先日、食べログに載っていたオムライスが有名なお店でオムライスをいただいた。
ケチャップライスの上に乗った楕円形の形をした卵にナイフを入れると、とろーっと半熟卵が流れだす・・・というよりも、僕は昔ながらのしっかり焼いた固い玉子のほうが好きだ。
元々生卵が苦手な僕は、すき焼きやざるそばに添えられる玉子は割らないし、親子丼ぶりを頼んでもわざわざ「玉子は固めで」と言って注文する。
玉子ごはんなんて生まれて一度も食べたことがないし、生卵をごくごく飲むロッキーの姿を見ると気持ち悪くて身震いがする。
ここのオムライスの玉子が固いことは、口コミなどでリサーチ済みだった。

お店は昔ながらの古びた感じがする昭和の食堂で、オシャレなカフェなどとは対極の位置にある。
少し遅めのお昼だったので空席が目立っていたが、無愛想なおばちゃんによって半強制的に相席にさせられた。
宣伝をしなくても客が並ぶようなお店には、よくあることだ。
それよりも僕の後から入ってきた二人組みのおばさんが、となりでタバコを吸い出したのには閉口した。
目の前の妻も僕と同じことを考えたのだろうけど、一瞬店内をぐるっと見回して諦めた。
そんなに広くないお店だったので、「席を変えてください」と言うのが憚られたし、それを無愛想なおばちゃんに言うのも気が引けたのだ。
食べログの評価どおり、僕が子供のころに母親が作ってくれたような大きなオムライスには大満足だったが、おばさんの無愛想さとタバコの煙だけは残念だった。

 

この時代、なぜ禁煙にしないのだろう。
「昔ながらのお店だから、きっと今までのやり方を変えたくないのだろうね」
と、妻とそんなことを話しながら帰路についた。

偉そうに言ったが、ついこの間まで僕も喫煙者だった。
タバコをやめたのは2013年7月16日だからちょうど5年目になる。
この病気がきっかけではなく、時代が喫煙者の肩身を狭くしたのに息苦しさを感じたからだった。
この1箱で最後、この一本で最後・・・と思いながらもずっと禁煙できなかったが、病院の禁煙外来に通っていたにも関わらず、なかなかタバコをやめれなかった僕は、医師からすさまじく怒られてようやくやめることができた。
いい年齢をした大人が、他人に目一杯叱られるまでやめられないっていうのは情けない話だ。

タバコ・・・やめることができて本当によかったと思う。
○ 歯が白くなった。
○ 息が臭くなくなった。
○ 部屋がニコチンで黄ばむことがなくなった。
○ 持ち物が減った。(タバコやライター、携帯灰皿など)
○ お小遣いが減らなくなった。
○ 吸える場所を探さなくてもよくなった。
○ わずかな休憩時間に、慌てて喫煙所に駆け込むようなことがなくなった。
○ 他人の目を気にしなくてもよくなった。
○ 痰がからまなくなった。
ざっと思いつくだけでもこれだけの恩恵を受けた。
もちろんこれだけではなく、実感がなくとも肺がんになるリスクは年々低下しているのだろう。

反面、恐ろしいなって思うのが禁煙中によく現れた「1本お化け」だ。
「この1本だけ吸ったら絶対止めるから・・・」という呪文を唱えると、頭の中はこの1本お化けでいっぱいになり、容易なことでは解放してくれない。
この1本お化けは、禁煙から5年経った今でも時々僕の中に現れる。
もちろんかつてのような強大な力はないけれど、ストレスが溜まっていたり、イライラしている時に現れる一本お化けには未だに注意しなくちゃいけない。
これまでに1本でもタバコを吸ったことがある人は、「禁煙」に終わりはなく、生涯禁煙を続けなくちゃいけないってことを肝に銘じるべきだ。
禁煙に「成功した!」なんていう言葉はないのだ。

我が部署は、僕以外みんな喫煙者だ。
タバコを止めた僕に気を遣ってくれて、車の中や飲食時に目の前で吸うようなことはなくなったが、ごくたまに「1本吸ってもいいすか?」みたいに許しを乞われることがある。
「いや、だめだよ。」
と言いたいけれど、これからの人間関係を考えるとそこまで言えず、
「いいよ、いいよ」
と言いながらも、彼らがタバコを吸っている間は顔を背け、できるだけ煙を吸い込まないように息を止めている。
しかし服や髪の毛(僕はヅラだけど・・・)にくっついたタバコの匂いの忌々しさは、かつての僕が分からなかったように、喫煙者には絶対に分からないのだろうね。

そんな我が部署でも、喫煙者の全員が最近流行りの電子タバコに切り替えた。
普通のタバコとどう違うのか、吸ったことのない僕にはまるで分からないが、匂いはほとんどしない。
そして彼らがタバコを吸い終わった後の、ドブのような口臭も気にならなかった。
匂いや煙たさが気にならないほどなら電子タバコに異論はないが、火の点くタバコで言われるような副流煙の害悪はどうなんだろうね。
残念ながら匂いはなくとも扱いはほとんど火の点くタバコと同じで、喫煙できない場所で電子タバコは吸っちゃいけないようだ。

15世紀にコロンブスが持ち帰ったタバコは、かつて頭痛薬扱いだったのに、今では国際がん研究機関によってはっきりと「グループ1(人に対する発がん性が認められる)」に認定されている。(※ 「無煙のタバコ製品」も認定されているので、きっと電子タバコもアウトなのだろう。)
本人だけならまだしも、「受動的喫煙環境」もグループ1に分類されているので、もはや臭いをガマンするだけでは済まないのだ。
我が国の刑法には他人に危害を加える行為として、「傷害」「暴行」「殺人」などの罪があるけれど、発がん性物質を人為的にまき散らすのは、立派に他人の法益を侵害しているのではないだろうか。

吸う人の権利と吸わない人との権利がぶつかった時、公共の福祉を優先すると言うならば、明らかに吸わない人の権利が優先されるのではと思うのは僕だけだろうか?