2014.7.2(火)
この日、手術室で右鎖骨下にCVポートを埋めてもらった。

2014.7.3(水)
病棟で初めての抗がん剤である「EC」を投与する。
今回の入院は大部屋が満床で取れなかったので、個室だった。
もちろん差額料は、少し安くしてもらったけどしっかり取られた。
でも広々とした部屋にシャワーもトイレもついており、周りに気を遣うことがないのでとても快適だ。

再発が高リスクの中でも高いグループに入る僕は、主治医から
「きつい抗がん剤をしてもらいます」
と言われている。
ビビリの僕は、特にEC療法を受けた先輩方のブログを読んで完璧に予習してきた。
先輩方がブログで訴える副作用は、どれもこれも受け入れ難いものばかりだが、今から大人が走って逃げだすわけにはいかない。
やるしかないのだ。

13時35分、主治医が看護師二人を伴ってやってきた。
抗がん剤とはいえ単なる点滴だと思っていたのだが、看護師が持ってきたトレイの上には、大きなシリンジやゴム製の管、ドレッシング剤などが乗っているのを見て、プチ手術でも始めるのかとものすごく狼狽してしまった。
あわあわ言ってる僕に主治医が、
「針刺しだけだよ、僕がやるからね」
となだめられ、ようやく落ち着きを取り戻した。
想定外のことってあれほど慌てるんだと、あとから思いだす度に恥ずかしくなる。

CVポートへの穿刺は想像していた以上に痛くなかった。
ある先輩のブログで、「ガソリンスタンドで給油する感じ」とあったが、まさしくそのとおり。
手術は痛かったが、ポートは入れてよかったと思う。
そして強力な吐き気止めである「イメンド」を飲み、静かに病室で待つ。

1時間後、看護師二人が薬剤と点滴棒を持ってきた。
二人は不織布の黄色いエプロンをその場で着用し、ルートと薬剤を手際よく接続する。

14時55分、いよいよ点滴が始まった。
ポタッ、ポタッと、真っ赤な薬がゆっくりと自分の体に入っていく様子はとても見てはいられない。
僕はずっと窓の外を悲しい気持ちで眺めていた。
看護師二人は点滴の間、ほとんど僕の病室にいてくれた。
そして10分に1回は、「お気分は大丈夫ですか」と声をかけてくれ、顔色の観察、体温測定、血圧測定、酸素飽和度の測定ポート部からの薬剤漏洩の確認をしてくれる。
ものすごく慎重なんだなと思う反面、それくらいやばい薬を体に入れているんだと改めて思いを強くする。

15時58分、初めての抗がん剤は無事に終わった。
部屋の中のトイレで小用すると尿が真っ赤だったが、これは予習してきた通りなので驚かない。
気分はユラユラと船酔いのような気持ち悪さがあったものの、夕食も普通に食べることができ、夜も普通に眠ることができた。

2014.7.4(金)
翌朝、起きるとやはりユラユラと船酔いのような感覚が続き、軽い頭痛がした。
朝食は頼んでもいないのに白粥になっていた。
(白米が良かったのにな‥)
と、ブツブツ言いながら粥を一口すすり、副菜のおひたしに箸を伸ばそうとすると、そこからピタッと箸が動かなくなった。
「うっ、食べられない‥」
人間の本能ってすごいものだ。
食べてはいけない時には食べられないように強力な指令を出す。
この強力な指令に逆らって飲み過ぎ、食べ過ぎると病気にもなるわけだ。
結局、気持ち悪さからほとんど食べることができなかった。

主治医が外来前に様子を見に来てくれた。
「船酔い程度なら心配ないね」
と退院許可を出してくれ、お昼前には自宅へ帰ることができた。

この日の日記‥。
「顔が火照り、倦怠感が強い。これではとてもじゃないが、仕事に行けない」とある。
次回からしばらくEC療法の副作用について書いていきたい。