2014年4月23日のことだ。
外来処置室に「ピョコン」と現れた先生は、上半身裸のままベッドに腰掛けている僕の左胸と右胸を念入りに触診し始めた。 
男が男の胸を真剣にこねくりまわしている場面を想像してもらえば分かると思うが、周りから見れば相当面白い光景だったに違いない。
先生はなんとも思っていなかっただろうが、僕はなぜだか、
(先生、僕が男でごめんなさい。)
と心の中で詫びていた。 

それからベッドに横たわった僕の胸にたっぷりと液体状のゼリーを塗り、乳エコーに移った。
僕の胸の上で何度かプローベを操作すると、画面に腫瘍のようなものが画面に現れる。
先生が機械を操作して大きさを図ると、どうやら2センチ強くらいあるらしい。

「うーん、これじゃあよく分からないなあ。たいちさん、今日時間ありますか?できればこのまま注射器で細胞を吸い取って検査に回したいんだけど」
「んーーー、今日は時間が・・・(もごもご)」
と言ってその場からすぐにでも逃げ出したかったのだが、ここは腹を決め、
「大丈夫です(涙目)」
と、40歳のおじさんが初めて病院で男を見せた。

先生は周りの看護師さんに「ABCやるよー」と声を掛けると、まさか男の僕にABCをするとは思っていなかったのだろう。
看護師さんが急にばたばたと動きだして、「ABC、ABC」と慌てて準備を始めた。
ABC?・・・そのときは分からなかったが後で調べてみると「穿刺吸引細胞診」のことだった。 

乳に注射を打つという未知の恐怖。
僕は覚悟を決めたが、とてもじゃないが針先を見る余裕はない。
先生がプローブと針先を持ち、さらに機械を操作してエコーの画像を見ながら穿刺すると、看護師がゴム管でつながったシリンジのポンプを、
「1・2・3・4・・・・」と声を出しながらシュポシュポと動かす。
穿刺した時の痛みはほとんどなかったのだが、
(早く終わってくれー・・)
と、ベッドの上で握りこぶしを作り、額に脂汗をかきながら耐えていた。

ようやく針を抜いてもらってやれやれと思っていたのも束の間、なにやらプレパラートを見ながら先生と看護師がひそひそと話をしている。
(まさか!)
と思ったが、非情にも「採り直し」と言うことになった。
(この野郎・・・)
と泣きそうになったが仕方がない。
もう一度胸への注射という恐怖に耐えることになった。
 ただ先生が上手だったのか細い注射針を使ったのか、2回とも心配していたような痛みは感じなかった。

この日の検査はこれで終わった。

そしてその一週間後の2014年4月30日。
先生のいる外来診察室に検査結果を聞きに行くと、 結果はクラス3。
つまりよく分からなかったらしい。
先生はクラス1や2であれば経過観察でいいと思っていたようだが、3だったらさらに検査をしてはっきりさせる必要がある・・・と言った。