「はぁはぁはぁ、怖いけど・・・すっごく
 怖いけど!」

突然モンスターが現れ、自分の名前を呼ばれ、
へんてこなスライムに肩に乗られ、さらわれるから
逃げろと言う。

「何が何だかわからないけど、ここはあたしが
 動かなきゃ!・・・絶対!!」

そしておにこんぼうの棍棒が振り下ろされた。

「ぬぬう・・・万事休すじゃ!!」



「あたしが”もも”だよ!」



その声に寸前でピタリと止まる棍棒。そしてギラリと
した目がももを捉える。

「こ、これ!来てはいかん!!逃げるんじゃ!!」

震える、足も手も、心も。こんな巨大なモンスターは
見たことがない。その重圧だけで気を失ってしまい
そうだ。

「お前か。探す手間が省けた、殺しはしない。
 こっちへ来い。」

「逃げろと言っておる!」

校長がももの前にでようとする、しかしおにこんぼうは
長い尻尾をしならせた。

ドガ!!!

「ぐはぁあ・・・・!!」

「!!! 校長先生!」

軽く吹き飛ばされ、校長は地面にうずくまった。

「死にたくなければもう動くな。」

震える体が止まらない、地面が揺れているのか
自分が揺れているのか、恐怖で押し潰されて
しまいそうだ。遠くの方で先生の声が聞こえる。

「あ、あたしを・・・なんで・・・」

ブン!と棍棒を肩に担ぎなおしおにこんぼうは言う。

「人質だ。それ以上でも以下でもない。」

そう言うとおにこんぼうは何かに気付いたような
素振りをみせた。

「おい、お前の肩のソレはスライムだな。”ライム”か?」

おにこんぼうがずいっと一歩ももに近づく。

「メイジキメラ5体に追わせてきっちり殺せと
 言っておいたはずだがなぁ?ライムよ。」

「みん様のくれた指輪のおかげさ。それとボクを
 気安く呼ぶなよ!でくのぼう!!」

「おにこんぼうだ。」

ももはスライムのライムが言った言葉に驚きを
隠せなかった、ライムがいったみん様とは

「え?お母さん、の事?」

肩のライムがぷるるんと震える。

「そうだよ、ボクはライム。ももの母上、みん様の
 仲魔さ!そしてボクはキミに会いに来た。」

恐怖で震える体とか、目の前のモンスターとか、一瞬で
消えてしまうほどの衝撃だった。

「い、い、い、生きてるのぉぉぉおお??!!お母さん!」

その時、頭上から影が落ちてくる。

ズドガン!!

ももの目の前で巨大な棍棒が軋む。

「ちいせえのがごちゃごちゃとうるせえ!うっかり
 手が滑って殺してしまうぞグヘヘヘヘ!
 あの野郎も回りくどい事せずに、さくっと
 やっちまえばいいのによぉ。」

何故かもう震えは無い。お母さんが生きていると言う事、
そして仲魔をあたしの元に送ってくれた、どこかであたしを
想ってくれてる!まだなにがなにやらわからないけれど
それだけで底なしに勇気がわいてくる。

「ライム!あたしこんなのにさらわれたくない!でも、
 どうしよう!」

「だからボクが来たのさ。」

ライムはももの肩からピョンと右手に乗った。

「もも、さっきみたいにボクに”気”を送って。そして
 何でもいいから強そうな武器を想像するんだ!」

「き?ホイミの事かな?」

「それそれ。」

何かをしようとする二人におにこんぼうはもう一度
棍棒を振りかぶった。

「グヘヘ、もう面倒だ。軽く気絶させてつまんでいくと
 するか。ち、まったく小賢しい。」

ブォ!躊躇なく振り下ろされたソレは軽く気絶所ではない。
当たれば即死だ。

ライムを右手に握りしめ、目を閉じるもも。イメージは
出来た、後は

「ホイミ!」

青白い閃光とともにライムは剣へと変化した。それは
誰も見た事がないであろう、世界に一つの剣。
頭の中に声が響く。

(もも!一歩前に飛んで!!)

ズドーーーン!!

叩きつけられた棍棒、圧倒的な体格差故に出来る死角。
棍棒と腕の付け根の間にできる隙間にももは飛び込んだ。

「やぁ!!」

常識的に考えれば非力なプクリポのまだ冒険者にも
なっていない者が振る剣が、おにこんぼうの丸太の
ような腕を斬り裂けるわけがない。



ブシャァァァァァアアアアア!!



だが、例外もあるようだ。小さな手に握られた
その剣は、ももの頭上で綺麗な弧を描きおにこんぼうの
腕を真っ二つに斬り落とした。

「グォォォオオオオオオオ!!」
「俺の、俺の腕がぁぁぁあああああ!!」

狂ったように叫び、のた打ち回るおにこんぼう。
まるで計算違いだったろうこの結末に、思考が
追いつかないようだ。

「お、俺の腕・・・どうして落ちてる・・??!!」
「グヘヘヘヘ!プクリポめぇぇえええ!!」
「滅ぼす滅ぼす!さっさと滅ぼせ!!!」

その時、暴れ狂うおにこんぼうを静かに包み込む
ように黒い霧が現れた。

「あ!あれは・・・!」

一瞬にして剣からスライムに戻ったライムが、ももの
体をぐいぐいと押す。

「もも!離れて!吸い込まれると危険だよ!」

「え?な、なに?!」

黒い霧はやがておにこんぼうを飲み込み、渦を巻く。
そしてその場の空間ごと飲み込むように消え去った。





「助かった、ようじゃのぉ。」

わき腹を押さえてヨロヨロと立ち上がる校長先生。
魔法の杖を支えに歩こうとするが、ポッキリと折れて
しまい尻餅をついてしまう。

「校長先生!大丈夫ですか?」

ももが心配そうに駆け寄る。

「け、経費で落ちるかの、これは。。。トホホ。
 しかし、おまえさん。少し変わっておるのぉ。」

校長はももをじろじろと見ている。そして肩のライムを
ぷにぷにぷにぷにと触りだす。

「こんな辺境の村には、ちと大事な出来事じゃ。
 小さなとこでは大体小さな事しか起こらん。」

「これは、どこかの大きな波の余波じゃな?
 スライムよ。おぬしは知っておろう。」

ライムはぷるるんと跳ねる。

「ボクはももに会いに来たんだ。その途中であいつらに
 見つかっちゃって・・・」

申し訳なさそうに少し俯いたライム。

「ボクの役目はももをガートラントまで連れていく
 事なんだ!ももの事だってすぐにわかったよ!
 みん様と同じ”気”だったからね!」

「き?」

と首をかしげるもも。

「そう、それじゃ。この子は・・・おっと皆が
 集まってきたぞぃ。一旦話は終わりじゃ。」

奥の校舎から先生や生徒、そして他の先生達や生徒達も
続々と校庭に集まってきた。もう大丈夫と言う事を皆に
伝える校長先生。

「ももちゃん!なんて危険な事を!!」

先生がももを抱きしめる。微かに震えている。

「ご、ごめんなさい・・・先生。」

「あのモンスターのせいでももちゃん見えなかったから
 ほんとに、潰されちゃったのかと、ほんとに・・・」

ライムが剣になったとか、ももがおにこんぼうの腕を
斬り落としたとかはどうやら見られてはいないようだ。


~それから後の時間は大忙しだった。結界の張りなおし、
 へこんだ地面、割れたガラス、修繕の為にその日の授業は
 すべて潰れてしまったのだった。





作業が終わる頃にはもう陽は沈みかけていた。生徒の多くも
既に帰り、今日という日の最後のオレンジ色の光は静かに
暖かく学校を照らす、昼間の出来事は嘘のように。

後で話すことになっていた校長先生は、作業中ぎっくり腰に
襲われて今だ医務室でうなっているそうだ。

「帰ろっか、ライム。」

ももの耳には小さなスライムのピアスが。それがぷるるんと
揺れる。そしてポン!と原寸大に戻り肩に乗っかった。
色々とややこしくなりそうだったので、ピアスに変化して
いたのだ。

「いっぱいいっぱい聞きたい事あるけど・・・うーん・・・」

「お母さんの事は後でゆっくりと聞かなきゃ、剣の事も、それに
 ・・・うーん・・・いやでもやっぱり・・」

帰路の途中、ももは何から聞いていいのか決められずに
ずっとこの調子だった。

「うーん・・・うーん・・・うーん・・・」

そして家に着いた。

「お爺ちゃんと3人で話そ!ライム!」

ただいま、と元気よくドアを開け、出迎えたお爺ちゃんに
今日の出来事を聞かせた。喜怒哀楽全てを出して話す
ももをお爺ちゃんは髭をさすりながら、時折ライムを
ぷにぷにしながら聞いていた。

「ふむふむ、なるほどなるほど。詳しい話はいまいち
 わからんが、ももは旅に出なきゃならんのじゃな?」

「え?お爺ちゃん、話聞いてた?」

髭をさすりながら言う。

「しかし、意外に早い展開じゃ。」

夜になると少し冷え込む季節になってきた。薪を暖炉に
くべて火をつける。そして髭をさする。

「いいか、もも。内緒にしていたがお前の母さんは
 生きておる!」

「うん、それもさっき話したよね。」

お爺ちゃんはライムに手招きをした。

「見ておれ、ももよ。」

ライムを手のひらに乗せるとお爺ちゃんは、フっと軽く
息をはきライムに”気”を流し込んだ。

青白く光ったライムはなんと盾に変化した。

「!!! すごい! お爺ちゃんもできるんだ!ホイミで?」

「ん?ホイミ?」

首をかしげたお爺ちゃん。ライムに元に戻るように言うと
ポヨンと膝の上に落ち着く。

「よいか、もも。これはクル家に受け継がれる性質じゃ。
 少し難しいがよく聞くんじゃぞ。」

ライムをお爺ちゃんから奪い、自分の膝の上に置く。
そして真剣な眼差しで前のめりになるもも。

「世間一般に言われておるMPは体内に常に蓄積されておる。
 そして必要な時必要な分だけそこから消費され、魔法や
 技として撃ちだされる。」

「そして世間一般に言われておる”気”は体内には無い。
 修行で心身を鍛え、一時的に作り出すモノなのじゃ。」

「それを己の力として一時的に使ったり、波動として瞬間的な
 爆発力で発散して敵を怯ませたり衝撃をあたえたりするのじゃ。」

うんうん、とうなずくもも。

「我らプクリポは、他の種族の約2倍のMPを持つ。個人差は
 あるんじゃがな。その代り、”気”というものは苦手と
 言われておる。それは何故か?」

なぜ?と首をかしげるもも。

「MPをためる器というものは、どの種族も同じじゃ。多かれ
 少なかれ決められた器の中に蓄積されておる。
 MPとは質量の無い数字と思えばよい。」

傾げた首が戻らなくなっているもも。

「つまり、決められた箱でも質量の無い数字ならば、修行すれば 
 するほどその入れられる数字は上がっていくというわけじゃな。」

とりあえず頷いてみるもも。

「そしてプクリポは他の種族よりMPが多い。他の種族が修行で
 1のMPを得られる時、プクリポは2を得る。これは修行すれば
 するほど絶対的な差として現れるのじゃ。」

