----装備を整えたならば、この特別なまほうのかぎを
  使うといい。これならば閉鎖している迷宮にも
  入る事が出来る。

----ここ数日迷宮は閉鎖しておる、獲物に飢えている奴は 
  必ず現れるだろう。心してゆけ。

----生きて、帰ってくるのだぞ。





特別なまほうのかぎを掲げ、ラセツはグレン王の言葉を
思い返す。もう後戻りは出来ない。

「皆、準備はいいか?覚悟もいいか?」

静かに頷く3人。そしてラセツも頷き、まほうのかぎに魔力を
送り込む。目の前に現れたまほうのとびらが開き、4人は
吸い込まれてゆく。

移動する空間の中でととが言う。

「ラセツさん、僕この戦いが終わったら結婚するんですよ。」

「そうか、絶対生きて帰ろうな。」

「・・・・・ぷぷぷ」

「ととさん思いっきりフラグ立てないで下さい!」

ほどなくして迷宮に降り立つパーティー。
一見いつもと何も変わらない迷宮の風景。

しかし、何かが違う。そう、空気。
からみつき、どことなく黒いようで、重く
冷たい。

「いるな。」
「いますね。」
「この扉の向こう、すぐだね。」
「ど、ど、どどうしましょう!」

扉に手を置きラセツは言う。

「決まってる、倒すだけだ。」

ととも扉に手を置く、アテナも、そしてこっこも手を置き
それぞれがゆっくりと力を込め、扉を押し開いた。

「あ、せいすい忘れた。」(アテナ)
「なにぃぃいいいいい!」(ラセツ とと こっこ)













「・・・・何が、起きた・・・」

アテナの驚きの発言の後、扉は開いた。そして奴はいた。
そして、その後どうなった・・・?

倒れたまま辺りを見回すラセツ。前方にアテナ、少し横にとと、
だいぶ離れた場所にこっこが倒れていた。

「おい、みんな・・・大丈夫か!」

「く、、、一体何が・・・」
「いたたたた・・・」
「早く、回復、、、しなきゃ・・・」

頭上から声が聞こえる、ガヤガヤと五月蝿い。
ヒドラの5本の頭達だ。

「ん~弱っちいな~久々の獲物だというのに。」
「我のおたけびが強すぎるのだ。」
「ひっひっひ、楽しめないなあこれじゃあ。」
「・・・・・貧弱!」
「どうでもいい、はやいとこ食っちまおうぜ。」

おたけび?たった一発のおたけびでこの有様か!
ラセツは無理やり体を起こし叫ぶ。

「アテナ!とと!立てるんだろ、つか、立てええええええ!!」

「ベホマラー!」

こっこが唱える、しかし聖なる祈りがかかっていない回復魔法
ではその回復量も少ない。

「こっこちゃん!聖なる祈りをしてもう一度だ!
 そして自分に天使を!!」

「は、はい!」

ヒドラがゆっくりとこっこの方に向きを変える。

「回復は邪魔だなあ。」
「邪魔だ。」
「ひっひっひ、真っ先に潰さなきゃなあ。」
「・・・・・滅!」
「食えればそれでいい。」

「アテナさん!」

ととがアテナに目で合図する。2人がヒドラとこっこの
間に割ってはいる。

「こっこさんが準備完了するまで、なんとしても抑えましょう!
 バイキルト!」

アテナにバイキルトがかかった。

「タイガークロウ!」

シャオシャオシャオ!!

「おーおー、少しは痛いな。」
「ん~?俺達の仲間みたいなのが混じってるぞ。」
「だが、ニオイは違うな。」
「では、アレはなんだ?」

ヒドラの足が止まる。着ぐるみに興味津々のようだ。

プスゴンの着ぐるみの中でアテナがニヤリとする。

「メラゾーマ!!」

ドカーーン!!

油断していたヒドラにラセツの魔法が
直撃する。

「どうやら数は多くても一つ一つはおバカのようだ。」

「ベホマラー!」

「スクルト!」

「ピオリム!」

「準備完了しました!」

「こっちも強化かけ終わりましたよ!ただ、弱点属性が
 わからないのでフォースは控えておきます!」

「魔力覚醒!」

「暴走魔法陣!」

「オッケー!こっちも準備は整った、たたみ掛けるぞ!!」





各々が持てる力全てを発揮し、戦った。
アテナが最前線でタイガークロウ、ゴールドフィンガーで
ダメージを与えていく。

その後ろからととがバイキルトでアテナを強化しつつ
MPを分け与え、ピオリムで皆の素早さを維持する。

そしてその後ろ、最後列では魔法陣の中でラセツが魔法を
連発し、こっこが回復を唱える。

順調な戦いに見えた。

「よし、このままこの連携を維持して行こう、いけるぞ!」

だが、最前列で戦うアテナはそうは思っていなかった。

(おかしい・・・確かに手ごたえはある。時折くる攻撃も
 それなりに痛いけど、回復でなんとかなってる)

(でも、なんだろう・・・この違和感。手を抜いている?
 わざと?・・・どうして)

すると、頭上からボソボソと話し声が聞こえてきた。

「入ったな。」
「ああ、ちょこまか逃げやがるからなあ。」
「油断させりゃあ、向こうから・・・ひっひっひ。」
「・・・・・愚!」
「さて、食うか。」

アテナは後ろを振り返る。

「!! 近い! ラセツ、ととくん!!」

遅かった、順調な戦いに敵との距離を誤っていたのだ。
ヒドラの首の一体が大きく息を吸い込む。

「ひっひっひ、食らえ。”もうどくのきり”」

ブハァァァアアアアアアアアアア!!

