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「追いかけてくる自転車 その2」

「まったく、なんだったんだ」
坂を上がったころには、自転車はまったく見えなくなっていた。

たちの悪いやからもいたものよ。
まあ、何はともあれ、これで自分のペースで走れるというもの。

多少腑に落ちない点はあったものの、
俺は帰路を急いだ。

夜の6号は、昼間に比べると自転車が少なく、
煩わしい思いをしなくて済む。

自分のペースで走っているにも関わらず、
下手に他の自転車を抜かそうものなら、
ムキになって追いかけ来る輩が稀にいるのだ。

そんなことを悶々と考えていると、
いつもの信号に差し掛かった。

通勤で自転車を使っていると、
だいたい同じペースになるため、
いつも同じ信号で止まることが多い。

今日もやはり同じ信号で赤になった。
前には自転車が同じく止まっている。

ヤツだった。

さっき俺を坂道で思いっきり抜いていった
自転車だった。

おかしい、なんでまだこんなところにいるのだろうか。
さっきのペースで走っていれば、こんなところにいるはずがない。

飛ばしすぎて疲れたのだろうか。

「情けないヤツだ」
俺はそう思った。

信号が青になる。
それと同時にお互い自転車をこぎ始める。

明らかに遅いその自転車を、
抜かすことは雑作もないことだった。

バイパスの横の細い道から、
合流車線の大通りに入る。

あとはまっすぐ30分もこげば家に帰れる。

ふと、おれはおかしな事に気がついた。

自転車のライトがいつもより明るい。

それだけではない。

自分のすぐ後ろから、
「シャシャシャシャ」
と音がする。

車がすぐ脇を走る大通り、
なおかつイヤホンをして走っていたにも関わらず、
その音は聞こえてくる。

「シャシャシャシャ…」

間違いなく自転車をこぐときの音だ。
毎日毎日聞いているその音、聞き間違えるはずもなかった。

それにしても異常な近さだ。

信号機が点滅して、俺は自転車を止めた。

後ろは振り返らなかった。
俺の中で生まれた予感を確信に変えたくなかったのかもしれない。

信号が青になる。

「シャシャシャシャ…」

やはりすぐ後ろをついてくるその音。
その自転車は抜かす気が全くないようだった。

俺はだんだんと気持ち悪くなってきた。

手前の信号が赤になった。

俺はたまらず、車道から歩道へ自転車を止めた。

背後から視線を感じる。

俺は携帯を見るフリをした。

信号が青になった。

まだ携帯を見ている。

少し間があった後、その自転車が動き出した。

俺の予感は確信へと変わった。
さっきの自転車だ。

俺はしばらくその場を動くことができなかった。


つづく…