「長くなってしまったの、ここからが本番じゃ。」

と言い髭をゆっくりとさする。

「では”気”。これに器は無い。作り出し、それを体内
 もしくは身体に一時的に溜める、留めるのじゃ。」

「使いこなせれば強いんじゃが、弱点もある。気を維持するには
 かなりの集中がいる。敵からの強い攻撃で体制を崩されれば
 いとも簡単に気は消えてしまう。」

「そしてここが肝心じゃぞ、体の大きな者ほど大きな気を溜め、
 留めておけるのじゃ。」

「オーガとプクリポ、同じレベルの者同士が気を撃ちあえば
 勝つのはオーガじゃ。」

ももは人差し指を額にあて、うーんとうなっている。

「お爺ちゃん、あたしもMP多いのかな?というか、あるのかな?
 どんなに練習しても攻撃魔法は出来ないままだし・・・」

目を閉じ、うんうんと頷くお爺ちゃん。

「ここからが本番じゃもも。」

さっき言ったよね、とライムに目で言う。



「クル家の受け継がれる性質、それはMPとして体内に
 蓄えられてるモノがMPではなく”気”という事じゃ。」





「えーと・・・えむぴーが、き・・・?」

髭をさすっていた手がピタリと止まり、カッと目が開く。

「我らクル家の者は皆、蓄えてはおけない気を体内に
 MPの代わりとして常時蓄えておるのじゃ!!」

静かに目を閉じ再び髭をさすりだす。

「わしはそれに気づくのが遅かった、そもそも冒険者
 にはならんかったからの。」

そして少し虚空を見つめ、思い出の引き出しをゆっくり
と開けていく。

「みんがお前を生んだのが18の時じゃったか。ももと
 同じように魔法がからっきしだったからの、冒険者に
 なるのはほぼ諦めていたんじゃ。」

「わしは気の事は話さんかった、話した所でどうかなる
 とも思わんかったのじゃよ・・・じゃがある出来事で
 みんはその力を知ったんじゃ。」

「ある出来事?」

夜も少しふけ、ぷるんぷるんとうたた寝をしているライム。

「みんの愛した男であり、お前の父でもあるリョカの死じゃ。」





「あたし、お母さんの事はお爺ちゃんから色々聞いて
 すっごい戦士で、強くて、でもあたしを守って死んだって。
 もう!嘘ついて!」

膨らましたほっぺはまるでライムのようだ。

「でも、そんなお母さんに憧れて、戦士になって近づきたい
 って思って。でも、お父さんの事は何も・・・」



「お前が生まれた日、その病院はモンスターに
 襲われたんじゃ。」

髭をさすりながら再び語りだす。

「今でこそ仲魔というのは一般的になったが、その当時は
 まだまだ極々僅かな熟練の冒険者のみが、仲魔を連れて
 いてな。非常に珍しかった。」

「その日、病院に仲魔を連れた冒険者が来たんじゃ。恐らく
 病院側が呼んだんじゃろう。」

「生まれたばかりのお前を抱いたみんのそばには、わしと
 リョカもおった。」

「リョカも当時は優秀な魔法使いでな、生まれてきた
 子供にと、小さなスライムを仲魔にしておった。」

お爺ちゃんは、愛おしそうにライムを見た。

「え?! ライムってもしかして!」

お爺ちゃんはニッコリとほほ笑み、そしてその笑みは
ゆっくりと消えていった。

「それは、隣の病室で起こった。冒険者の連れていた
 仲魔が突然狂暴化したんじゃ。」

「え?」

ぎゅっと手をにぎるもも。

「力量に見合わぬモンスターを連れていたんじゃよ、
 狂暴化したモンスターは主だった冒険者を引き裂き
 壁を破壊し、わしらの病室に入ってきたんじゃ。」

話の先を見透かしたように、ももの唇は震えた。

「リョカは優秀な魔法使いじゃ、変化を感じた時には
 既に床には暴走魔法陣がはられておってな。モンスターが
 侵入してきた瞬間には魔法が唱えられておった。」



小さくなった暖炉の火に薪を一つ投げ入れた。



「じゃが、狂暴化したモンスターは通常時の数倍の
 強さという。仲魔として抑圧されていた力が、
 何かのきっかけで一気に解き放たれ、それを制御
 できずに狂暴化するんじゃ。」

「撃つも効かぬ。叫べど生まれたばかりの子と、出産した
 ばかりの疲弊した妻。逃げる事は難しかった。」

「わしは無我夢中でリョカの前に飛び出し、盾になろうと
 していた。ここはわしが死んででも、と、な。」

「リョカはそれを許さんかった、許してくれんかった。」



「あやつは、ひきよせのすずを使いおった。モンスターを
 引き寄せるアイテムじゃ。なんであんなものを、、、」

髭をさする手が震えている。

「そして、雄たけびをあげたモンスターがリョカに
 食らいついた、鋭い牙でな・・・」

流れる涙がももの頬をつたう。

「あやつは、リョカはその短い時間で両手に魔法を
 幾重にも重ね詠唱しておったんじゃ、その魔法は・・・」



”マホトラ”



「制御できないエネルギーで暴走しているなら、その
 エネルギーを一気に吸い取ればいいと考えたんじゃろう。」

「それは見事に正解じゃった。食らいつかれた瞬間、モンスター
 の頭を両の手ではさみ、幾重ものマホトラで暴走したエネルギー
 を吸い取ったのじゃ。」




~かわいいなあ、さすが俺の娘だ。
        
        泣くな、みん。 男は家族を護るもんだ。

 そうだ、思いついたよ。     名前。

     そのほっぺを見てみな   まるで桃じゃないか

 ”もも”が  いい。











「自分の娘の悲痛な叫び声は、一生耳から消えぬものよ・・・」

いつの間にかももは涙を流していなかった。必死に堪え、
涙で潤んだ目でも凛として、でも唇は震えたままで。

「その時じゃな、声にならない叫びをあげるみんの体から
 大量の気が溢れ出したのは。」

「そして、もも、お前と一緒に抱かれていたスライムが 
 変化したのじゃ。それは小さくて細く、じゃがとても
 鋭い気で覆われた剣に。」

「リョカによってモンスターは一時的に静まってはいた
 が、一度狂暴化したモンスターは元には戻らない。」




~もも、これがあなたのお父さん。
           
           しっかり見ておきなさい。

 私とあなたを命を懸けて護った人。 

             ふふ まだ目開いてないわよね。

 でも、しっかりと感じておきなさい。  もも。




ももを抱いたまま、盾となりもう息をしていないリョカを
背中から抱きしめる。まだ残る温もりがももに伝わる。
そして、青白く、鋭く光る剣は、静かにモンスターを
貫いた。





其の三に続く。
 







 



※これはDQXのif話。設定もろもろ架空のものです。





アストルティアのとあるプクリポの村。
そこには小さな学校があった。

「はーい、じゃあ課題を集めまーす。
 みんなちゃんと書いてきましたか~?」

は~い、と元気な声で先生に答える生徒達。

「では、一番後ろの席の人が順番に
 集めてきてくださ~い。」

ガタガタと椅子の動く音がし、
教室は一際賑やかに。後ろの生徒が順番に
小さな白い紙を集める。

「”卒業したらどんな魔法職になりたいか?”
 でしたよね~。」

先生が言う。

「伝説の魔法使い!」
「かっこいい賢者様!」
「僧侶だよ!僧侶!」

口々に言う。

「はいは~い!待って待って、用紙が集まれば
 順番に聞いていきますから~。」

その時、窓際の列の生徒が叫んだ。

「あ!やっぱこいつ魔法職じゃないぜ!!
 センセー!」

先生がそちらに目をやると、やんちゃな生徒が
前の席の女の子の用紙を取って高々に手を上げていた。

ツカツカと歩み寄る先生。
そして紙を取り上げ、目をやる。
そして小さなため息をつき

「...ももちゃん、プクリポはね、、」

「なれるもん!」

大きいけれど少し震えた声に、男子がはやし立てる。

「こいつ、”戦士”になりたいとか書いてるんだぜ!!」

教室がざわめく。

「違うよ!”お母さんみたいな立派な戦士”だもん!」

更に大きな声は涙とともに震えた。





アストルティアにはオーガ、エルフ、ドワーフ、
ウェディ、プクリポの5つの種族がいる。


~どの種族にも得手不得手はあるが、大体の職は
 こなせる。だが、プクリポだけは他の種族より
 体格面で劣り、どうしても戦士にはなれないと
 言われている。かつてはその小さな体躯を生かして、
 戦士を目指した者もいたが巨大な敵の重い一撃には
 耐えきれず、自然と戦士を目指すプクリポは居なく
 なっていった。





キーンコーンカーンコーン・・・

授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

「は~い、みんな気をつけて帰るんですよ~。
 明日は最後の魔法の実習ですよ!」

「期待してろよ先生!俺のメラゾーマ!」

「あたしのベホマラーも見てね先生!」

「超!暴走!魔法陣!」

「ちょっと!無意味に出さないでよ!」

はしゃぎながら教室を後にする生徒達。

「しっかりご飯食べて、しっかり寝て、
 いっぱいMP蓄えてくるんですよ~。」

先生はそう言うとチラリと窓際に目をやった。
その列にはもう一人しかいない。

「ももちゃん、明日はちゃんと実習に参加するんですよ?」

ももは魔法の実習にはあまり参加していなかった。

「・・・・・」

うつむき黙り込むももに先生は言う。

「夢を持つ事は凄く良い事よ、ももちゃん。でもね、
 プクリポでは戦士にはなれないの。
 これは歴史が証明してる事なの。」

うつむき膝の上の手をぎゅっと握りしめるもも。

「先生がどうしてこんなに厳しく言うかわかる?」

教室にはもう先生ともも二人。

「あなたに危険な目にあってほしくないからなの。」

ももの隣の席に腰を下ろし、しばし視線を
宙に漂わせる。

「戦士に憧れて戦士になったプクリポは、、、、」

そこで言葉を詰まらせる、続く言葉を
口にしていいのか悪いのか戸惑い。

「先生、あたしちっちゃい頃は大国にいたんだって
 お爺ちゃんが言ってた。」

「大国ってメギストリス生まれだったの?ももちゃん。」

「ううん、あたしが生まれてすぐお父さんが死んじゃって、
 その時にガートランドにいたお爺ちゃんが
 あたしとお母さんを。」

ガートランドと言えば屈強なオーガの大国である。
プクリポの町では歩けば魔法職に当たるが、
ガートランドでは戦士に当たる。

「まあ、先生初めて聞いたわ。」

「そこでね、お母さんはすっごい”戦士”だったらしいの。
 お爺ちゃんはいっつもお母さんのお話ししてくれるの。」





~ニコニコしながら話を続けるももを見ながら、
 先生は考えていた。
 ももはお爺さんと二人暮らし、両親は居ないと
 聞かされている。前からなぜこの子が戦士を目指すのか
 気になっていたが、そういう背景があったのか、と。





