いない。

「悦楽」の表情のラッキー