前方に紫色の霧が立ち込めた。アテナ、とと、ラセツを
飲み込んでいく。

「みんな!」

叫ぶこっこ。

アテナは毒にかかった。
ととは毒にかかった。
ラセツは毒にかかった。

「ぐはぁ・・・!」
「こ、これは・・・まずい、ですよ・・・」
「これがただの毒、なのか・・・!?」

「はぁ?聞こえなかったのかあ?毒(poison)じゃ
 ないぞお?わしのは猛毒(Deadly poison)じゃ。」

「吸い込めば最後待つのは死のみ。ひっひっひ」

ラセツとととはどくけしそうを使った!

「!! 毒が消えない!」

「不撓不屈!」

「ラセツ!ととくん!」

スキルでなんとか猛毒を消したアテナ。

「わたしのどくけしそうで、、、今使うから!」

その瞬間背後で空気が揺れる。

ガシュ!ガブ!ガス!ドシュドシュ!!

五つの首が一斉にアテナに噛み付いた。

「ぐ、、、は・・・ぁ・・・!!」

アテナの銀のロザリオが砕け散った!

「あら、生きてる。」
「さしずめHP1で生き残った、といった所か。」
「すぐ死ぬ。」

「キアリー!・・・ベホイミ!・・・キアリー!
 はぁはぁ・・・ベホイミ!」

こっこの魔法でも猛毒は消えず、恐ろしいスピードで
減っていくHPをベホイミをかけることで、ギリギリ
ラセツとととの命を繋いでいた。

「どうして、なんで消えないの!・・・毒が強すぎて、
 アテナさんを回復する間が・・・ベホイミ!ベホイミ!」

「ひっひっひ、どくけしそうやお前程度の魔力では
 消えやせんよ。わしの猛毒は。ひっひっひ。」

ヒドラはのっしのっしと、こっこに近づいていく。

「おい、こいつ食わないのか。」
「アレは僧侶という奴だ、ほっとくと色々やっかいだっただろ。」
「あー、そうだったなあ。」

「キアリー!キアリー!ベホイミ!べ、、」

MPが足りない!

「あ、、、MPが!は、はやくせいすいを。あ、あった!」

鞄からせいすいを取り出したこっこは、それを使おうと頭上高く
掲げた。

「ガァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

耳をつんざくおたけびが空気を激しく揺さぶり、掲げたこっこの
せいすいのビンを簡単に砕く。そして、こっこをも激しく
吹き飛ばす。

ドガ!・・・・・ドサ・・・・

「あ、、、あぁ・・・・」

「・・っこちゃん!・・・こっ・・ちゃ!!せ・・・!ね!・・・!」

おたけびで耳をやられ、叫ぶアテナの声もきちんと聞こえない。
既にぴくりとも動かないラセツ、とと。

「やっぱり、、、やっぱりわたしなんかじゃ何の役にも
 たてない・・・」

起き上がることも出来ず、仲間を回復することも出来ず、アイテムさえ
まともに使えない。体が痛い、頭が痛い、耳が痛い、でも・・・
仲間をこのまま死なせるのが、もっと・・・痛い・・・

「う、うぅ・・・ザオラル!ベホイミ!キアリー!ザオラル!!」

必死に手を伸ばし発動するはずも無い呪文を唱える。

「おお、おお、健気だねえ。」
「もう食うぞ。」
「ああ、好きにしろ。」
「ひっひっひ。ん~?こいつなんかおかしいぞ。」
「!おい!早く食え!こいつ!」

ヒドラの口が大きく開き、こっこに迫ってくる。

「う、うぅ!・・・悔しい、悔しい!みんな!!」

ヒドラの横から向こうのアテナが見える。立って叫んでいる。
そして何かを、投げた。

ガシャン!パシャシャ!

それはヒドラに当たり、中の液体がこっこの頭にかかる。
聞こえる、アテナさんの声が聞こえる。

「せいすい忘れたけど!小瓶はあった!こっこちゃん!聞こえる?
 やったじゃん!背中!見てみ~!!」

「おーい!トカゲバカ!ほっとくとヤバイのは僧侶だけじゃ
 ないよ!大ダメージを受けた武闘家を放っておくと・・」

アテナの両手が残像を残しながら弧を描く。

「こういう事に、なっちゃうんだなー。」



「 ”一 喝!!!”」



凄まじい衝撃波が矢となりヒドラに飛ぶ。

ズッガーーーーーーーーン!!

