フェソロデックスは進行再発乳がんの治療に用いられる閉経後のホルモン療法で、最初は2週間に1度、3回目から4週間に1度に左右の中殿筋に打つ筋肉注射である。
以前の記事から書いているように、僕は2019年6月25日に初めて打ってから9月17日に5回目の注射を打ったところだ。
僕の場合、薬剤由来の副作用はあまり感じないが、どうやら「硬結」という副作用が現れ始めたようだ。
ビビリが故に勉強熱心な僕は、当然フェソロデックスの副作用の予習も怠らなかったが、この「硬結」というものがどういうものかはよく分からなかった。
読んで字の如く注射部位が硬くなるのだろう・・・くらいの想像はついたが、「硬くなったところでだから?」くらいにしか思っていなかった。
字引によると、
「一般に柔らかい組織が、炎症やうっ血、充血などで硬くなることをいう。組織損傷による出血、炎症、組織変性などによる急性期の硬結と、治癒後の硬結があり、後者を瘢痕という。」
とあった。
前述したように注射は中殿筋に打つので、打った痕がどうなっているのか直接目で確かめることができないけど、少なくとも手探りで触る分には特に異常は感じていなかった。
ところが先日、何気に横になって皮膚をピンと張った状態でお尻に触ってみると・・・。
えっ?硬い・・・しかもぎょっとするほど広範囲に。
お肉が豊富にあるお尻だから立ったまま触っても感じられないけど、横になって直接筋肉に触れるとよく分かる。
硬結といっても蚊が刺した周りがプクッとふくれるくらいの範囲かと思っていたが、なんのなんの。
指三本分くらいの幅で硬くなっていた。
もちろんこんなことは初めてで、思わず「これが硬結かー」とうなってしまった。
ただ、「だからなんなの?」という思いは変わらないが、ほっておくと硬く緊縮した筋肉が血管や神経を圧迫し、痺れや凝りなどの症状が現れるらしいというので、これからは注意して見守ることにしよう。
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2017年に「油性注射剤における筋肉内注射技術と硬結発生の実態に関する調査」という論文に、これまで明らかではなかった硬結の実態調査が発表されているのを発見したので、かいつまんでご紹介しておく。
〈薬液の注入速度と温度について〉
○ フェソロデックス投与アニュアルで推奨されているように、多くの看護師が、
・ 21Gの注射針(採血と同じくらいの太さ)を使い、
・ 薬液を体温で温め、
・ 1~2分かけてゆっくり注入し、
疼痛を軽減するやり方を行っているので、、薬液の注入速度や温度は硬結発生に関連していない可能性が把握できた。
〈針の刺入深度について〉
○ フルベストラントは注射部位(お尻)の圧迫を防ぐため、お腹を下にして打つことが多い。(90.7%)
○ 刺入深度の不足を防ぐため、
・ 皮下脂肪の薄い「クラークの点」「ホッホシュテッタ―の部位」の選択
・ 長い針の使用
・ 皮膚を伸ばして90度での刺入
・ 患者の体形に合わせた刺入深度の微調整
が行われていて、硬結予防につながる適切な技術が用いられていた。
〈注射部位〉
○ フェソロデックス投与アニュアルで推奨されているように、皮下脂肪が薄く、中殿筋に針が届きやすく、神経や血管の損傷の可能性が低い「クラークの点」を選択する看護師が一番多かった(66.7%)。
○ 「クラークの点」ばかりに打つと硬結の発生につながりやすいが、どこに打ったとしても硬結は発生するので、第2選択肢である「ホッホシュテッタ―の部位」へ打つことができるようトレーニングしておく必要がある。
〈筋肉内注射による硬結の原因〉
○ 薬剤が筋肉に届いておらず、皮膚に注入されたために炎症を起こした。
○ 同一部位に筋肉注射が繰り返された結果、組織が挫滅して感染した。
○ 薬剤が油性粘液で注入後に拡散しにくいため、注射部位反応を起こした。
〈注射時のケア〉
疼痛緩和と安楽促進のために、以下のケアをしている施設があったが数は少ない。
○ あっためる(1施設)
○ 冷やす(3施設)
○ マッサージする(3施設)
○ 呼吸法(5施設)
マッサージの方法は、「注射前、若しくは注射後に円を描くようなマッサージを行う」もので、3施設中、2施設で硬結が見られなかった。
〈調査結果〉
○ フェソロデックス筋肉注射による硬結は、54施設中30施設(55.6%)で発生していた。
○ 患者の体形(やせ型、標準型、肥満型・・・)は関係なく、治療開始から3か月以降の患者に多かった。
○ クラークの点に打つ看護師が多かったが、注射部位を変えるだけでは硬結の完全な予防にはつながらない。
○ 硬結予防のためのケアは、ごく少数の施設でマッサージくらいしか行われていなかった。