・小説天気の子（角川文庫）

映画版の感想はこちら。

受付で来訪理由を伝えると、「こちらに住所と氏名を書いてください」と訪問者名簿を渡された。見ると、すぐ上に「佐倉カナ」という名前が書いてある。あいつめーと私は思う。人の苗字を勝手につかっちゃって。私は仕返しに「花澤アヤネ」と書き、住所もでたらめに記入した。

（中略）

「カナ、こちらアヤネさん。アヤネ、こちらカナちゃん」

知ってる。私たちはバス停で、何度かニアミスをしたことがある。ふわりとしたロングヘアの花澤カナは、私より一つ下の小学四年生。いまいましいことに凪君の今カノだ。しかしここは年上の余裕を見せなければと、「よろしくね」と私はにこやかにふるまう。こちらこそ、とカナがしおらしく頭を下げる。

（中略）

「補導されたなんて、驚いて心臓が止まるかと思った！」と私が言うと、

「ほんとほんと！私の心臓、今もすっごくドキドキしてるもん。凪くん、ちょっと触って確かめてみてよ！」

胸を触って確かめろですって!?この女、攻めて来やがった。私たちを見張っていた女性警官がぎょっと驚いた顔をする。

（P227-229）

映画と全く同じやりとりだけど、どうしてだろう凄い面白いな……

~~っていうかゼロの使い魔か何か？二人とも最終的には夏美さんに負けちゃったみたいで涙が出ますよ……~~

というわけで映画公開前日、発売日当日に、ゲーマーズで予約購入したものを引き取りました。

本を予約したのは「涼宮ハルヒの驚愕」以来、生涯２回目です。

やっぱり新海誠は文章も上手ですね。変な癖がなくてすっと頭の中に入ってくる。

多分半年もしないうちに忘れちゃうと思うんで書き残しておきますけど、今年は梅雨明けが７月29日と異常に遅く、公開直後は本当に劇中さながらに永遠に雨が降り続けるのではと思える状況でした。正直その偶然が、没入度の上昇に大きく貢献したかなと思います。

小説版を読み終えた今は今で、とめどない猛暑日・熱帯夜の応酬で、「もしかして陽菜さんが……」なんて思えるんですけどね。

今日も立川は暑かった

映画との最大の違いは、須賀さんや夏美さんを始めとした脇役視点の描写が多いところ。これは期待通りでした。全く新しいシーンがあるかなと期待していましたが、実際は逆に小説版でカットされているシーンが目立ちました。

須賀さんが義母と話す場面に「あなたタバコ吸うじゃない」「タバコは大分前に止めました」というやり取りが存在せず、刑事二人が風俗店のスカウトを追いかけまわすシーンもありませんでした。いずれもその後の展開につながる布石であり、やや不自然な印象。脱稿した後にシーンを追加したのでしょうか。

ただ補完されている場面もあって、例えば須賀さんが半地下の事務所の窓をなぜか開けて冠水した水が浸入、屋内が水浸しになる謎シーンは、初めから窓の隙間から水が漏れていたとあって、それを何とかしようとしたことが判明（アニメでもそうなってましたか？気が付かなかったぜ）。無理があるように思えたクライマックスも、海に沈んだ東京が思いのほかダメージを受けていないことが簡潔ながら説明されていて、少しは受け入れられました。

以下蛇足になります。

先週、大学時代の友人とスカイプで本作の話をしました。~~こいつ最近しょっちゅう大学時代の友人の話してんな、それしか世間との関わりがないのか？ねえな……~~

やっぱり見どころはあるけど、ムラがあるとか、消化不良の設定が多いという見解でおおむね一致していました。実際ネット見ててもPS２のゲームっぽいだのエロゲー１週目のエンドっぽいだの、「こうすれば良かったのでは」みたいな意見が目立ちますし。

プログラムに書いてあったんですけど、本作はプロットを第八稿、脚本を第四稿まで重ねたらしいんですよ。それであの拳銃の浮きっぷりはなんなんですかね。陽菜の能力に目を付けた謎の機関が彼女をさらう、という展開もあったそうですが、その名残なのか。直し過ぎて型を見失ってしまったのか。

あと「もう新宿は描き尽くしてしまったのではないか」、というのも俎上に上りましたよね。田舎とコンクリートジャングルの対比もいいんですけど、新海誠の描く郊外とか地方都市もきっと実写の数倍美しいだろうなあ、なんて思うのはボクだけでしょうか。

「君の名は。」以前は一通りブルーレイ・ＤＶＤ持ってますけど、「天気の子」は１回見て満足というのが正直なところで、過去作の小説版などを読みながら次回作の発表を待ちたいと思います。

小説　天気の子 (角川文庫)

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（一応書いておくけど、↑のリンクを通じて買っていただいてもボクにアフィリエイト収入が入るわけではないので、気にせずお願いします。いや無職なんだしあった方がいいのか？）

（映画版の感想はこちら）

新海誠「小説 天気の子」感想

新海誠「小説天気の子」感想