それから少しの会話で先生はももに帰宅するように言い、
教室からトコトコと校庭を歩いていくももを見送っていた。

「やはり道をしっかりと示してあげないと駄目ね。」

教師になってもう10年。もものように戦士に憧れる
子供は幾人かはいた。
それでもここで教えるのは魔法職の授業だけ。
卒業し、やがて冒険者になり、旅に出る。
そしてどうしても憧れの戦士に転職してしまう・・・

「待っているのは、早すぎる”死”だけなのよ。」





~翌日 校庭での魔法実習~

「みなさん、しっかりMPは蓄えてきましたか~?」

は~いと答える生徒達。

「えーと、今日はなんと特別講師をお呼びしています。
 誰だかわかり・・・」

言い終える間もなく初老のプクリポが先生の前に
歩み出て叫ぶ。

「魔法職になりたいか~!!!」

「・・・・・」(生徒一同)

「悟りを開きたいかぁああ!!!」

「・・・・・」(生徒一同)

「わしの様になりたいくぁああああ!!!」

「・・・・・」(生徒一同)

タラリと流れる額の汗をぬぐう初老のプクリポ。

「せ、先生や・・・少し元気が足りないようじゃの、
 生徒諸君は。」

パンパンと手を叩きながら先生が前に出て言う。

「は~い、ね?ご存じ校長先生ですよぉ~?
 元気出して返事しましょうね~。
 特に最後のは、はいと言う所よぉ~?」

~思春期は難しいのだ。





「ん~、ゴホン。諸君らはもうすぐこの学校を卒業じゃ、
 そして今日はこの学校での最後の魔法実習。
 であるからして、校長であるこのわし自らが
 講義と実演をお披露目するのがこの学校の伝統であり、
 人気の秘訣じゃ。」

静かに校長の話に耳を傾ける生徒達。

「まず話をせねばならん事は、承知の通り
 我らプクリポは小さく非力じゃ。
 冒険者になりどの職になるかは自由じゃが、
 生まれ持っての魔力の高さや多さ、小ささ故に
 モンスターから距離を置けばターゲットされにくい。
 味方からも何処にいるかわからないと好評じゃ。」

「じゃからわしらプクリポは魔術を磨き、魔法職に赴く。
 これは宿命なのじゃ。
 アストルティアの5種族の中でのプクリポの位置はそこなのじゃ。
 その宿命から外れる事すなわち”死”じゃ。
 前衛などオーガにやらせときゃいい。わしゃオーガはすかん、
 でかいからのぉ邪魔じゃ。あ、オナゴは別じゃぞ?」

無駄口一つ叩かず静かに話を聞く生徒達。

「え~、ゴホン。とにかくじゃ、卒業すればほとんどが
 冒険者になるじゃろう。この世界がそうさせるのじゃから
 仕方ないが。生き抜くには己を知り、賢くなることじゃ。
 わしの様にな。だが頭を使いすぎるとこのように
 ツルリと逝くぞぃ?」

静まり返った生徒達の視線が一点に集まる。

先生を手招きして耳打ちをする校長。

(ゴニョゴニョ 先生や、今年の生徒は少しユーモア心が
 ・・・ゴニョゴニョ)

(ええ、ええ、わかりますわかります。
 私にはわかっていますからゴニョゴニョ)

パンパン!と手を叩き先生が言う。

「はい!ではここからはいよいよ魔法実習に入りますよ~。
目指す魔法職を言ってから自分の一番得意な魔法を
唱えてくださいね~。」

我先にと生徒達は列を作る。その最後尾にももはいた。

(ももちゃん、ちゃんと参加してるのね。がんばってね。)

「では早速!と行きたいところですが!なにかもう一度
 校長先生から話があるそうです!」

校長は小さな箱を手に持っていた。
そしてその箱をゆっくりと開ける。

「え・・・なに?アレ」
「バカか?スライム・・・だろ?」
「青いしぷにぷにしてるしな。」
「でも、動かないぜアレ。」

静かに、と言うように片手をあげた校長が言う。

「このスライムは先日、学校の近くで死にかけておった。
 この学校の半径100メートルは結界で守られ、その辺の
 モンスターどもは中には入れないはずなんじゃが
 その結界の中で発見されたのじゃ。」

「それにこのスライムには幾つかのアクセサリーが
 装備されておる。つまりじゃ、このスライムは誰かの
 仲魔ということじゃ。」

生徒達が急に色めきだす。

「仲魔だってよ!すげえ!」
「もうちょっと良く見せてくださいよ校長!」
「どうして目を覚まさないのですか!校長先生!」

もう一度校長は手をあげる。

「そこでじゃ、回復魔法に自信のある者はこのスライムに
 魔法をかけてみてはくれんかの?
 もちろんわしも試みたが効かんかったのじゃ。」

ざわめく生徒達。

「校長でも無理だったのか?」
「そんなのあたし達がやっても・・・」
「でも、もし効いちゃったりしたら?」
「そうだよ、俺達は若いんだ!」
「よーし!みんなであのスライムを生き返らせようぜ!」

~かくして最後の魔法実習は、行き倒れスライムの
 治療実習へと変わった。それから数え切れない回復魔法が
 スライムに唱えられた。しかしスライムはピクリともせず、
 静かに目を閉じたままだった。





「校長先生、やはり無理のようですね。
 生徒達のMPも、もう・・・」

先生の言葉に校長はうなずく。

「うむ。皆見事な回復魔法じゃった。
 これだけやっても駄目ならもう何をしても
 駄目かもしれんな・・・主と離れた仲魔は時に
 狂暴化すると言われておる。
 少しむごいが処置も考えんといかんのぉ・・・」

「そう、ですか。こんなにかわいいのに・・・
 どうして主と離れてこんな場所で倒れていたんでしょう。」

「さあのぉ、冒険の途中で強敵にあって逃げ惑ううちに
 主と離れた、というところかのぉ。真実はわからんが・・・」

先生の袖をクイクイと誰かが引っ張る。

「あら、どうしたの?ももちゃん。」

「先生、あの子どうなるの?」

「ももちゃんも心配?残念だけど私達ではどうにも
 ならないみたいね・・・」

悲しそうな顔で言う先生。ももは小さな箱の中で
眠るようにじっと動かないスライムを覗き込んだ。

「お爺ちゃんが言ってたよ、どんな魔法も効かなくて
 平然としてる奴には近づいて直接殴るのが一番だって。」

「え?」

と先生は言う。

「多分この子、魔法を弾いてるの。」

「なんと、マホカンタがかかっておるというのか?
 しかしマホカンタは一時的な魔法、このスライムが
 見つかってからもう2日目じゃぞ。」

ももはそっとスライムに手を伸ばす。

「ももちゃん?!駄目よ、もしかしたら
 狂暴化するかもって・・・」

「あたし回復はホイミしかできないけど、
 こうすれば・・・」

手のひらをピタッとスライムのほっぺにくっつけて
ももは唱える。

「ホイミ!」


・・・・・


「ホイミ!」


・・・ドックン・・・


「ホイミ!」


・・・ドックン!・・・ドックン!


パリン!と何かが弾けてスライムからキラキラと
剥がれ落ちる。

「なんと!マホカンタが解除されおった!
 まことかかっておったのか!!」

そしてももは大きく息を吸い込み。


「ホ イ ミ !!」


ももの手のひらからスライムの体内へと
息吹が流れる。

「これは、魔法ではないぞぃ。
 ホイミと言っとるがでてるのは”気”じゃ。」

パァァァァアアアア!っとスライムから青白い光が放たれ、
プルルンと震える。閉じていた瞳がゆっくりと開かれ、  
パチリパチリと瞬きを。

「おはよう、スライムさん!」

ニッコリとほほ笑むももにスライムは言った。



「クル!クルよ!逃げて、もも!
 アイツらがももをさらいにクル!」



「え?」



次の瞬間、ドドドン!と激しい衝撃音がこだまする。

「?! 校長先生、これは!」

「!!! 結界の破れる音じゃ! 
 どうなっとるんじゃ!!」

~ズシン、ズシン、という地響きとともにやってきたのは

「キャーーーーー!」
「な、なんだコイツ・・・・?!」
「あ、あああ、、、、」

悲鳴を上げる生徒、腰を抜かす生徒、
そして逃げ惑う生徒達。

「先生、生徒達を奥の校舎に連れていくのじゃ!」

~ブン!ブン!と武器を振り回してやってきたのは

「結界が破られるわけじゃ、こんな奴を想定しては
 いないからのぉ・・・」

こんな辺境の小さな村に現れるはずもないモンスター。


”おにこんぼう”


「グヘヘヘッヘ、”もも”とやらは何処にいる?
 出さないと皆殺しだ。」

「そんな名前の生徒はおらんのぉ、お引き取り願おう。」

掲げた杖を大きく回し、詠唱するは最上級魔法。


「メ ラ ガイアー!!!」


灼熱の火球がおにこんぼうめがけて飛んでゆく。
ドン!ズォォオオオオン!!
直撃!爆炎と舞い上がった砂埃にまかれるおにこんぼう。

「どうじゃ?わしの魔法は、もっと味わいたいか?」

「グヘヘヘヘ、まあまあだな。」

砂埃の向こうから声がする、そしてヴォン!という
風切り音とともにとてつもなくでかい棍棒が振り抜かれ、
おにこんぼうが姿を現す。

”無傷”

