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『鎌倉殿の13人』で、これまであまり確立されていなかった源実朝像が出来上がったように感じます。
孤独で、繊細で、力及ばずとも、何とか正しいことをやろうと模索しているイメージ。
そこで思い出したのが、太宰治の『右大臣実朝』。
従者の目からみた実朝が描かれています。
「太宰治の魅力は、何を描くかではなく、どう描くかにある」という批評を読んだことがあるのですが、
ラスト、鶴岡八幡宮の大階段で起きる悲劇は、『吾妻鏡』からの引用のみ。
構成の潔さが良いですね。
さて、本書は太田光さんによる太宰治アンソロジーです。
タイトル通り、『人間失格』とは違うタイプの作品が並びます。
『かちかち山』のような古典のパスティーシュも良いですが、特に『駆込み訴え』は出色。
キリストとユダというテーマ選びの時点で成功しているのかもしれませんが、途中まで語り手を明かさないミステリー仕立ての構成(しかもたった数ページ)、同性愛の匂いを漂わせながら、憧れと憎しみ・正気と狂気の狭間を行き来させている表現力が素晴らしいです。
ほかにも、ほのぼのとした家族ドラマの感さえある『ろまん灯籠』や『富嶽百景』など、太宰治の明るい一面が感じられます。
また、太田光さんが太宰治に向けた「いいから、書き続けろよ」というメッセージ。
創作という職業に身を置き、苦しんでいる人だからこその台詞で、優しいですね。