熔岩に埋もれた教会からウルアパンに帰るバスを日の暮れかけた道端で待っているとき、一人のバックパッカーと知り合った。
彼の名はトト。本当はもっと長い名前なんだけど、めんどくさいのでトトと呼んでくれ、と笑いながら言う。イタリア人で片言の英語を話す。スペイン語はぺらぺら。イタリア語とスペイン語とフランス語は親戚なので、一つが母語ならば他の2つを話すことは簡単なんだ、と言っていた。
ゴトゴト、ガタガタと、今にも分解してしまいそうに振動しながら、それでも全力で疾走するバスの中で、舌を噛みそうになりながらトトと話しているうちに、トトと僕が実は同い年だということが分かった。お互い、外国人の年齢はよくわからん、と妙に納得する。
さらには全くの偶然で同じ安宿に泊まっていることが分かった。当然、ウルアパンに着いたら一緒にビールを飲もう、という話になる。
旅は道連れ、である。
ウルアパンの安宿に帰り付くと、トトが昨日知り合ったというメキシコ人のおじさんと暗い廊下で鉢合わせた。名前はサクラメント。すでにかなり酔払っている。
僕たちが今からビールを買い出しに行くところだ、ということが分かると、サクラメントおじさんも一緒に行くと言い出した。
しかたがない。世はなさけ、である。
安宿の近くのスーパーでビールを多量に買い込み、宿に帰る途中でサクラメントおじさんが、ソカロのベンチで一緒にビールを飲もうではないか、と言い始めた。
日本以外の外国ではどこでもそうだけれど、メキシコでも屋外でアルコールを飲むことは法律で禁止されている。その法律を破ってでも、今直ぐに飲みたいらしい。
当然、トトも僕と同じように、宿に帰ってからビールを飲みたいハズだと思い、トトに目配せをしようとして驚いた。トトが断然乗り気なのだ。彼もサクラメントと同じく、今直ぐにでもビールを飲みたいらしい。
ラテンの血はガマンをするということを知らない。まったく困ったものだ。結局、警察の影に怯えながら、肌寒いソカロのベンチで飲み会を始める事になった。
トトもサクラメントも凄い勢いでビール飲み始める。トトがワールドカップサッカーのイタリア代表の話をすれば、サクラメントがメキシコ美女の卑猥な話を始める。
サクラメントが僕にスペイン語の隠語を教えようとすると、トトが日本の工業製品を絶賛し始める。なんだかもうムチャクチャだ。
はじめは英語とスペイン語を通訳していたトトが酔払い始め、僕とサクラメントは派手なジェスチャーで会話をするようになっていた。
僕も酔払いはじめていたのだ。
酔ったサクラメントが空になったビール瓶を草むらに投げはじめ、その内のいくつかが草むらを反れ、乾いた音を立ててコンクリートの上で砕け散る。
トトがそれを見て俺もやると言い出し、さすがにそれはまずいと僕が必至に止める。サクラメントにデジカメを奪われ、写真を取られまくる。
もう、なにもかもがムチャクチャだった。
結局、飲み過ぎのサクラメントが居眠りしはじめ、安宿に帰りたいと言い出し、ソカロでの飲み会はお開きになった。
幸なことに、まゆをひそめて僕達を眺める人達はいたけれど、警察に捕まることはなく、屋台でシメのタコスを食べ、サクラメントの肩をささえながら宿に帰った。
その夜はムチャクチャだと思っていたけど、今思えばすごくエキサイティングな夜だった。トトもサクラメントもハチャメチャに面白いヤツだったけど、日本人にはあまりいないタイプだと思う。
旅はどれだけ面白いヤツに出会えるかが、その旅を面白くするヒケツなのかもしれない。