「ヒネリ潰すのは簡単だが、殺すと探すのが面倒だ。
 だからさっさと教えろ。
 ”もも”というガキはどこだ?」

逃げ惑う生徒達の流れの中で、一人逆方向を見据えて
とどまっている生徒がいた。

「ももちゃん!駄目よ逃げないと!さあ、早く!!」

「先生、あのモンスターあたしの名前を・・・
 それにこのスライムさんが言ってるよあいつが
 あたしをさらいに来たって。」

先程目を覚ましたスライムはももの肩に乗っていた。

「何かの間違いよ!さあ、こっちへ!」

「・・・でも!」

そう言うももの腕を強く引っ張り、
奥の校舎へと連れていく。





「老いぼれのくせに、しぶとい。そんなに死にたいのか?
 お前が今生きているのはお前が強いからではない。
 俺が生かしているのだ、手加減でな。」

「黙れモンスター風情が。(じゃが、これはちと厳しいのぉ)」

「少し痛い目にあえば口も軽くなるか。」

そう言うとおにこんぼうはその巨体を軽くジャンプさせ、ズドン!
と着地で地面を大きく揺らした。

「ぬお?!」

揺れる地面に足を取られ尻餅をつく校長。

「さあて、どうするか。右手か?それとも左手か?
 それとも両足でもいっとくか?」

振りかぶった棍棒が渾身の力で絞られる。





「ああ!校長先生が!」

校庭から離れた奥の校舎に逃げ込んだ生徒達、
その一人が叫ぶ。おにこんぼうの棍棒が今にも
振り下ろされようとしていたのだ。

「み、みんな!こっち向いて!
(生徒達に見せてはいけない!)」

先生は校庭から目を離させようと生徒達に声をかける。

「こ、校長先生は大丈夫です!すっごく強いんですから!」

「でも、やばいよ!先生!助けにいかないと!!」

「だ、駄目です!それこそ校長先生の意に反します!!
 さあ、みんなまた大きな揺れが来たら
 危険だから伏せなさい!!」

おにこんぼうの起こした揺れは奥の校舎にまでとどき、
ガラスが数枚割れていた。生徒達がみな伏せるのを
確認した先生は校庭に目をやった。

「・・・・・・え?」

一人、走ってゆく者がいる。

一人、ここに居ない者がいた。

「!!!!!!! ももちゃん!!!」





其の二に続く。









何時まで経っても帰ってこない次郎を心配し、
三郎太が様子を見に来て目にしたものは

わんにゃん騎士団の集会所の影で、膝を抱えて
何かを待つようにじっと空を見上げている次郎だった。

「もうすぐ帰ってくるでやんす・・・・
 やっはろ~・・・とか言いながら・・・・」

「ふふふ・・・あっしは言うでやんすよ・・・
 あなたに・・・恋を・・・・ふふふふふ・・・」

三郎太の背中でブツブツとそんな事をうわ言のように
繰り返す次郎。

すっかり日も落ちた住宅街。離れた家の影に、一美と
次郎を寝かす三郎太。

「フンガー・・・フフンガー・・・・とかもうええわ。」
「まじぶち切れたわ騎士団かキビダンゴか知らんが、もう切れた。」
「ぶっ潰す、もうなんやろコレ、血管切れそうなんですが?」
「お姉ちゃんお兄ちゃん、仇取って来るわ。スコーンと。」
「俺の怪力でドカーン壊してビリリー破いてくるわ、ほんま。」
「人がフンガフンガ言うてたら調子乗りやがってあいつら、ほんま。」

切れたらめちゃくちゃ喋る三郎太であった。





ドンドン! ドンドンドン!!

「おーい、ちょっと開けんかいボケコラ!」

ドドドン! ドン!

「あーええのか?ドア蹴破るで?俺三郎太やけど!」

ドドドドドドドン!

「知ってるやろ~!この前グレンの力自慢コンテストで・・・」

と、その時ガチャリと玄関が開いた。

「おーおー、出てきた出てきたちっこいのが。ええかー、一回しか言わんぞ?
 俺今めちゃくちゃハラワタ煮えくり返っとるんじゃ、旗出せ旗。
 俺の事知ってるやろ?三郎太や三郎太。なんてったってこの前の
 力自慢コンテストで・・・」

刹那、三郎太の周りの空気が揺れる。

「・・・ん?あれ、お前いつの間に背後に・・・」

そして無数の打撃音が三郎太を襲う。何が起こったのかわからないまま
倒れ行く三郎太、その視線の先には金色のプクリポ。

「ああ、お前が噂の・・・・・ぐはぁ・・・げぼぉ・・・」

末っ子瞬殺。

めでたしめでたし。とりあえず話ののびしろ無いので完!
扉の横の窓から、そっと中を覗き込む次郎。

「・・・オーガ女子でやんすか。今回はアレで
 いってみるでやんす。」

コンコンコンと扉をノックする。しばらくすると
勢い良く扉が開けられた。

「やっはろ~!('-^*)/」

そのあまりの天真爛漫さに、次郎はしばし思考停止した。

「あ、イカンイカンでやんす。・・・やあ!オーガのお嬢さん。
 あっしは世界中を旅する行商人。」

そう言いながら背中の鞄から風呂敷を取り出し、ササっと
地面に広げる。

「え~なになに~?ヾ(@°▽°@)ノ」

そして懐から小さなハリセンを取り出し、スパーン!と
自分の膝を叩く。

「お嬢さんは運が良い!つい先日商品化されたばかりの
 オーガ女子専用”ツノ磨き粉”!!これがなんと!!」

またスパーン!とハリセンを叩く。

「発売開始記念で30%引き!たっっったの100万G!!」

そう、ここから始まるのだ。魔の商談タイムが。
100万Gという値段に、まず相手はまけてくれと
持ちかけてくる。

「え~、高いなあ・・・安くなんないの?(@Д@;」

ほーら来た。次郎の目がギラリと光る。

「ん~~~~、仕方ない!お嬢さん”だけ”に特別な
 セットをご用意しましょう!」

基本女子は”だけ”にとかの言葉に弱い。そこにつけ込んだ
絶妙な心理操作と値段調整で徐々に相手の感覚を
麻痺させていくのだ。

「いいですか?よーく聞いてくださいお嬢さん。
 先程このオーガ女子専用"ツノ磨き粉”が100万Gと
 いいましたよね?」

「うん!(^ε^)♪」

「実は、なんと、これに・・・”ツノ磨き粉専用ブラシ”
 を付けてお値段据え置きの100万G!!」

スパーーン!!

「どうですか!実質的な大幅値引き!本来ならこの二つは
 100万Gでは絶対に買えません!”今だけ”なんです!!」

スパーン!スパーン!

磨き粉を買えばどうせブラシも買わなければならない。
そうすると100万Gを超えてしまう。

でもこの特別なセットだと100万のままで二つ揃ってしまう。

この恐ろしいまでの深層心理への働きかけ。このブラシは
次郎の手作りで、材料は拾ったきれいな枝と麻の糸。

つまり0G。





(さー悩んで悩んで葛藤するでやんすよ、次に相手が言う
 台詞もそしてその台詞に対抗する手段も、全てこっちには
 そろってるでやんす。)



「あたしをミロ!ヾ(。`Д´。)ノ」



「はひ?」

そのなんの脈絡も無い言葉に、思わず妙な声が出てしまう次郎。
そしてつい言われた通りにオガ子を下から上へとジロジロと
みる次郎。

「中々ナイスなバディでやんすね・・・いやいや、イカンイカン。
 別にこれと言って、、、ん?一部位装備が足りてない?」

「あったり~(o^-')b」

キャッキャウフフと飛び跳ねるオガ子。

「おじさんのソレ、買っちゃってもいいんだけどぉ~。
 やっぱ綺麗に装備揃えてからツノも磨きたい!\(*`∧´)/」

ちょっと拗ねた様なその仕草に次郎は、

「ちょっとカワイイでやんすね・・・あ、イカンイカン。」

「そうですなー!あっしもそう思いますですよ!!競売所は
 すぐそこにありますし、今から買ってみては?」

「そうしよっかなーo(^▽^)o」

次郎とオガ子はすぐ近くにある競売所へと向かった。
さっそくオガ子は検索を始めたようだ。しばらくして、

「あった~!ヾ(@°▽°@)ノ しかもスッゴい耐性付き!
 ハイブリッドでこの値段は奇跡!!(ノ゚ο゚)ノ」

「おお、早速買ってしまいましょう!」

「あ!お財布忘れた!。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。」

「え?早く取ってきましょう!あっしは待ってますんで。」

「え~!取りに行ってる間に他の誰かに買われちゃったら
 どうしよぉ~・°・(ノД`)・°・」

地面にへたり込み泣くそぶりを見せるオガ子。

「そ、そうでやんすね・・・その可能性も無きにしも非ず。」

「嫌だ~!この装備じゃなきゃツノも磨きたくない!。゚(T^T)゚。」

オガ子にしてはあどけないその泣き顔に次郎は、

「キュ、キュンとくるでやんすね・・・いや、イカンイカン。
 わ、わかりました!あっしが立て替えておきましょう!」

パァーっと笑顔を取り戻すオガ子。そして欲しい出品装備を
教えられた次郎が値段を見る。

「ギョギョギョ!さ、300万Gぃい?」

次郎のがま口は特殊で、自分の銀行と亜空間で繋がっているのだ。
300万Gくらいならすぐに払えるのだが・・・

「お、お嬢さん?ちょっと高すぎじゃーありませんか?
 この一つ上のなら120万Gだし。」

さっきとは打って変わってキリリとした表情で
次郎に向かってオガ子は言う。

「あたし思うんだ!おじさんがせっかくわたし”だけ”にと
 言ってくれた磨き粉で磨かれたツノには、それくらいの
 装備じゃないとっって!(`・ω・´)」

そのあまりに凛々しい姿に次郎は、

「あ、コレが恋?・・・いや、イカンイカンでやんすよ!」

「そうですか、あっしも見たくなってきましたよ。ピッカピカに
 磨かれたツノでこの装備を着たお嬢さんを!」

ポチリ。

次郎はポチった。

「ありがとぉ~おじさん!о(ж>▽<)y ☆ でもでもぉ~
 やっぱ装備揃うと色もつけたいよね!ヽ(゚◇゚ )ノ」

「そ、そうですな!」

ポチリ。

「あ!この装備揃ったら装備してみたい武器が
 あったんだ~!(・∀・)」

「ぶ、武器でやんすか?!」

ポチリ。

「新しい装備ちゃん達を試したい!(`・ω・´)
 強いのがいいな!四諸侯とか!(#⌒∇⌒#)ゞ」

ポチリ。

ポチリ。

ポチリ。

ポチリ。





金しか愛さなかった男が恋をした。

それはほんの小さな恋だった。

そう、微熱に浮かされた様な。

幾千万の金も彼女の笑顔の前では0に等しい。

ビラリビラリと舞う札束。

ドクンドクンと跳ねる鼓動。

これが

「・・・・・恋で、やんすか・・・」

「じゃ、お金取ってくるね!おじさん!(*゚ー゚)ゞ」

そう言うとオガ子はルーラ石を掲げ、飛んで行く。
がま口から繋がる亜空間を覗き込む次郎。

残金2369G。

「は、はひ?」

思わず妙な声が出る。そっとがま口を閉じた次郎は
今しがた飛び去ったルーラが描いた軌跡を眺めた。

空高く続くその一筋の青い軌跡は、今、次郎のほほを
伝う涙を写し取ったようだった。




「ここに奴等騎士団のアジトがあるんでやんすね。」

刺客三兄弟はわんにゃん騎士団のチーム集会所がある
住宅街に到着した。

「さて、まずは離れた場所から偵察よ。旗がどこにあるのか
 確かめないと。」

三人は、わんにゃん騎士団の集会所の一軒隣の家の影から
様子を窺うことにした。

「無いフンガー!」

「まあ、大事なチームの旗を外には置かないわね。次郎、中は
 どう?見えるかしら?」

”みやぶる”スキルで望遠鏡を出し、中を覗く次郎。

「・・・・・・・!! ありやした姉御!でも、中に誰か一人
 いるでやんすよ。」

「男?女?」

「あれは、、、男・・エルフの男でやんす。」

一美が胸の第一ボタンを、ポチリと外した。
どうやら”ダイナマイツ 一美” 出陣のようだ。

「わたしが一発で決めてあげる。あんた達は他の騎士団の
 奴等が来ないか見張っておくのよ。」

「姉御、油断は禁物でやんすよ!」
「おっぱいおっぱいフンガー!」
「しばくわよ三郎太。」

一美の職業はスーパースター。騎士団の集会所に一歩一歩
モデル歩きで近づきながら唱える

「メーーーイクッ アーーーーーップ!!」

ごんたが魅了された。
ボボが魅了された。
ロドリゲスが魅了された。

住宅街に放し飼いにされてる仲魔達が悉く魅了されてゆく。

「ウフフ、今日も美しいわ。覚悟なさいエルフの坊や。」

そして一美は扉をノックする。





少し待っていると、トタトタトタと扉に近づく足音がし、
扉が開く。

「どちらさま~?」

(あら、かわいいエルフ坊や。あまり過激なのは必要
 無さそうね。まずは・・・)

”悩殺ポーズ初級 胸強調のポーズ”

「ねぇ、坊や。お姉さんちょっと胸が苦しくなっちゃって・・・
 少し休ませてくれないかしら?」

これみよがしに胸の谷間を見せ付ける一美。この時点で
並の男なら致死量の鼻血を出しかねないレベルだ。

「・・・・・あの、なんですか?一体。ここは病院じゃ
 ないんですけど。」

恐ろしいほどのローテンションの返答に、一美は一瞬
相手が何を言ったのかわからなかった。

「え?・・・・あ、ぼ、坊や?そうね、ここが病院じゃないのは
 知ってるわよ?あ、眩暈が・・・」

フラフラとよろけたフリをし、抱きつこうとする一美。この連携で
抱きつかれた男は、全員死んだ。も同然になる。興奮が頂点を軽く
オーバードライブし、ある種の”廃人”と化すのだ。



・・・・・サッ・・・ビッターーン!



