僕が以前に放射線治療をしたのは2015年の8月だったから、今回は約6年ぶりになる。
前回は再発予防のための術後照射で、2グレイ×25回だった。
当時の日記を読み返すと、ちょうど術後抗がん剤のアブラキサンの副作用で爪が剥離し、両足の親指の爪が歪んで生えたことによる陥入爪に苦しめられていたことが綴られていた。
治療はハーセプチンの13クール目だった。
そして放射線治療が終了してから半月後、僕は東京へ単身赴任の旅に出ていったのである。
そう、あの頃はまだ体力もあり、仕事をバリバリとやっていたんだっけなぁー。。。
当時のことはこのブログに載せてあるので、興味のある方は「放射線治療」で検索してくださいね。
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さて、放射線治療は前回と同じく治療計画CT(位置決め)から始まった。
前回は患側である左胸や鎖骨窩など広範囲に照射したので、胸を中心にベタベタと子供の落書きのようなマーキングをいっぱいされたけど、今回は後頭部にピンポイントで照射するだけなので、マーキングは左右鎖骨の間に数字の1の字を書かれただけで済んだ。
前回と違ったのは、シェルと呼ばれる頭部を固定する器具を製作したことだ。
<型取りの様子>
目をつむっていたからあまりよく分からないけど、人肌程度に温められたネットを顔全体にかぶせ、技師さんが目や鼻の窪みに合わせて指でネットを押して、丁寧に型を取っていく。
冷めるとこれが固まって、自分専用のシェルができるというわけだ。
このシェルによって顔をバチンと台に固定されると、身動きどころか目だって開けていられなくなる。
僕は左後頭部に腫瘍があり、まっすぐ上を向いて寝ることができないので、首を少し右に傾けた姿勢で型を取った。
ま、気分は虫取り網に捕らえられた昆虫だね。
治療計画CTは約30分程度で終わった。
1週間後、人生で2度目のリニアックの1回目の照射が始まった。
靴を脱いで台の上に横になると、技師さんが天井から発射されている1本の細い緑色の光の筋と、僕の体の左右鎖骨の間にマーキングした数字の1の字に体を合わせた。
右手にコールボタンを握らされ、左手の指にパルスオキシメーターを装着すると「ピッピッピッピッ」と、僕の心拍に合わせて電子音が鳴り始めた。
そして先日作ったシェルを顔にかぶせ、台にしっかりと固定されるともうあとは目を開けていられない。
テレビでストッキングを顔にかぶって引き上げると、とてつもなく面白い顔になるのを見たことがあるが、時にはこちらも目や鼻、唇がめくれ上がった状態で固定されるので、相当面白い顔になっているに違いない。
吹き出さない技師さんの忍耐強さに感心する。
ウィーンというモーター音がして台が右や左、足が上がったり・・・という感覚がして、これはもう何かライド系の乗り物に乗ったような気分だった。
そしてパタン、パタンと言う音がしたと思うと、ビーという音とともに放射線が放射される。
放射は1分程度で終わり、台がニュートラルポジションに移動を終えると、すぐに技師さんがシェルを外しにきてくれる。
これをあと14回繰り返すのだ。
ただ寝ているだけで痛くも痒くもないのだが、やはり放射線を浴びているというのは気持ちのいいものではない。
照射直前のパタンパタンという音が聞こえてくると、
(もしかして放射線の出力設定が間違っていて、僕の脳が一瞬にして蒸発するのでは?)
などという妄想に怯えて鼓動が早くなったりする。
前回は2グレイ×25回、今回は3グレイ×15回。
グレイと言う単位は放射線の吸収量を示す単位だが、何グレイ浴びると死ぬのか調べてみた。
<人間が全身に一度に大量の放射線を浴びた場合に起こる障害の具合>
出典:放射線について考えよう。
0.25グレイ以下・・・臨床的症状はなし
0.25グレイ以上・・・リンパ球の一時的な減少
0.5グレイ…骨髄の造血機能の低下が起こり、血球の供給が止まる
1グレイ・・・10%程度の人が放射線宿酔(めまいや嘔吐など)を起こす
1.5グレイ以上・・・死亡する人が出る
死亡原因は、1週間後から以下のような障害が数週間続いた場合で、
・ 造血機能の低下
・ 白血球が減少するために抵抗力が低下する
・ 血小板が減少するために出血が多くなったりする
3~5グレイで50%、5~7グレイで90%、7~10グレイでほぼ全員が死に至る。
僕は1回あたり3グレイを照射しているのでこの表によるとまあまあの高出力であることが分かるが、全身ではなく、頭のピンポイントに照射しているから上記のような症状にはすぐにつながらないのだろう。
残りあと5回になったが、左後頭部の腫瘍は縮小傾向にあり、痛みも劇的に軽減した。
強いていうなら患部が少し痒いくらいなもので、これを調べるまでは「放射線って魔法の光のようだ!」って思っていたのだが、最終的には45グレイを吸収することになるのだから扱いを間違えるとやっぱり恐ろしいね。
以前僕が書いた記事に、
「音楽家の坂本龍一さんが中咽頭がんになったが、反原発運動をしている立場から放射線治療を拒否する」
・・・なんていう報道を鵜呑みにして記事にしてしまったけど、今回改めて調べてみると、ご本人はそのような発言を否定されていて、どうもあれはスポニチのガセネタのようでした。
事実確認が十分ではない、いい加減な記事を公表し、その後、修正も撤回もしないマスコミの姿は昨今では珍しくないのかもしれませんが、情報を受け取る我々も気を付けなければなりませんね。
僕も拙いブログですが、情報を発信する際には出典を明らかにするなどして気を付けるようにします。
僕が書いた坂本龍一さんの以前の記事は、追記・修正しておきました。