前回は犬回虫のお話を書いたが、今回は停留睾丸について。
これは犬だけではなく人間の男の子にも普通にあり得る病気なのだが、睾丸というのは胎児期にお腹の中で形成され、生まれてくる直前に陰嚢(袋のことね)に下りてくるのが正常な動きらしい。
しかしこれが全部、若しくは途中までしか下りてこなかったり、2つあるうちの1つしか下りてこない状態を「停留睾丸」と言うのだ。
去勢・・・については賛否両論あると思うが、犬の場合、将来繁殖を希望しないのであれば睾丸を取ってしまうのが一般的なのだと言う。
残したままにしておくと、ホルモン由来の病気・・・前立腺や会陰ヘルニアなどの病気に、結構な確率で罹患するらしい。
とは言えまだ悪くなっていない正常な体の一部を予防的に取り去ってしまう・・・というのは倫理的に抵抗がある。
妻は妻で、「彼の子供が見たいな・・・」なんてメソメソしている。
望んでも子供を授かることができなかった我が家では、正常に子供を産める機能があるにも関わらず、これを人為的に奪い取ってしまうことには強い拒否反応がある。
とはいえ、いつまでも結論を先延ばしにしておくわけにもいかない。
彼が大きくなればそれだけ手術創も大きくなるし、麻酔だって効きにくくなるようで、彼の身体的な負担は年齢とともに増すばかりだ。
去勢手術は普通、生後6ヶ月前後で手術するらしく、犬回虫でお世話になった獣医師さんにぐりぐりと触診してもらったところ、彼は睾丸が1つしか下りてきていないことが判明した。
「停留睾丸」なんて病気は僕も今回のことがあるまでまるっきり知らなかったのだが、停留睾丸は放っておくと高確率で「精巣癌」になるリスクファクターなのだ。
睾丸がこのまま下りてこなければ開腹手術をすることになるのだが、言うまでもなく陰嚢(袋)をちょっと切って睾丸を取り出すのと、切腹するのとでは明らかに侵襲の度合いが違う。
「下りてくるのをもう数ヶ月待ってみましょうか」
という獣医師さんのアドバイスで今日まで先延ばしにしていたのだが、この度めでたく本来落ち着くところに睾丸が下りてきたようだ。
彼はもうすでに生後9ヵ月になっていた。
「どれどれ・・・」と、無遠慮に彼の股間をまさぐって確かめる妻だったが、僕は睾丸を乱暴にまさぐられるのがどれほど不快なものかを知っているだけに、じっと耐えている彼を気の毒に思った。
獣医師さんは、「これだったらいつでも手術できますよ」と言うので、残念だけど、彼には僕と同じ病気にさせたくない一心で去勢手術を受けさせることを固く決意した。
人間と同じく術前検査を行うらしく、7月初旬に手術の予約を入れた。
人・・・いや、犬一倍怖がりな彼を手術台に送りこむのは心が痛むが、手術が無事に終わり、またやんちゃな彼の姿を見られることを祈っている。
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さて、次は僕のお話。
前回からこの1ヶ月の間も、体調は悪くはなかった。
フェソロデックス+イブランス療法で薬剤耐性ができ、CEAが上昇傾向になったことでリュープリンの注射が加わったけど、これも今回で9回目になった。
これが功を奏したのかCEAは基準値近くまで下がり、頭皮下のメタは自分でも驚くほど縮小した。
時折痛んだ頸部リンパ節も腫れなくなり、左後頭部に至っては仰向けで眠れないほどの痛みもあったが今はまるで気にならない。
もちろんホットフラッシュや倦怠感、体力や性欲の低下・・・など、やはりホルモンをいじっているだけあってホルモン由来と思われる副作用は感じるが、騒ぐほどのものはない。
今回のCEAは6.7で、前回よりも微増していたけど誤差の範疇と言えるものだった。
いつものとおり3分間診察で終わるのかと思ったら、教授先生から唐突に「BRCAを調べてみんか?」とお話があった。
かつて遺伝子診療科を受診したことがあったのでBRCAと聞いてすぐにピンときたが、なるほど、教授先生はやっぱり僕に遺伝子パネル検査を受けさせたいのだな。
前回お断りしたところ、「他の先生とも相談してみるよ」とおっしゃっていたが、あれからホントにカンファレンスをしてくれたのかもしれない。
