雑誌「WEDGE」に掲載されていた「ある成年後見人の手記」がネットで公開され、話題を呼んでいます。
「ある成年後見人の手記」⇒コチラ
著者は、共同通信社のジャーナリスト松尾康憲さん。
亡父の兄の奥さんである由利子さんの後見人を5年以上つとめた実体験を綴った、親族後見人の手記です。
この手記の特筆すべき点は、次の点です。
①後見人が本人の相続人ではないため、葬儀や財産の相続人への引き継ぎなどにおける成年後見制度の問題点が顕在化している。
②親族後見人に対するサポートがいかに不足しているかがわかる。
著者がジャーナリストで筆力が高いため、成年後見制度の制度上・運用上の問題点が克明に描かれています。
一番興味深かったのは、著者と家庭裁判所のやりとりです。
著者が、本人が死亡した場合の措置について「私が(中略)葬礼を催し、埋葬し、遺産を貴裁判所に届けるしかないと思われます。」と家庭裁判所に書面を送ったところ、
家庭裁判所の書記官は、こう返信します。
「被後見人が死亡すると、後見は終了し、康憲様は、後見人という立場ではなくなりますので、原則として葬儀・埋葬等の手続は後見人という立場ではなく、康憲様個人が善意で行うものであるという理屈になります。」
これに対して、著者は、「遺産の相続権もないにもかかわらず成年後見人をやっているのに、この上、(中略)なぜに「善意」を強要されねばならないのか。」と怒ります。
そして、なんと家庭裁判所の所長に抗議の書面を送ります。
正直、私は書記官の文面を読んだときに、ごく当たり前なことを言っているとしか感じませんでした(葬儀は後見人の仕事ではないというのは今でも法務省の見解です。)。
むしろ、モンスター後見人にあたって、担当の書記官がかわいそう…と思ったくらいです。
これはおそらく、私が成年後見制度に慣れすぎているせいなのだと思います。
著者は、はじめて成年後見人になって、ジャーナリストという忙しい仕事をしながら、血の繋がっていない由利子さんのために、慣れないながらも誠意をもって後見人として業務を行っています。
こうした親族後見人をサポートするという視点が、家庭裁判所には欠けていたのだと思いますし、また、親族後見人のサポートは家庭裁判所だけにまかせるべきものではないのだと思います。
今年3月に閣議決定された「成年後見制度利用促進基本計画」においても、地域連携ネットワークにおいて、後見人と本人をチームで支援する体制を構築していくということが謳われています。
この「ある成年後見人の手記」を読んで、親族後見人の視点から成年後見制度を見ることができましたし、後見人を支援する体制を構築する必要性を痛感しました。
成年後見制度にかかわる、裁判所、行政、専門職等の関係者の方には、ぜひ「ある成年後見人の手記」のご一読をお勧めいたします。
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