(え?・・・避けた?・・・今避けられたの?!)

確実に倒れる身体を受け止めて貰えると思っていた一美。
自由落下の速度で地面とキッスをする。

(何、何なのこの子・・・幾ら少し幼いとはいえわたしの色香は
 男のDNAそのものに影響をあたえるのよ。すなわち
 抗う事は不可能なのよ!)

「いたた~、てへ。坊やったら照れちゃってかわいい~。
 お姉さん、倒れる身体を支えるドサクサ紛れに胸くらい
 ちょっと触られても怒んないわよ?ウフフ」

そう言いながら起き上がった一美は、エルフの坊やににっこりと
微笑みかけ・・・・・・・られなかった。

(!! な、なんて目をしてるの!どうしてこのわたしを
 死んだ魚のような目で見れるの?!おかしい!この子おかしい!!)

だが、ここで引き下がっては兄弟に示しがつかない。男、しかも
こんな坊や相手に。

”悩殺ポーズ中級 ふとももちらりのポーズ”

からの~

”悩殺ポーズ上級 第二ボタン開(かい)!”

ポロリンハラリラリ~ん!

もはや全世界の男共が魅了されてもおかしくないレベルだ。
そして一美はポニーテールの髪を解き、かき上げる。
斜め45度からの流し目でエルフ坊やを見つめ、クチビルに
手をあてがった。

出る、遂にあの技が発動されようとしている。

「ウフフ。坊や、あなたには刺激が強すぎて間違って
 ショック死させちゃうかもだけど、許してね?」

”チュ!”

悩殺純度120%の投げキッスから、具現化されたハートが
宙をゆっくりと漂いながら、エルフ坊やに向かっていく。

「これでもう、あなたもわたしの ★と ★り ★



バッターーーーン!



扉が閉められた。
問答無用で。
具現化されたハートが閉じられた扉に当たって落ちる。

決めポーズのまま、呆然とする一美。
こんな事はありえない、あまりの衝撃にフラフラと
よろける。

閉じられた扉に寄りかかった時、中から声が聞こえてきた。



「・・・・様~、聞いてくださいよ~。今しがた変な
 女が来て胸が苦しいだの、眩暈だのと言って・・・」

(さっきのエルフ坊や。中にもう一人居たの?)

「ひんそな胸突き出したり、抱きつこうとしたり、見たくもない
 足とか見せてきてですね~、興味ないんですよ!!」

扉に耳をつけて聞き耳を立てる一美の体がプルプルと震える。
ひんそだの、見たくもないだの、未だかつて浴びせられた事の無い
台詞に自我が崩壊してしまいそうだった。

「やっぱり胸はもっとこう、ババーーン!と。ふとももも
 もっとドカーーン!とあなたみたいじゃないと!」

この世にわたしより、ババーーンでドカーーンな女がいるって
言うの?ありえない、ありえない!!

もはや歩く事もやっとの一美。扉の横の窓から中を覗き込んだ。

「い、一体、どんなダイナマイツな女なの・・・」

覗き込んだ先には、等身大のブロマイドに語りかける
エルフ坊やの姿があった。そのブロマイドに写っている
人物を見た一美は。



白目をむいて崩れ去った。







「あ、カンダタがいるでやんす。・・・あ!姉御ぉぉお!!」

「おい!三郎太! あ、姉御がやられた!助けに行くでやんすよ!」
「フンガ?! フフンガーーー!!」

白目をむいて気絶してる一美をおぶって戻ってくる三郎太。

「ふ、フンガー・・・」

「姉御がやられるなんて、一体何があったでやんすか・・・」

もう一度望遠鏡で騎士団集会所を覗いてみた。

「ん?あのエルフの小僧、ルーラでどっか行ったでやんすね。」

「今がチャンスでやんすか・・・・ぬぬ?入れ替わりに誰か
 きやがったでやんす。」

望遠鏡をしまい、懐のがま口を取り出す。どうやら
”守銭奴の次郎”出陣のようだ。

「三郎太、姉御をしっかりみとくでやんすよ。」

口元をニヤリと歪ませ、次郎は笑う。

「文無しにしてケツの毛まで引っこ抜いた挙句に、旗を
 奪ってくるでやんすよ!」

そう言い残し、シタタタ!とわんにゃん騎士団集会所へと
走っていく次郎であった。
※この物語はフィクションであり、登場人物名は
 そのまんまですが、アストルティアの
 Ver時期、その他諸々非常に適当です。

※物語上、少し呼び名の変更や敬称略してます。

※携帯の方は横画面で見てもらえると快適です。
 (縦だと改行がズレます)





とあるグレン住宅街のとあるチーム集会所。

「お前ら三人に集まってもらったのは他でもない。
 アレを実行する時が来た。」

「遂に、ヤルのね。」

「ああ、もう我慢できん。先日の最後通告にも奴らは
 完全無視を決め込みやがった。」

「堪忍袋の尾がキレやんすね。」

「我が、わんにゃん騎士clubに何時までたっても
 新メンバーが入らないのは、ぜーーーんっぶ奴ら
 わんにゃん騎士団のせいだ!!」

「パクリだフンガー。」

ドン!と机を叩き、さらに興奮は加速する。

「し か も だ!奴らグレン王の依頼を見事完遂し、一躍
 名をあげやがる始末!!この前の酒場での、アレといい
 く、く、くそぉぉ・・・」

「お、落ち着くでやんすリーダー。」

わんにゃん騎士clubのリーダー、ガッテン。
つい先日の酒場での出来事を思い出していた。





各町の酒場にはフリーの冒険者が、自分に合ったチームを
効率よく探せるようにとチームの紹介文が書かれた掲示板
が置かれている。

そしてガッテンはよく酒場にきてこっそりとそれを監視
しているのだ。そしてその日も・・・

「どっかいいチームはないかな~」

「おい、わんにゃんて知ってるか?今結構話題のチームだぜ。」

「おー知ってる知ってる!グレン王の依頼を見事達成したって
 話だよな。しかも、敵はあの伝説のキングヒドラって話だ。」

「すっげーよな、やっぱ入隊申告するならわんにゃんしかないよな!」

「ん?こっちにもわんにゃんてあるぞ?・・・わんにゃん、騎士、、
 clubぅう?」

フリーの冒険者達が顔を見合わせる。

「これ絶対人気にあやかったパクリだよなw」

「ああ、間違いないwww いるんだよなーこう言う恥ずかしい事
 平気でする奴。clubってなんだよwww」

掲示板の隣のテーブルで、手に持つジョッキをプルプル震わせるガッテン。

(・・・設立したのは、うちが ”先” だっちゅううううの!!)





思い出し笑いならぬ思い出し怒りでツノの先まで真っ赤に
憤怒したガッテン。

「いいか、チームの命である旗を奪ってくるのだ。旗を無くした
 チームは一週間以内にそれを探し出さなければ解散となる。
 クハハハハ・・・燃やしてやる、奪って踏んで踏んでそして
 燃やしてやる!!」

「やり方はお前達に任せる、アストルティアにわんにゃんは
 一つでいいことを思い知らせてやるのだ!!」

「御意!」(三兄弟)

こうして、わんにゃん騎士団に三人の刺客が放たれた。
どんな奴等が、どんな手段で、わんにゃんを陥れ旗を奪うのか。
血で血を洗う抗争に発展してしまうのか・・・?!





「しかし姉御、実際の所騎士団の方はどんな奴等がいるんで
 やんすかね?」

そう姉御に問いかけるのは、刺客三兄弟の真ん中、長男に
あたる”守銭奴の次郎”

世の中金が全て、金を操りどんな相手でも最後には文無しに
して再起不能にするという。

「さあねぇ。あたしもそんなに知ってるわけじゃあないのさ。
 今までも別に大して名の売れてるチームじゃなかった
 はずよ。」

そう答えるのは刺客三兄弟の一番上、長女の 
”ダイナマイツ 一美(かずみ)” 

オーガ♀の中でもトップレベルのダイナマイツボディで
これまで骨抜きにしてきた男は数知れず。

彼女の悩殺投げキッスは、たとえ魅了100%の装備を
身につけていても防ぐ事は出来ないと言われている。

「まあ、この前のヒドラ討伐で一躍名を上げたのは確かね。
 どんな奴等かと、褒章授与式を覗きにいったんだけど。」

「そんなに強そうな奴等には見えなかったわ。一人はガクブル
 してたし。ただ、プスゴンの着ぐるみでグレン王から
 褒章受け取る度胸は凄いわね、あの子は大物よ。」

「プスゴンフンガー!」

フンガーフンガー五月蝿いのは刺客三兄弟の末っ子の
”ちからこぶ 三郎太” 呼んで字の如く力だけが自慢の
脳筋。力だけはアストルティアでも五本の指に入るだろう。

「騎士団の奴等も、あの時まともな返事さえしてれば
 あっしらに狙われる事なんて無かったでやんすのに。」

「ああ、そうね。ガッテンが奴等を目の敵に
 しだしたのはあれからよね・・・」

「手紙の返信フンガー!」





そう、あれはわんにゃん騎士club設立後ほどなくして
わんにゃん騎士団が設立された時。

「おいおいおい!俺達のパクリが現れやがった!パクリだ!」

ガッテンが血相を変えて集会所に入ってくる。

「慌しいねえ、一体どうしたのさ。」

「コレ見ろ!コレ!」

ガッテンが突き出した手には

---わんにゃん騎士団--- と書かれたチーム紹介の用紙。

「うちと似てるでやんすね。」

「似てるってもんじゃない!パクリだパクリ!これ絶対
 嫌がらせかなんかだぞ!!」

用紙を持つ手に力が入り、しわくちゃになる。

「しかもだ!検索で隣同士で表示されるもんだから
 紛らわしい事この上ない!俺達のチームに入りたい奴が
 間違ってあっちに行ってしまうかもしれん!!」

一美が目を光らせて言う。

「潰しちゃう?」
「フンガーフンガーフンガー!」

その一美の言葉にガッテンはしばし考え、答える。

「いや、俺もそう野蛮ではない。まずは書面で伝えよう。
 丁寧な書面でチーム名変更を頼めば、聞き入れるかもしれん。」



--- 拝啓 わんにゃん騎士団 殿

わたしはわんにゃん騎士clubのリーダを勤めるガッテン。
今回こうした書面を送ったのは他でもない、チーム名に
関しての事であります。

我々のチーム名、似すぎてはいませぬか?