教授先生のことは大嫌いだが、医師としての腕は深く信頼している僕は、教授先生が2度も勧めてくれた話なので今回は何も考えることなく即座に快諾した。
教授先生曰く・・・。
「君は男性乳がんだから、遺伝子の異常が強く疑われる。」
「遺伝子を検査することのメリットは、その結果によっては治療のオプションが一つ増えることだ。(たぶん、リムパーザのことだと思われる)」
ここで遺伝性乳がんについて、僕自身の勉強のためにも整理をしておこう。
参考にしたHPは「駒込病院 スタッフコラム」だ。
乳がんになる原因のうち、「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」という遺伝性腫瘍が強く関係しているものは約5~10%と言われている。
HBOCだと、
○ 男性乳がんになる可能性・・・1.2~6.8% ※一般の方と比べると6~12倍
○ 乳がんになる可能性・・・40~90%
○ 両側乳がんになる可能性・・・40~60%
○ 卵巣がんになる・・・10~60% ※一般の方と比べると8~60倍
らしい。
僕の癌がHBOCかどうかは、BRCA1(17番染色体)、BRCA2(13番染色体)という遺伝子を調べることで分かる。
僕の両親からこの遺伝子を引き継いだ際、父親のものか母親のものかどちらかの染色体がうまく機能していないことで、HBOCを発症しやすくなる。
今回僕が遺伝子パネル検査を受け、僕の癌がHBOCだったとすれば、リムパーザは保険が適用される。
遺伝子検査は普通の採血でできるが、問題はお値段。
自費だったら20万円ほどかかる検査だが、リムパーザが使えるかどうかを調べる目的で、かつ
・ 乳がんで抗がん剤治療歴がある
・ HER2陰性で再発若しくは手術不能の乳がん
だったら、これも保険が適応される。(3割負担で6万円ほどかな)
リムパーザの副作用は、吐き気、貧血、疲労感。
お値段は、
・ リムパーザ®(オラパリブ)錠150㎎ 5932.5円/錠 (※ 2018年8月時点)
これを1日4錠飲むのだから、5932.5円×4錠×30日=711,900円!
高額療養で後から返ってくるとしても、調剤薬局で一気にこれだけ払ってる人なんてまずいないんじゃないかなぁ。(うちは、限度額適用認定証を使っていません。)
教授先生は続ける。
「逆にデメリットはね・・・。」
僕にHBOCの体質があるということは、僕の家族や血縁者にも同じ体質を持っている可能性がある・・・ということだ。
一般の方よりも乳がんや卵巣がんになるリスクが高いため、専門的な検査を定期的に受けることで早期発見や予防につながる可能性がある。
ただね、遺伝的な体質で普通の人よりも乳がんや卵巣がんになるリスクが高いという心理的な不安は一生涯ついて回る。
これから結婚しよう、子供を作ろう・・・なんて時に、癌になるリスクが高いと分かっていれば、普通は躊躇し、いったんは立ち止まるはずだ。
場合によっては、大切なものを失ったり(婚約者とか)諦めたり(子供のこととか)する可能性だってある・・・というのは、考え過ぎだろうか。
教授先生が言うデメリットというのは、そういうお話だった。
だからこの検査を受ける前に、一度カウンセリングを受けてみてくれ・・・というので、その場で予約を取ってもらった。
診察のあとはいつものとおり外来処置室で、
○ ランマーク・・・51回目
○ フェソロデックス・・・28回目
○ リュープリン・・・9回目
の注射を打ってもらい、
イブランスは27クール目に突入した。
病院からの帰り道で、
「もしも僕が遺伝性の乳がんだったら、この事実を家族に伝えるかどうか」
で、妻と軽い口論になった。
妻は伝えるべき、僕は伝えないと主張した。
口論はエスカレートし、
「僕の家族に絶対伝えないといけないと言うのなら、僕はこの検査を止める。知らなかったほうがよかったってこともあるんだぜ。がんの早期発見につながる・・・と言うようないい話ばかりじゃないの。わかる?」
と。
とりあえず素人同士がやいやい言い合っていても仕方がないので、カウンセリングを受けるまで一旦休戦にしたけど・・・。
みなさんなら、どうしますか?
伝えますか?やめときますか?