僕の大好きな医師の一人に腫瘍内科医の勝俣先生がいる。
なぜ大好きなのか・・・と言うと、先生のお話はきちんとしたエビデンスと豊富な臨床経験に基づいて理路整然としており、かつ難解で専門的な医薬品学のことを素人にも分かりやすく教えてくれるからだ。
故に先生のお話には、「怪しい」とか「おかしい」とか「ほんとかな?」といった不審の念を抱かせる要素が全くない。
かつて先生の患者さんの中に、きちんと治療すれば完治すら見込めたはずの初期のがん患者さんが標準治療を拒否し、代替療法に走ってしまったことを後悔してから、エビデンスのない怪しいがん治療に警告を発し、標準治療の正しい知識の普及に力を注いでいらっしゃる。
勝俣先生はこれまでにもコラムや本をたくさんお書きになっているけど、僕は数年前に「医療否定本の嘘」という本を読み、そのレビューもこのブログでご紹介させていただいた。
今回は満を持して、「最高のがん治療」という本を、
・ 津川 友介先生(UCLA助教授/医療データ分析の専門家)
・ 大須賀 覚先生(アラバマ大学バーミンガム校助教授/新薬開発の専門家)
と一緒に出版された。
ツイッターで大きく評判になっていたのを知って早速購入し、読了してみると、これは癌を扱った本の中でも最新のエビデンスに基づいたものすごく分かりやすい良書だと感動した。
僕の拙いレビューで申し訳ないのだが、現在ステージⅣである僕の視点と体験も含め、是非ともご紹介させていただきたい。
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5年前の針生検で僕の左胸に癌があることが確実になった時、そして手術後の病理検査で腋窩リンパ節にたくさんのメタがあったことが分かった時、僕は深い悲しみのどん底にいた。
妻は妻で心配し、彼女なりに勉強してくれたのだろう。
「ここに行って一度話を聞いてみて・・・」と言って渡されたパンフレットは、いわゆる代替療法(自由療法)のクリニックのものだった。
癌初心者の僕は自由療法(医師が行う樹状細胞ワクチン療法など)がなんたるものかも知らなかったが、一目見てパタンとパンフレットを閉じた。
治療費のお金の単位が違う。。。
「人命は地球より重い」と言った総理大臣もいたが、どう考えても僕の命に数百万円もの値打ちはない。
妻は「お金の問題じゃない」と言い張ってケンカにもなったが、治療に数百万円掛けるくらいだったら、これから病状が進行して動けなくなった時に後悔しないような生き方にお金を使いたい。
日本で当たり前に行われている治療を精いっぱいやっても死ぬんだったら、それは僕の寿命ってものだ。
妻とは初婚だったが世間よりも遅い結婚で、僕に癌が見つかった時には結婚してからまだ5年しか経っていなかった。
仕事ばっかりしていた僕たちは、望むばかりで旅行すら実現させることもなく、さらにお互い子供を授かるような年齢でもなかったので、今死んでしまったら妻とのいい思い出が一つも残らない。
遠隔転移はほぼ確実と言う最悪の病理結果だったので、体が満足に動く今のうちに、「やりたい」「行きたい」・・・そう思っていたことにお金を使うことにし、現にこの5年間、それを可能な限り実践してきた。
これまで旅してきた写真はプリントアウトしてアルバムにしてあるし、お芝居の公演では必ずパンフレットを買った。
将来ベッドの上で寝たきりになったとしても、楽しかった頃の思い出をすぐに引き出せるように、セカンドブログにも丁寧に残してきた。
もう、これでいつ死んでも・・・少なくとも妻との思い出作りという点では後悔はない。
いやぁ・・・どこに行っても君との旅は楽しかったよ。
あの時妻が持ってきた自由療法を拒否し、ただただ命を長らえるためだけに莫大なお金を使わずに済んだのは、間違いなく正しい決断だったと思っている。
しかし本格的な癌患者になって治療のことをあれこれ調べるようになると、標準治療以外のいろんな情報を目にするようになってきた。
冒頭にあげた代替療法の自由療法(医師が行う標準治療以外のもの)の他にも、医師の資格がない者が行う民間療法・・・、中には金の延べ棒で擦って邪気を払うといった宗教がかったようなものから、積極的な治療を行わずに「放っておく理論」なんていうものまで目にした。
ステージⅣの進行癌という治らない病気になり、唐突に自分の生死と嫌でも向き合わざるを得なくなったようなメンタルの時には、医者ではない者からでももっともらしいことを言われれば、例えそれが加持祈祷のようなインチキ治療だったとしても容易に信じ込んでしまうのだろう。
それが医師の肩書を持つものだったらもっとたちが悪い。
(続く)