後だの先だのあまり言いたくはないのでありますが
”先”にチームを設立したのは我々であります。

今後、トラブルを避けるためにもなにとぞチーム名を
変更してはいただけないだろうか。

こころよい返事をお待ちする。

わんにゃん騎士club ガッテン ---



そして三日後、わんにゃん騎士団から手紙が届いた。



--- 嫌だプ~ (ノ´▽`)ノ ⌒(呪) ---



「お前らを呪ってやろぉかぁぁぁあああああ!!!」

手紙は粉微塵に破られ燃やされ踏まれ埋められた。



----装備を整えたならば、この特別なまほうのかぎを
  使うといい。これならば閉鎖している迷宮にも
  入る事が出来る。

----ここ数日迷宮は閉鎖しておる、獲物に飢えている奴は 
  必ず現れるだろう。心してゆけ。

----生きて、帰ってくるのだぞ。





特別なまほうのかぎを掲げ、ラセツはグレン王の言葉を
思い返す。もう後戻りは出来ない。

「皆、準備はいいか?覚悟もいいか?」

静かに頷く3人。そしてラセツも頷き、まほうのかぎに魔力を
送り込む。目の前に現れたまほうのとびらが開き、4人は
吸い込まれてゆく。

移動する空間の中でととが言う。

「ラセツさん、僕この戦いが終わったら結婚するんですよ。」

「そうか、絶対生きて帰ろうな。」

「・・・・・ぷぷぷ」

「ととさん思いっきりフラグ立てないで下さい!」

ほどなくして迷宮に降り立つパーティー。
一見いつもと何も変わらない迷宮の風景。

しかし、何かが違う。そう、空気。
からみつき、どことなく黒いようで、重く
冷たい。

「いるな。」
「いますね。」
「この扉の向こう、すぐだね。」
「ど、ど、どどうしましょう!」

扉に手を置きラセツは言う。

「決まってる、倒すだけだ。」

ととも扉に手を置く、アテナも、そしてこっこも手を置き
それぞれがゆっくりと力を込め、扉を押し開いた。

「あ、せいすい忘れた。」(アテナ)
「なにぃぃいいいいい!」(ラセツ とと こっこ)













「・・・・何が、起きた・・・」

アテナの驚きの発言の後、扉は開いた。そして奴はいた。
そして、その後どうなった・・・?

倒れたまま辺りを見回すラセツ。前方にアテナ、少し横にとと、
だいぶ離れた場所にこっこが倒れていた。

「おい、みんな・・・大丈夫か!」

「く、、、一体何が・・・」
「いたたたた・・・」
「早く、回復、、、しなきゃ・・・」

頭上から声が聞こえる、ガヤガヤと五月蝿い。
ヒドラの5本の頭達だ。

「ん~弱っちいな~久々の獲物だというのに。」
「我のおたけびが強すぎるのだ。」
「ひっひっひ、楽しめないなあこれじゃあ。」
「・・・・・貧弱!」
「どうでもいい、はやいとこ食っちまおうぜ。」

おたけび?たった一発のおたけびでこの有様か!
ラセツは無理やり体を起こし叫ぶ。

「アテナ!とと!立てるんだろ、つか、立てええええええ!!」

「ベホマラー!」

こっこが唱える、しかし聖なる祈りがかかっていない回復魔法
ではその回復量も少ない。

「こっこちゃん!聖なる祈りをしてもう一度だ!
 そして自分に天使を!!」

「は、はい!」

ヒドラがゆっくりとこっこの方に向きを変える。

「回復は邪魔だなあ。」
「邪魔だ。」
「ひっひっひ、真っ先に潰さなきゃなあ。」
「・・・・・滅!」
「食えればそれでいい。」

「アテナさん!」

ととがアテナに目で合図する。2人がヒドラとこっこの
間に割ってはいる。

「こっこさんが準備完了するまで、なんとしても抑えましょう!
 バイキルト!」

アテナにバイキルトがかかった。

「タイガークロウ!」

シャオシャオシャオ!!

「おーおー、少しは痛いな。」
「ん~?俺達の仲間みたいなのが混じってるぞ。」
「だが、ニオイは違うな。」
「では、アレはなんだ?」

ヒドラの足が止まる。着ぐるみに興味津々のようだ。

プスゴンの着ぐるみの中でアテナがニヤリとする。

「メラゾーマ!!」

ドカーーン!!

油断していたヒドラにラセツの魔法が
直撃する。

「どうやら数は多くても一つ一つはおバカのようだ。」

「ベホマラー!」

「スクルト!」

「ピオリム!」

「準備完了しました!」

「こっちも強化かけ終わりましたよ!ただ、弱点属性が
 わからないのでフォースは控えておきます!」

「魔力覚醒!」

「暴走魔法陣!」

「オッケー!こっちも準備は整った、たたみ掛けるぞ!!」





各々が持てる力全てを発揮し、戦った。
アテナが最前線でタイガークロウ、ゴールドフィンガーで
ダメージを与えていく。

その後ろからととがバイキルトでアテナを強化しつつ
MPを分け与え、ピオリムで皆の素早さを維持する。

そしてその後ろ、最後列では魔法陣の中でラセツが魔法を
連発し、こっこが回復を唱える。

順調な戦いに見えた。

「よし、このままこの連携を維持して行こう、いけるぞ!」

だが、最前列で戦うアテナはそうは思っていなかった。

(おかしい・・・確かに手ごたえはある。時折くる攻撃も
 それなりに痛いけど、回復でなんとかなってる)

(でも、なんだろう・・・この違和感。手を抜いている?
 わざと?・・・どうして)

すると、頭上からボソボソと話し声が聞こえてきた。

「入ったな。」
「ああ、ちょこまか逃げやがるからなあ。」
「油断させりゃあ、向こうから・・・ひっひっひ。」
「・・・・・愚!」
「さて、食うか。」

アテナは後ろを振り返る。

「!! 近い! ラセツ、ととくん!!」

遅かった、順調な戦いに敵との距離を誤っていたのだ。
ヒドラの首の一体が大きく息を吸い込む。

「ひっひっひ、食らえ。”もうどくのきり”」

ブハァァァアアアアアアアアアア!!

前方に紫色の霧が立ち込めた。アテナ、とと、ラセツを
飲み込んでいく。

「みんな!」

叫ぶこっこ。

アテナは毒にかかった。
ととは毒にかかった。
ラセツは毒にかかった。

「ぐはぁ・・・!」
「こ、これは・・・まずい、ですよ・・・」
「これがただの毒、なのか・・・!?」

「はぁ?聞こえなかったのかあ?毒(poison)じゃ
 ないぞお?わしのは猛毒(Deadly poison)じゃ。」

「吸い込めば最後待つのは死のみ。ひっひっひ」

ラセツとととはどくけしそうを使った!

「!! 毒が消えない!」

「不撓不屈!」

「ラセツ!ととくん!」

スキルでなんとか猛毒を消したアテナ。

「わたしのどくけしそうで、、、今使うから!」

その瞬間背後で空気が揺れる。

ガシュ!ガブ!ガス!ドシュドシュ!!

五つの首が一斉にアテナに噛み付いた。

「ぐ、、、は・・・ぁ・・・!!」

アテナの銀のロザリオが砕け散った!

「あら、生きてる。」
「さしずめHP1で生き残った、といった所か。」
「すぐ死ぬ。」

「キアリー!・・・ベホイミ!・・・キアリー!
 はぁはぁ・・・ベホイミ!」

こっこの魔法でも猛毒は消えず、恐ろしいスピードで
減っていくHPをベホイミをかけることで、ギリギリ
ラセツとととの命を繋いでいた。

「どうして、なんで消えないの!・・・毒が強すぎて、
 アテナさんを回復する間が・・・ベホイミ!ベホイミ!」

「ひっひっひ、どくけしそうやお前程度の魔力では
 消えやせんよ。わしの猛毒は。ひっひっひ。」

ヒドラはのっしのっしと、こっこに近づいていく。

「おい、こいつ食わないのか。」
「アレは僧侶という奴だ、ほっとくと色々やっかいだっただろ。」
「あー、そうだったなあ。」

「キアリー!キアリー!ベホイミ!べ、、」

MPが足りない!

「あ、、、MPが!は、はやくせいすいを。あ、あった!」

鞄からせいすいを取り出したこっこは、それを使おうと頭上高く
掲げた。

「ガァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

耳をつんざくおたけびが空気を激しく揺さぶり、掲げたこっこの
せいすいのビンを簡単に砕く。そして、こっこをも激しく
吹き飛ばす。

ドガ!・・・・・ドサ・・・・

「あ、、、あぁ・・・・」

「・・っこちゃん!・・・こっ・・ちゃ!!せ・・・!ね!・・・!」

おたけびで耳をやられ、叫ぶアテナの声もきちんと聞こえない。
既にぴくりとも動かないラセツ、とと。

「やっぱり、、、やっぱりわたしなんかじゃ何の役にも
 たてない・・・」

起き上がることも出来ず、仲間を回復することも出来ず、アイテムさえ
まともに使えない。体が痛い、頭が痛い、耳が痛い、でも・・・
仲間をこのまま死なせるのが、もっと・・・痛い・・・

「う、うぅ・・・ザオラル!ベホイミ!キアリー!ザオラル!!」

必死に手を伸ばし発動するはずも無い呪文を唱える。

「おお、おお、健気だねえ。」
「もう食うぞ。」
「ああ、好きにしろ。」
「ひっひっひ。ん~?こいつなんかおかしいぞ。」
「!おい!早く食え!こいつ!」

ヒドラの口が大きく開き、こっこに迫ってくる。

「う、うぅ!・・・悔しい、悔しい!みんな!!」

ヒドラの横から向こうのアテナが見える。立って叫んでいる。
そして何かを、投げた。

ガシャン!パシャシャ!

それはヒドラに当たり、中の液体がこっこの頭にかかる。
聞こえる、アテナさんの声が聞こえる。

「せいすい忘れたけど!小瓶はあった!こっこちゃん!聞こえる?
 やったじゃん!背中!見てみ~!!」

「おーい!トカゲバカ!ほっとくとヤバイのは僧侶だけじゃ
 ないよ!大ダメージを受けた武闘家を放っておくと・・」

アテナの両手が残像を残しながら弧を描く。

「こういう事に、なっちゃうんだなー。」



「 ”一 喝!!!”」



凄まじい衝撃波が矢となりヒドラに飛ぶ。

ズッガーーーーーーーーン!!

