話は、1回目の復職直前、産業医面談の日の午後に遡ります。



2019年4月2日(火)

復職が決定した産業医面談は午前。午後は、別に行く場所がありました。
数年前からかかっている、関東某所の漢方専門医のところです。


私は昔からとても疲れやすく血行不良の体質でしたが、自分が普通の同年代よりずっと辛い体質だということにずっと気付かないまま、大学の男ばかりの学科→大学院で多忙な日々を送り、今の多忙な仕事をこなしていました。とあるきっかけで自分がおかしいと気付き、2015年春に勧められたこの医師にかかり、「瘀血が酷い、この歳でこれではさぞ辛いでしょう」と言われ、自分がとても酷い状況だと知りました。処方された薬(※保健医療です)を飲み始めて2週間で、はっきり自覚する程に身体が楽になりました。今までの人生返して欲しいと思ったくらいに激変しました。とは言っても、服薬してもなお、人並よりは良くない状態が続いていたようですが。人並がどんなものなのか、私には解りませんが

最後に処方されていたのはツムラの23番(当帰芍薬散トウキシャクヤクサン)と41番(補中益気湯ホチュウエッキトウ)。
実はその直前の診療まではずーっと、37番(半夏白朮天麻湯ハンゲビャクジュツテンマトウ)と125番(桂枝茯苓丸加薏苡仁ケイシブクリョウガンカヨクイニン)を飲み続けていたのですが、急にガラリと処方が変わったのです。特に桂枝茯苓丸は初診のときから切らさず飲んでた(途中で25番→125番に変更)のにも関わらず、です。
ちょうどその頃から、悪性化しはじめたチョコレート嚢胞が身体の中で悪さをし始めて、先生は顔色と脈診腹診だけで体調の激変を感じ取っていたのだろうか。私は何の体調変化も自覚していなかったのに。


なお漢方医としても名高いのですが、それ以上に高名なのが作家活動。英訳版がボブ・ディランに詩をパクられたと世界的な話題になったこともあります(この時法的措置をとっていたら、ボブ・ディランはノーベル賞なんて取れなかったでしょうね)。
それだけではなく、今のように有名になる前の40年以上前にこんな本を執筆していたりもします。40年以上前ですよ!何て慧眼!あの新聞社って私が産まれる前からそうだったんですねえムキー
なお、森友問題にもマスコミに対して珍しく診察室でブチ切れしてました。あんなあからさまに怪しい輩のために、首相が政治生命をかけてたかが数億だか数十億だかの土地取得の便宜を図ったなんて与太話をさも真実に違いないかのごとく報道しているが、首相はもっと巨大な権限を持っているのに(不正の規模が余りにも小さすぎて)おかしな話だ。首相というのはもっと大きなものを見ているものだし、ちゃんと首相が本当に見ているものを報道すべきだ。本当の問題は役所の文書の管理、トレーサビリティが、どういう訳か、いい加減なものに貶められていることなのに、何故そこを一番に追求しないのか。……全面的に同意します!多分桜を見る会についてもほぼ同じコメントをするだろう。


遠いながらもずっと月イチくらいで通っていたのですが、昨年末以来行っていませんでした。
昨年末に「仕事が忙しくなるから」と8週間分の薬を処方してもらっており、その後で画像による卵巣がん疑惑、手術決定。
入院先からは、術前4週間は勝手に薬を飲むなと言われました。術前飲んでいい薬かどうかを判断する必要があるからと。
ツムラの漢方薬に入院前に絶対飲んではいけない薬なんて多分ないだろうけど、漢方薬には既に発生しているかもしれないがんを抑えたり小さくしたりする効果なんてない。だったらわざわざ問い合わせなくても、今やめてしまってもいいだろう。そして入院→手術後は体調が激変するのだから、術後は今飲んでいる薬は不適切になっているだろう。
というわけで、術前から服薬を中断していました。


以上の通り、この老医師については、つまるところ、私は「市井の賢人とはこういう人のことを言うのだろう」と常々感じているのです。


「久しぶりですねえ、ちょうど数日前に、あなたがどうしているだろうって思い出していたところなんですよ。」
「お久しぶりです。……実は私、がんになっちゃったんです。」

長い沈黙。
驚きますよねえ。患者の平均年齢が高齢者なこの医院でもかなり若い部類に入る患者が、いきなりこんなこと言い出したらびっくり

「…どこのなんです。」
「卵巣がんです。」

画像検査でがんの疑いが高いと言われ、一ヶ月前に開腹手術して右卵巣を取って、がんの確定診断が下ったこと。
ステージは今のところⅠ期だが、来月もう1回手術して大網切除とリンパ節郭清を行い、がん細胞が散らばっていないか確認すること。その後で抗がん剤治療を行うこと。
卵巣がんは、Ⅰ期でも両卵巣と子宮を摘出するのが標準治療だが、私はリスクを侵して妊孕性温存を希望していること。

話をした後、脈診を受け、次にベッドに横たわり腹診。
服装を直して再び椅子に座って向き直りました。
先生曰く。

随分と身体が弱っている。でもわずか一ヶ月前に開腹手術をしたのだから当然のことだ。今はとにかく体力を回復させることを優先したほうがいい。また手術をするのであれば尚のことだ。

ということで、48番(十全大補湯ジュウゼンタイホトウ)と108番(人参養栄湯ニンジンヨウエイトウ)を処方。
これは術前術後の病人に処方されるものとしては一般的なもので問題はないはずだが、飲み続けるかどうかは手術する病院の指示に従って下さい、と言われました。
(※なお入院先の薬剤師に申告しましたが、飲み続けて問題なしとの事でした)。

「私もね、早くに腎臓を患って、20代のときハワイの病院で医師をしていた時に心筋梗塞で初めて死にかけたのに始まって、もう20回も入院していて、心臓の4分の3は死んでしまっていて、がんの手術もしたけど、こうして生きていますよ。頑張って下さいね。」
「はい、あと50年生きる。先生にあやかりたいです。本当に。」


最後に固く握手をして診察室を出ました。