「ぐ、ぐへ!!」

地面にへばり付き昏倒するヒドラ。





「こっこちゃん、聴かせてよ^^」

アテナの言葉に小さく頷き、両手を広げるこっこ。
背中の純白の羽がゆっくりと羽ばたき、その歌声は
命を宿して宙に舞う。



♪♪♪ 発動 聖者の詩 ♪♪♪



「・・・ふふふ、やはり僕の次に、天才でしたね。」

「なんか、色々と溜まってストックされてるんだ。
 残機持ちで落ちるのはかっこ悪いだろ。」

ラセツとととが起き上がる。

「ラセツさん!ととさん!」

「ラセツ!ととくん!わかってるよね!時間ないよ!」

「もちろんですよ、既に詠唱してます!バイキルト!」

「あのなぁ、その着ぐるみで言われても気合はいらないぞ。
 まあ、やるけどもな。魔力覚醒!超 暴走魔法陣!!」

「グガガァアアア」
「お、のれ・・!」
「コロスコロスコロス!!!」
「滅滅滅殺殺殺!」
「食って殺す!」

昏倒していたヒドラが徐々に動き出す。

「ととさん!言い忘れてました!弱点属性は闇です!
 ダークです!!メモ帳の隅に書いてました!!」

「ふふふ、弱点属性がわかった以上アレを使わないわけには
 いきませんね!」

「いきますよ、ラセツさんアテナさん!」

「ダークフォース!そして、とっておきの・・・」



「”フォースブレイク!!!”」



虹色に輝くオーラが弾丸となりヒドラに突き刺さる。
ヒドラの全耐性が下がった!

「なんだ、こんなモノ痛くも痒くもないわ!」
「グゴオオ!」

「そう?でも今から嫌というほど思い知るよ。
 内側の崩壊がどれだけ恐ろしいか。」

「ためる!」

ドシューン!

「もういっちょ!ためる2!」

ドシュシューン!

スーパーハイテンション!!

アテナの体から凄まじいオーラが噴出し、プスゴンの
着ぐるみを吹き飛ばした。

「やっちゃえーーー!アテナさん!ラセツさん!!」

「わたしの」
「俺の」

「とっておきね。」
「とっておきだ。」




「”ライガークラッシュ!!!”」
「”メガライアー!!!”」




ヒドラに

756ダメージ!
820ダメージ!
740ダメージ!
1500ダメージ!クリティカル!
1230ダメージ!クリティカル!

ヒドラに

5500ダメージ!クリティカル!

「?!!!・・なんだ」
「???!!この」
「!!!・・・ふざけた」
「ダメージ・・」
「・・・・は。」

グギャアアアアアアアアアアアアアア!!









4人の目の前で灰と化すヒドラ。
誰も言葉を発さず、4人はそれぞれを見る。
勝てた、勝ってしまった。

「ま、まああれですよ!天才の勝利って事で!」

「なんだそれ、 紳士の勝利だよ!」

うってかわってわいわいと騒ぎ出す2人。

「こっこちゃんの活躍のおかげだね。」

アテナがこっこの頭を撫でながら言う。

「い、いえ!あそこでアテナさんが!・・・ビンが、
 それで耳が治って、うぅ・・・それで・・!!」

溢れ出す涙に言葉はつまる。それぞれが、それぞれの
役割をこなし、そして勝利した。
個が集まり全となり、全の中に個はある。
個の想いは全であり、全の想いは個を強くする。

「あれ?あそこになんか宝箱ありますよ?」

「ん?赤いな。何が入ってるんだ?」

「ラセツさん開けて下さいよ。」

「いや、ここはととに譲る。」

「怖いんですか?紳士のくせに?」

「天才だったら、宝箱なんて怖くないだろお?」

「無闇に箱は開けるなと、天才の勘がですね・・・」

そんな2人をよそに、アテナが宝箱に手をかける。

パカっ!

「!!!」
「!!!」

「あ、なんか入ってますよ?アテナさん」

「ん~?ベルト、かな?装着してみよう。」

なんの疑いも無く装着しようとするアテナ。

「ま、待て!アテナ!呪われたアイテムかもしれん!!」

スチャ!

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」

「大丈夫、なんですか?」

その問いにアテナは

「・・・・・重ぉぉおお!!」

すぐさま外し放り投げる。

ドシャアアア!

「女子には必要ないわ。」

「おいおいこらこら!凄い貴重なモノかもしれんだろ!!」
「そ、そうですよ!ふーふー!傷、ついてないですかね?」

「疲れたー、お腹も減ったね。帰ろう!こっこちゃん。」
「は~~い^^」

「まてまて、これちょっと傷入ってるぞ!やばいんじゃないか?」
「これヒドラから出たアイテムですよ!」
「グレン王に届け出なきゃいかんよな・・・」
「ちょ!しかもここ、割れてますよ!!」
「アーテーナー!お前どうすんだよ、これ!!」
「あれ、居ないですよ?」
「・・・・」
「どうします、これ。」
「とと、装備しちゃえよ。もう黙っとこう。」
「いや、アテナさん装備しちゃってますし。無理です。」
「・・・・・・・・・・超貴重品かもしれんものを
 一瞬でガラクタにしやがった・・・」
「ガラクタ?」

「!!!」
「!!!」

「あそこに持って行こう!」(ラセツ とと)





The END