2015.7.23(木)
前回の記事でふれたように、「がんの専門医から見て、僕の病気がどれくらい珍しいのか」という僕の興味から、セカンドオピニオンを受診することになった。
選んだ先生は、僕が通院している病院のがん化学療法認定看護師さんのオススメで、とある市民病院の腫瘍内科の先生だ。
ネットで少し調べたところ、数々の論文を発表され、日本のみならず国際的にもご活躍されているようだ。
この日は12回目のハーセプチン投与の日でもあったので、点滴を終えるとすぐに車に乗り、セカンドオピニオンを受ける病院へと向かった。
14時30分、指定された診察室に入るよう看護師に促された僕は、軽い緊張感と共にドアをノックした。
先生は50歳くらいだろうか、黒々とした髪の毛に丸っこい童顔をしていて、ニコニコしながら僕を迎えてくれた。
温厚で話しやすそうな雰囲気だ。
診察室は多分先生が独占的に使っているのだろう、背中にあった大きな書棚にはたくさんの医学書が並んでいる。
また机の上にはまだ手を付けられていないドーナツが置いてあり、忙しくて食べる時間もないのだろうかと、考えてしまった。
先生はこれまでに何百回とこなしてきたであろうセカンドオピニオンを、講演活動で鍛え上げられた落ち着いた口調で、ゆっくりと分かりやすく説明を始めた。
「今回、男性には珍しい乳がんのセカンドオピニオンということですが、私は乳がんだけを診ているわけではないので、当院の乳腺外科の先生にも相談しました。リンパ節への転移数が多いことが気になりますが、その他大きな意見の相違がなかったので、私が代表してお話させて頂きます。」
ここで僕は予めお聞きしたいことをまとめたプリントを先生に渡した。
先生はさっと目を通すと、
「分かりました。では順番に進めていきましょう」
1 男性乳がんはどれくらい珍しいものなのか?
男性乳がんは臨床例としてはよく見るもので、ものすごく珍しいものではない。
がんは高齢になるほど罹患率が高まるので、40代という点では珍しいと言えるが、それは「肺がん」でも同じこと。
珍しいと言うよりも遺伝子の異常を疑うべきで、一度「遺伝カウセリング」で遺伝子検査を受けられることをお勧めする。
結果によっては前立腺がんや膵臓がんなどを引き起こす可能性が高いかもしれない。
2 リンパ節への転移が多いが、将来の生存率や再発するリスクをどう考える?
いろんな資料にいろんなことが書かれているが、それはそれで間違いではない。Ki-67は10%(※ これまで僕は7%だと思っていたが、主治医は10%と書いていた)なので増殖度が高いとはいえないが、そもそも再発するとかしないとかは人それぞれなので、気にしてもしかたがない。
リンパ節はQOLを損なわないギリギリのところ(LV2)まで郭清しているが、その先は検査をしていないのでひょっとしたらLV3まで転移が進んでいるかもしれないというのが現状だ。
3 免疫療法や民間療法をどう考えるか?
僕は自分の家族に人体実験はさせない。
医師はたくさん勉強して多くの情報を得ている中で、なぜこれらが標準治療にならないのかも知っている。
同じ病態の人が違う治療を受けることがないよう、標準治療はガイドラインに沿って決められており、それは足しても引いてもいけないものだ。
4 男性乳がんにタモキシフェンの効果はあるのか?
逆に男性乳がんにはタモキシフェンくらいしか効くものがない。
やらないよりはマシだという程度だ。
5 再発を早期発見しても生存期間は変わらないと聞いたが、それなら腫瘍マーカーなどの検査を受けても意味がないのでは?
生存期間は変わらない。但し、
「もう少しこれが早く分かっていたらこんなことができたのに」
と言う後悔をしない為と、微妙な体の変化を知る為にも、当院では月に1回は検査している。
また、経過観察の方法についてもガイドラインで規定されているので、それに沿った検査をする必要がある。
6 EC→nab-PTX→T-mabという治療をしてきたが、別の選択肢はあったのか?
当院ではECよりもキツイFECを使うだろう。
またアブラキサンはPTXよりも効果が高いと言われており、中小の病院では使いたがる傾向があるが、血液製剤を使っている以上、未知なる病原菌への感染リスクがあるので当院ではPTXとなる。
7 抗がん剤で癌細胞は消えるのか?
消えない。
たいちさんの場合は脈管侵襲があり、すでに癌細胞という「種」が全身に散らばっている状態だ。
例えて言えば、抗がん剤は「除草剤」のようなもので、ホルモン療法は「水をやらない」という効果があり、種から発芽させないということを期待するものだ。
8 今の病院では、再発防止の為の放射線照射はお聞きしていないが、進んで受けるべきか?
また、放射線は同じ場所には当てられないと聞くが、再発した時まで温存しておいたほうがいいのか?
再発した時の治療のことを心配するのではなく、今できる再発防止のための治療をきちんとやればいいと思う。
ただ、心毒性のある抗がん剤の投与中に心臓に近い部分を照射することにはリスクがあるので、投射の時期については検討が必要だ。
放射線は同じ場所には当てられないので、再照射する場合は角度を変えることになる。
9 術後nab-PTXは副作用のため9クールで中止したが、通常の投与数は?FECを3ヶ月、nab-PTXを3ヶ月投与するのが通常だ。
10 あしの親指の陥入爪がひどく、今の病院では抗がん剤の影響だということで軟膏の処方しかしないのだが。
nab-PTXは、爪の根元の細胞に影響を与えるので爪囲炎などの副作用が出やすい。
当院ならバッサリ切ってすっきりして帰ってもらう。
11 再発した場合の治療はどうなるのか?
術後抗がん剤で使ったものとは違う抗がん剤を使うことになる。
再発した時にできる話はたくさんあるが、今日は再発予防のためのお話をさせていただく。
12 先日、新聞記事で「KORTUC療法」というものを聞いたが、どのようなものか?
開発者とは懇意にしており、高知で開発されたので「コータック」と名付けられたようだ。しかし、再発の治療には使えない。
13 再発を予防するため、食事などで気をつけるべき点などはあるか?
(きっぱりと)ありません。