診察室に入った先生は、縦隔リンパ節生検の病理結果を見ながら僕にこんな話をしてくれた。
 

○ 胸腺(胸腺癌?胸腺種?)を疑って縦隔リンパ節生検を受けてもらったけど、病理結果を見ると、99%乳がんからの転移に間違いないと思う。
○ CEAが22.5まで上昇したのもこれが原因だと思われる。
○ 乳がんからの縦隔リンパ節転移は珍しいことではないが、遠隔転移(ステージⅣ)になるので残念ながらもう完全に治ることはない。
○ 今後の(延命?共存?)治療のことだが、PET-CTや胸部・全腹部の造影CT、骨シンチ、胸のX-Pなどの検査をしてきたが大きな所見はなく、自覚症状もないようなので今から強い副作用のあるケモを使うことは考えていない。
○ しかし、男性乳がんに効果のあるホルモン療法であるTAMは効かなくなっているので、薬はAI(アロマターゼ阻害薬)のLET(フェマーラ)に薬を変えてみることにする。
しかし、これは本来なら閉経後の女性に使う薬であり、これが男性乳がんにも効果があるというデータはほとんどない。(ついでにいえばLETの男性への投与は保険の適用外になる可能性があるとのことだった。)
○ 乳がんは進行が遅いのですぐに命に関わるというようなことはないが、今後は年単位でゆっくりと病状が進行していくだろう。
また場合によっては、月単位で急激に悪くなる可能性もある。
○ なのでもしこれから新しく事業を起こすというような長期的な計画がある(僕にはそんな遠大な計画はないけど)のなら、今後のことを考えながら人生設計をしてほしい。(ん?これって軽い余命宣告か?)
○ 今後は2〜3ヶ月に1回、血液検査とCTで経過観察をしていこうと考えている。

 

というようなお話しだった。
そばで一緒に先生のお話しを聞いていた妻はしくしくと泣きだしてしまったが、僕はもとより転移・再発は覚悟の上だったし、天寿を全うすることはできないだろうなと思っていたから初発時の宣告のような動揺はない。

 

しかし妻は違った。
しゃくりあげながら、
「先生、新薬とかテレビで見たような薬でなんとか癌を消すことはできないんですか?」
と涙ながらに訴えるが、
「具体的にどんな薬があるの?」
と、日本では数少ない腫瘍内科医の中でも有名な教授先生に聞かれても答えに詰まるだけで、返って泣き声が大きくなってしまった。