手術2
手術翌日
朝からお兄ちゃんに実家まで迎えに来てもらって、母と3人で病院へ向かった。
アタシが第二の両親だと思っている伯父さん&伯母さん(母方の長女。)が同行してくれると言って、病院の入り口で待ち合わせしていてくれた。
ICUの面会時間は11時~12時なので、10時に待ち合わせて喫茶店でお茶を飲んでから行くという事になっていたのだ。
アタシは、この日帰るので大きな荷物を病院へ持ってきていた。
荷物が邪魔なので、伯母さん達には先に喫茶店へ入っていてもらい、自分は父の病室(一般)へ荷物を置かせてもらいに行った。
父さんの様子がどうしても気になり、面会時間まで待てず、一人ICUの入り口に向かった。
まだ面会時間前なので、中には入れさせてもらえないのだが、様子だけは教えてもらえるだろうか・・・という思いでICUのインターホンを鳴らした。
『おはようございます。○○の娘ですが、父の様子を・・・・意識は戻ったのかという事と、脳への影響はあったのか、詳しい説明は面会の時でいいので、とりあえず簡単に教えてもらえますか?』
そう聞くと看護士さんは、
『はい^^
意識もしっかりしていますし、手足も動きますよ。
今、咽に入れていた管を外したばかりなので、まだ声は出にくいですが、面会の時には声も多少出るかと思いますよ。』
と優しく答えてくれた。
しつこいアタシは、
『意識がしっかりしているという事は、自分の名前などの認識も出来るという事ですか?脳障害は無いという事でいいんですか?』
と聞き返すと、
『はい^^大丈夫です。
脳への障害はありませんでした。』
と言ってくれた。
アタシは、
『有難うございました面会時間になったらまた来ますので、宜しくお願いします
』
そういってICUを後にした。
土曜日でシーンとしている廊下を、
両手をぐっと握り、
小さくガッツポーズを作って『よしっよしっ
』と言いながら歩いた。
上がって来るときと違い、こんなに足って軽かったっけって驚くほど足が軽く感じた。
喫茶店へ向かい、待っていた母さん達に、
『今上に行ったついでにICUで聞いてきたよ!!
脳の障害は無いって!!』
そう伝えると、母さんも伯母さんも伯父さんもお兄ちゃんも喜んでくれた。
11時になり、再びICUへ向かった。
いよいよ父さんとのご対面だ。
手術後は麻酔から覚めていなかったから、これが本当の術後の対面。
色んなチューブやらなんやらと付けられた父さんは、うっすらと目を開けていた。
母さんとアタシとお兄ちゃんとベッド脇に立って、交代に父さんに話しかけた。
母 『私・・・・分かる長い時間頑張ったね・・・』
父 『とも子か・・・・』
父の目から涙が溢れ、長い睫毛が涙で一杯になっていた
私 『陽子だよよく頑張ったね
』
父 『陽子か・・・・・』
声は小さくかすれかすれの声だけど、酸素マスクに耳を近づければちゃんと聞き取れる程の声だった。
陽子か・・・と言いながら、右手をゆっくり出してきた。
手にも色々付けられているので、親指しか触れなかったけど・・・
母 『良次もこっちにきてやって・・・』
そういうと、父さんが
『良次か・・・・』
兄は一歩下がったところで父の顔を見ていたが、父さんが『良次か・・・』と言うと、
普段は絶対に泣かない兄が、目を真っ赤にして、目頭を押さえて、
『生きとってくれて良かった・・・』
と言った。
まだまだ術後間も無いので傷が痛むようで、合間合間に『痛てぇ・・・・痛てぇ・・・・』って顔をしかめた。
面会時間もあるし、長く居ても父さんが疲れると思い、母さんが
『また来るでね。もう時間だからいくね・・・』
というと、父は涙を流し、まだ居て欲しいという目で見てきた。
後ろ髪引かれる思いだったけど、面会時間が迫っていたので、ICUを後にした。
次面会できるのは、夕方18時30~19時の間の30分間だけ。
半日もあるので、お兄ちゃんと伯母さん達は帰っていった。
アタシは、どうしても夕方の面会でもう一度父さんに逢ってから帰りたかったので、半日病院で待っている事にした。
母さんは、『私も付き合うわ』といって、半日病院の待合室で時間を潰した。
手術日前日。
結婚してから初めて実家に泊まった夜、母さんが言った。
『こうしてると、娘に戻ってきたみたいだね』
と。
向き合って座り、じ~っと顔を見て喋ってくる。
とっても嬉しそうだった。
手術当日は緊張の一日で、最終日は静かな土曜日だった。
土曜日の静かな待合室で母さんが、
『昨日はもの凄い長い一日だったけど、こうしてみると、あっという間の3日間だったね・・・
今夜から暫くは一人だね。』
そう寂しそうにいったけど、どうすることも出来ないので、
『頑張ってね』
としか言えなかった。
夕方18時30分にICUへ向かい、父さんの顔を見に行った。
母さんが、
『もう夜だよ。一日過ぎたよ陽子が帰る前に、もう一回来てくれたよ
』
そう言うと、父はまた手を出してきた。
朝と反対側に立ったのだが、こっちの手は何も付けておらず、手を握ることが出来た。
手術室に入る前にも手を握って送り出したけど、その時の力に負けないくらいの力で握ってきた。
『痛いけど我慢してね日に日に良くなるから、それまでの辛抱だから頑張ってね
』
そう言うと、父は
『そうか・・・・・』と言った。
いつまでも手を離さない父に母さんが、
『いつまで居ってもきりがないで、陽子も新幹線の時間があるで、もう帰るでね。』
そう言うと、父はまた涙を流した。
『陽子・・・・ありがとな・・・・敏(旦那)にも有難うって言っておいてくれな・・・』
そう言ってさらにギュッと手を力強く握ってきた。
涙の父をICUに一人残して出てくるのが辛かったけど、ぐっとこらえて出てきた。
病院で母と別れ、一人新幹線の乗り場に向かった。
心配だけど、あとは日にち薬だからね。
そう思いながら名古屋をあとにしました。
続く