都知事選と自殺予防 | 杉原学の哲学ブログ「独唱しながら読書しろ!」
僕は大学院で、
「自殺予防」をテーマに修士論文を書いた。

その中で、
「人と人とのつながりの喪失」こそが
自殺多発社会の温床であり、
そのつながりを再構築することが、
長期的視点における自殺予防になることを論じた。

「人と人とのつながりの喪失」には
さまざまな要因があるが、
ひとつには社会の資本主義化にともなう
核家族化、さらには単身世帯の増加がある。

そのような社会の中で、
若者世代と年配世代の交流もまた
失われてきたことは言うまでもない。

今回の都知事選の結果については
さまざまな意見が交わされているが、
僕はこの「世代間の交流が失われたこと」が
この選挙結果に反映されているように思う。

年代別の投票の傾向を見れば、
「若い世代ほど石原氏を拒否し、
 年配の世代ほど石原氏を支持」
という構図が明確である。


$杉原白秋オフィシャルブログ「独唱しながら読書しろ。」


東京の未来を左右する選挙で、
その未来を担う若者の意志が
反映されないというのは皮肉だが、
これこそが「世代間交流の喪失」がもたらした
結果ではないかと僕は思う。

もし世代間の交流がもう少しあれば、
若者の「石原はナイ!」というような考えや思いが、
年配の人たちにも自然と伝わっていたのではないか、
というような気がするのである。

なぜなら、ふだんから交流を持ち、
たがいに信頼関係を築いているとすれば、
年配の人たちは自然と
「未来の日本は、若い人たちがつくっていくものだ」
というふうに感じるのではないだろうか。
実際そういう人はたくさんいるように思う。

しかしふだんから交流がなければ、
若者が何を望んでいるのか、
どのような意志を持っているのかということを、
年配の人たちは知るよしもない。
結果として、「今まで通り」ということになる。

僕は今回の選挙のこととは全く関係なく、
若者と年配の人たちはもっと交流すべきだと考えてきた。
それは自殺予防という考え方からもそうだし、
なにより年配の方が持つ貴重な「生きる知恵」を、
若者はしっかり継承しなければならない、
と思っているからである。
大きく言えば、それは日本の伝統的なものを
次の世代に引き継いでいくということでもある。

その中で、年配の人たちは自分たちの役割や出番を見出し、
より生きがいを感じられるようにもなるだろう。
つまりこのつながりはどちらが得をするというものではなく、
「ささえあい」の関係なのである。
そのためのきっかけのひとつとして、
僕は「隣人祭り」の普及などを論文の中で提案した。

組織票のことなど他にいろいろ要因はあるだろうが、
これからいい社会をみんなでつくっていくためには、
同じ世代同士のつながりだけでなく、
世代を超えたつながりをいかに再構築するか
ということが欠かせないだろう。

もっと言ってしまえば、
それはご先祖さまと僕たちの関係、
僕らの子孫たちと僕たちの関係を、
もういちどとらえなおすことでもある。

だから僕はまず、
自分も含めた若い人たちには、
「身近なおっちゃんおばちゃん、
 じーちゃんばーちゃんと仲良くしようぜ」
ということを言いたい。
もちろん、そのために家族との交流を
大切にすることは言うまでもない。

それは「選挙の結果を左右するため」
ということではなく、そのプロセス自体が、
僕たちの毎日を楽しいものに
してくれるように思うのである。