「ぐ、ぐへ!!」

地面にへばり付き昏倒するヒドラ。





「こっこちゃん、聴かせてよ^^」

アテナの言葉に小さく頷き、両手を広げるこっこ。
背中の純白の羽がゆっくりと羽ばたき、その歌声は
命を宿して宙に舞う。



♪♪♪ 発動 聖者の詩 ♪♪♪



「・・・ふふふ、やはり僕の次に、天才でしたね。」

「なんか、色々と溜まってストックされてるんだ。
 残機持ちで落ちるのはかっこ悪いだろ。」

ラセツとととが起き上がる。

「ラセツさん!ととさん!」

「ラセツ!ととくん!わかってるよね!時間ないよ!」

「もちろんですよ、既に詠唱してます!バイキルト!」

「あのなぁ、その着ぐるみで言われても気合はいらないぞ。
 まあ、やるけどもな。魔力覚醒!超 暴走魔法陣!!」

「グガガァアアア」
「お、のれ・・!」
「コロスコロスコロス!!!」
「滅滅滅殺殺殺!」
「食って殺す!」

昏倒していたヒドラが徐々に動き出す。

「ととさん!言い忘れてました!弱点属性は闇です!
 ダークです!!メモ帳の隅に書いてました!!」

「ふふふ、弱点属性がわかった以上アレを使わないわけには
 いきませんね!」

「いきますよ、ラセツさんアテナさん!」

「ダークフォース!そして、とっておきの・・・」



「”フォースブレイク!!!”」



虹色に輝くオーラが弾丸となりヒドラに突き刺さる。
ヒドラの全耐性が下がった!

「なんだ、こんなモノ痛くも痒くもないわ!」
「グゴオオ!」

「そう?でも今から嫌というほど思い知るよ。
 内側の崩壊がどれだけ恐ろしいか。」

「ためる!」

ドシューン!

「もういっちょ!ためる2!」

ドシュシューン!

スーパーハイテンション!!

アテナの体から凄まじいオーラが噴出し、プスゴンの
着ぐるみを吹き飛ばした。

「やっちゃえーーー!アテナさん!ラセツさん!!」

「わたしの」
「俺の」

「とっておきね。」
「とっておきだ。」




「”ライガークラッシュ!!!”」
「”メガライアー!!!”」




ヒドラに

756ダメージ!
820ダメージ!
740ダメージ!
1500ダメージ!クリティカル!
1230ダメージ!クリティカル!

ヒドラに

5500ダメージ!クリティカル!

「?!!!・・なんだ」
「???!!この」
「!!!・・・ふざけた」
「ダメージ・・」
「・・・・は。」

グギャアアアアアアアアアアアアアア!!









4人の目の前で灰と化すヒドラ。
誰も言葉を発さず、4人はそれぞれを見る。
勝てた、勝ってしまった。

「ま、まああれですよ!天才の勝利って事で!」

「なんだそれ、 紳士の勝利だよ!」

うってかわってわいわいと騒ぎ出す2人。

「こっこちゃんの活躍のおかげだね。」

アテナがこっこの頭を撫でながら言う。

「い、いえ!あそこでアテナさんが!・・・ビンが、
 それで耳が治って、うぅ・・・それで・・!!」

溢れ出す涙に言葉はつまる。それぞれが、それぞれの
役割をこなし、そして勝利した。
個が集まり全となり、全の中に個はある。
個の想いは全であり、全の想いは個を強くする。

「あれ?あそこになんか宝箱ありますよ?」

「ん?赤いな。何が入ってるんだ?」

「ラセツさん開けて下さいよ。」

「いや、ここはととに譲る。」

「怖いんですか?紳士のくせに?」

「天才だったら、宝箱なんて怖くないだろお?」

「無闇に箱は開けるなと、天才の勘がですね・・・」

そんな2人をよそに、アテナが宝箱に手をかける。

パカっ!

「!!!」
「!!!」

「あ、なんか入ってますよ?アテナさん」

「ん~?ベルト、かな?装着してみよう。」

なんの疑いも無く装着しようとするアテナ。

「ま、待て!アテナ!呪われたアイテムかもしれん!!」

スチャ!

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」

「大丈夫、なんですか?」

その問いにアテナは

「・・・・・重ぉぉおお!!」

すぐさま外し放り投げる。

ドシャアアア!

「女子には必要ないわ。」

「おいおいこらこら!凄い貴重なモノかもしれんだろ!!」
「そ、そうですよ!ふーふー!傷、ついてないですかね?」

「疲れたー、お腹も減ったね。帰ろう!こっこちゃん。」
「は~~い^^」

「まてまて、これちょっと傷入ってるぞ!やばいんじゃないか?」
「これヒドラから出たアイテムですよ!」
「グレン王に届け出なきゃいかんよな・・・」
「ちょ!しかもここ、割れてますよ!!」
「アーテーナー!お前どうすんだよ、これ!!」
「あれ、居ないですよ?」
「・・・・」
「どうします、これ。」
「とと、装備しちゃえよ。もう黙っとこう。」
「いや、アテナさん装備しちゃってますし。無理です。」
「・・・・・・・・・・超貴重品かもしれんものを
 一瞬でガラクタにしやがった・・・」
「ガラクタ?」

「!!!」
「!!!」

「あそこに持って行こう!」(ラセツ とと)





The END



 
 






ラセツパーティー一同はグレン城、玉座の間に来ていた。

「そなたらが今回の迷宮調査をする者達なのだな。」

「はい。わんにゃん騎士団のラセツ、アテナ、とと、こっこ
 でありまう。」

(噛んだ)
(噛みましたね)
(ガクガクブルブル)

グレン王を前に少々緊張しているようだ。

「うむ、そなたらの調べた情報と我々が調べた情報を合わせ見ると
 やはり迷宮に現れている謎の魔物は・・・」

「”キングヒドラ”で間違いないであろう。」

キングヒドラ。時代の節目に現れては残虐の限りを尽くす強力な
モンスター。過去の勇者に幾度か倒されてはいるが、数百年の
時を経ればどこからともなく復活して現れるという。

「わんにゃんの戦士達よ、敵がキングヒドラと分かった今、
 そなたらに聞こう。この任務、強制ではない。」

「無理と思えば辞退するのも聞き入れよう。これは王国精鋭騎士達に
 まかせるべき任務かもしれん。」

しばしの沈黙が流れる。

(キ、キングヒドラ・・本でしか見たことないがあれはヤバイだろぉ)
(トカゲっぽい奴だったっけ?プスゴンちゃんに似てたかなあ)
(こ、これは天才にも少々荷が重いですね・・・)

沈黙を破りラセツが口を開こうとしたその時、

「やれます!ラセツさんととさん、アテナさんはめっちゃ
 強いんです!・・・わたしはそうでもないですけど。。。」

「一度引き受けた事を辞退するのは武士の恥です!なんです!
 武士の生まれじゃないですけど、そう思うんです!!
 だからそのキングヒドラ、やっつけてきます!!」

(む、無茶しやがって・・・こっこちゃんTT)
((°Д°;≡°Д°;))
(驚くかなあ、トカゲ)

こっこの言葉にグレン王は玉座から立ち上がり手を叩く。

「よくぞ言った!このグレン王も久々に血がたぎってきたぞ!
 ぬしらの骨は拾ってやる!存分に戦ってくるのだ!!」





「あの~、わたし余計な事言っちゃいました?」

こっこが申し訳なさそうに言う。

「いや、よくよく考えたらあそこで引っ込むのは色々と
 かっこ悪い。お、この装備いいな!」

一同はグレン城武器庫に来ていた。グレン王のはからいで、武器庫の
装備は自由に使っていいとの事だ。

「そうですね、この事は他のチームにも知れ渡ってますし
 怖いから逃げたとあっては、天才の名に傷がつきますからね。」

「そうですよね!」

各自おもいおもいに装備品を漁る。あーでもないこーでもないと。

「装備もいいけど、職はどうする?」

プスゴンの着ぐるみの上から、怪盗の仮面を付けたアテナが言う。

「ああ、そうだった。先に誰が何をやるか決めとかないとな。」

「あの~、わたし僧侶しかできません・・・しかもLv70です!」

「おっけー、こっこちゃんはそれでいい。安全な後方がいいし。」
 俺は火力の魔法使いで行こうと思ってるんだが。」

「いいんじゃないですか?僕は魔法戦士で行こうと思います。
 ですから、アテナさんは武闘家なんてどうでしょう?」

「プスゴンがいい。」

グレン王に会う時もプスゴンの気ぐるみのままだったアテナ。
玉座の間の前でラセツとととがどれだけ引っぺがそうとしても
脱がなかったのだ。結局そのまま玉座の間へ。

寛大なグレン王に感謝しなければならない。

「はいはい、お前はプスゴンそのものだよ。外はそれでいいから
 中身はちゃんと武闘家でよろしくな。」

「あーい。」

「よし、これで決まりましたね!各々の職業で装備を選び直し
 ましょう。耐性も考えてくださいね!!」





結局装備が整ったのが夕暮れも間近。一同はグレン城を後にし
人通りも少なくなった城下町へと降りていった。

「まあ、こんなもんだろう。毒耐性、攻撃魔法耐性も皆
 それなりにある。毒といってもすぐにどくけしそう
 食べれば大丈夫さ。」

「僕なんて毒耐性95%ですよ!もう食らうほうがおかしいレベル!」

「たいが~・・・くろぉ~・・・たいが~・・・くろぉ・・・」

なにやら素振りをしているアテナ。その手には対竜にはもってこいの
竜王のツメが装着されていた。

「なんだかんだで、やる気だなアテナも。
 こっこちゃんも大丈夫かい?」

「はい、なんとか揃いました。あの、一つ質問なんですが・・・」

「ん?何?」

「皆さん、ひっさつわざって使ったことありますか?」

「しょっちゅう」(ラセツ とと アテナ)

「で、ですよね。おっかしいなあ・・・」

首をかしげながらスティックやら僧侶の証をそわそわと
触っている。

「僧侶のひっさつわざ、”聖者の詩”は凄く強力な技ですよね。
 仲間がピンチの時に発動できれば、形勢逆転も可能です。」

こっこはうつむき答える。

「わたし、まだ一度も発動したことないんです。今まで何回も
 ピンチな時もあったのに。」

「もし、今回の大事な戦いでも・・・・って考えたら・・・」

厳しい戦いでの”聖者の詩”の重要さは誰もが知っている。
強敵との戦いにひっさつわざを覚えていない僧侶は論外。
これは暗黙の了解だった。

「でも、こっこちゃんは覚えてるんでしょ?」

「はい。」

「なら大丈夫だよ、いずれ使えるようになるし。今回も
 聖者の詩なんか要らない位、サクっと倒しちゃうよ。」

シュシュシュ!とそのツメで空を斬るアテナ。

「ん?なんか匂いますね」

クンクンと鼻をならすとと。

「皆おまたせ!」

その声に振り返るとリーダーのってんが大きな風呂敷を
もって立っていた。そしておもむろに風呂敷を広げ、
即席のテーブルを組み立て、真ん中にドンと大きな鍋。

「おお!のってんさん特製ラーメン!!」

ととが真っ先に席に着く。

「へー、気が利くなリーダー。丁度腹減ってたんだよ。」

「わーい!おいしそう!!」

ラセツとこっこも席に着く。

「・・・・出汁は何?」

アテナが問う。

「豚骨!」

のってんが答える。

「セルフ?」

「・・・え?」

のってんの足辺りと鍋を交互にチラチラと見るアテナ。
頭に???マークののってん。

「アホな事言ってないで、アテナも席に着けって。」

こうして最後の晩餐が始まった。いや、失礼。
腹が減っては戦は出来ぬ。武士は食わねど高楊枝では
戦いには勝てないのだ。










満面の笑みで手を振るリーダーに見送られ
一同はグレンの城下町へとルーラした。





「リーダー急いで2階に駆け上がって行ったな。」
「あれはきっと出汁とってますね、微かに匂ってましたし。」
「絶対豚骨。」
「ガクガクブルブル」

相変わらずグレンは賑やかだ、特に酒場前は人の往来が
激しい。チームの勧誘、パーティの勧誘、イカサマダイス
の勧誘、様々だ。

「今回の目は71!はい~!あなたの負け~!さ~さ~
 払って頂きましょ5000G( ̄▽+ ̄*)」

「ラセツ5000G貸して。」

「アテナぁぁああああ!!!」

イカサマダイス屋にしぶしぶお金を払うラセツを
横目にととが言う。

「どうします?とりあえず謎のボスに関して
 聞き込みでもしてみますか?」

「そうだね。」

「ガクガクブルブル・・・オェ・・」

「! こっこさん大丈夫ですか!体調悪いんですか?!」

「い、いえ・・・緊張し過ぎてちょっと、絶対わたしなんて
 お役に立てないのに・・・」

財布の中を覗きながらラセツが会話に入ってくる。

「こっこちゃん、心配いらないよ。君の事はこの
 ”わんにゃんの紳士”が守る!!」

「そうですよ!この天才もいるんですよ!

「そ、そうですね!なんかちょっと元気でてきました!
 ありがとうございます!!」

「じゃぁ、聞き込み開始~。」

そう言うとアテナはふらふらと人ごみに消えて行った。

「じゃ、俺達も各自聞き込みするか。1時間後、またここに
 集合な。アテナのやつは俺が探して連れて来るから。」

「了解です!」

「はい!がんばります!!」





こうして聞き込みは始まった。
なにせ謎のボスに出会った者はほぼ全員が再起不能。

直接的な話は聞けないだろう、やられた者の仲間、知人、
それらを探し出して真実を見極める必要がある。

噂には大抵尾ひれがつくものだ。あてにはならない。

・・・そして一時間はあっという間に過ぎた。

「で、どうだった?俺の方はあまり収穫はなかったが
 一つだけ信憑性があるのが、敵は”毒”を使うらしい。」

こっこは小さなノートに何かを書いている。

「毒ですか!それはやっかいですね・・・僕の方も
 一つだけあてになりそうな話を聞けましたよ。」

「敵の色は”紫”だそうです。」

こっこは小さなノートに何かを書いている。

「・・・・・・・・ほぉ。」

「ラセツさんの”毒”と僕の”紫”、一致しますよね。」

「・・・・・・・・ナニが?」

「毒と言えば紫じゃないですか!これは間違いなく
 毒を使ってきますよ!確定ですよ!」

「うむ、確かにこれで毒耐性装備が必須というのは
 わかったな。」

こっこは小さなノートに何かを書いている。

「そう言えばアテナさんは、どうされたんですか?」

「ちょっと寄る所があると言ってたな。」

「強い武器でも買いに行ってるんですかね。あ、こっこさんは
 どうでした?・・・そのノートは?」

「あ、メモってました!えと、わたしはですね・・・」

と、その時ルーラの音が。

「おまたせ~。」

アテナ帰還。

「・・・・・・」
「・・・アテナさん・・・」
「あ、かわいい。」

「アテナ、何ソレ。」
「プスゴン。」
「うん、見ればわかる。」
「何故 今 ソレを 着る 必要が ある?」
「驚かせたいじゃん。」
「誰を?」
「謎のボス。」
「俺らが驚いたわ!!!」

プスゴンの着ぐるみをを着て、太陽の踊りをするアテナを
横目にラセツは言う。とともつられて踊りだす。

「はぁ、、、大丈夫かね。このパーティで・・・
 あ、こっこちゃんごめんね、話続けて。」

「あ、はい。わたしが調べてわかった情報は・・・」

先程から手にしている小さなノートをペラペラとめくる。

「紫色の巨大な体は強靭は鱗で守られ、複数の首があるそうです。」

「それぞれの首が強力な攻撃をし、毒、噛み付き、火球、など
 食らえば即死級の攻撃ばかりだとか。」

「そして属性は竜、どどど、ドラゴンでっす!!」

「あ、ととさんとラセツさんの情報もビンゴでしたね!
 さすがです!」

「い、いや、、俺らのなんてこっこちゃんのに比べたら
 カスみたいなもんだ。凄いな、どこでそんな情報を?」

「僕に匹敵する天才かもしれませんね!」

踊っていたアテナがこっこに飛びつき、頭をなでなでする。

「凄いね~こっこちゃん。どこぞの天才バカとヘンタイ紳士とは
 大違いだよ~。わたしの集めた情報も大体そんな感じ。」

「・・・・・・・・・・・・・・ウソだろ。」(ラセツ とと)



※この物語はフィクションであり、登場人物名は
 そのまんまですが、アストルティアの
 Ver時期、その他諸々非常に適当です。

※物語上、少し呼び名の変更や敬称略してます。

※携帯の方は横画面で見てもらえると快適です。
 (縦だと改行がズレます)





某月某日、リーダーのってんに呼び出され
皆チーム集会所に集まっていた。(数名は遅刻)

「えーと、皆さん。大変な事になりました。」

何時に無く緊張してるのってん。

「昨日のアトラス戦熱かったですね~。」
「ねぇねぇ、このドレアどう?」
「誰か迷宮行きませんか~。」

「あの、聞いてる?・・・アトラス、ドレアとかは
 いいとして、大事な話しようとしてるのに
 今から迷宮って・・・迷宮って・・・」

少し右側のツノがプルプルしだすのってん。

「はーい、迷宮いく~!」
「@2~。」
「おこんばんわ~^^」

(チーム全員の挨拶の応酬)

「あ!髪型変わってる!」
「かわいい~^^」
「俺の方がかわいい。」

そして次の瞬間、チームチャットに異変が起きた。

「ああああああああああああ
 ああああああああああああ」
「ああああああああああああ
 ああああああああああああ」
「ああああああああああああ 
 ああああああああああああ」
「ああああああああああああ
 ああああああああああああ」

発信者は、言わずもがな。

「ごめんごめん、リーダー。」
「みんな聞こうよ~。」
「すいません^^;のってんさんTT」

ようやく静かになったチーム集会所。
一つ咳払いをし、のってんは話し出す。

「この前グレン城にこの辺りで活躍してる
 チームのリーダーが呼び出されたの
 知ってるよね?」

頷くチーメン。

「でさ、その時にグレン王からでた話ってのが
 最近迷宮に出没してる謎のボスの調査。」

集会所にざわめきが起きる。最近迷宮に現れる
謎のボスの事は、今やアストルティアでは
知らぬ者は居ない。

「つまりこう言う事ですね、ランダムに編成
 される一般迷宮を一時閉鎖し、腕に自信の
 あるチームに調査をさせる   と。」

自称天才が言う。

「その通り!」

「で、どこが調査する事になったの~?」
「出会った奴、ほぼ全員再起不能にされてるらしいじゃん。」
「げ~、絶対嫌wwww」

「だから最初に言ったじゃん、大変な事になったって!!」

静まり返る集会所。

「我こそと勇気あるリーダーは前に出よ!てグレン王が
 言うからね、俺は怖いから動かなかったんだよ。
 その場から。」

「他のリーダーが後ずさりして、必然的にのってんさんが
 一番前になったんですね!」

自称天才が言う。

「その通り!」

「で、今から迷宮調査隊を選抜します!4人です!
 まず、我こそは!と思う人挙手ぅぅぅううう!!」

○○はログアウトした
○○はログアウトした
○○はログアウトした

「あらら~、新人さん達こぞってログアウトしちゃったね~。」

「ま、まあ新人君達にはちょーっと荷が重いしね。」

額の汗を拭いながら言うのってん。誰一人として手を挙げない。

「そ、そうだ!見事調査完遂したあかつきにはグレン王から莫大な
 褒美が出るそうだよ!ご褒美!」

ドヤ顔で言うのってん。

「命あってのなんとやらだよね~・・・」
「うんうん。」
「こくばんは~ヽ( ゜ 3゜)ノ」

「はい決定!1名決定!シャドー君に決定!辞退不可だから!」

「ん?ナニが?」

チーメンから事の一部始終を聞かされ、机に突っ伏したまま
動かないシャドーこと、ラセツ。ご愁傷様。

「では、シャドーに続く勇者はおらぬか~!わんにゃんの力を
 アストルティアに示そうではないか!!」

「リーダーが行けば?」

チームの不思議っ子、アテナが言う。

「え?」

「リーダーが行けばいいと思うよ。」

「あ、いや、俺はそのちょっとていうか、リーダーにもしもの
 事があれば、そのなんて言うかラーメンの事もあるし・・・」

「ラーメン?!」(チーメン一同)

「あ、違う違う。と、に、か、く!リーダーは参加しては
 駄目なの!そういうルールなんだって!!」

滴る汗でスープが出来そうだ。

「チ ヘタレ○ブが」

「あ、何?聞こえちゃったんだけど?今ヘタレ ○ブって言ったよね?
 誰?ねえ誰?」

誰もが下を向き何かを我慢するようにプルプル震えている。

「くくくくくくく・・・・」

堪えきれず笑い出すアテナ。

「あれ?アテナさん?もしかして君?」

「くっくっくっく、いや、あーわたしも行くよ。ラセツとは
 腐れ縁だし、骨は拾ってあげなきゃ。」

突っ伏したままプルプル震えていたラセツ。
アテナに向かってグっと親指を立てる。





そんなこんなで10分くらいの休憩を取り、残り2人を決める為
皆集会所に戻ってくる。

2~3人戻ってこなかったのはご愛嬌。

「え~、後2人となったわけですが。これ以上挙手を待っても
 無理そうなんで、ダイスで決めようと思います!」

おもむろにダイスを取り出すリーダー。

「今から順番に前に出てきて、このダイスを振って貰います。
 で!数の一番高い人と2番目に高い人に決定します!!」

もうグダグダ長引かせるのも嫌になったチーメンはしぶしぶと
ダイスを転がしてゆく。そして・・・

「ふ、これも天才ゆえの試練ですね。」
「ぎぃやあああああ!むりぃいいいいいい!!!」

選ばれた者は

とと に こっこ。

ラセツ アテナ とと こっこ はたして彼らの運命やいかに。