ホームラン数が倍増した最大の原因は打者の積極バッティングと風だ!
 今大会の大きな特徴の1つに、ホームラン数の倍増が挙げられる。過去10年の推移
を見てみよう。
※右にプロ野球のシーズン本数も紹介した。

選手権の本塁打数 プロ野球の本塁打数 パ・セの日本シリーズ進出チーム
03年⇒13本 03年⇒1987本 ダイエー 阪神
04年⇒33本 04年⇒1994本 西武 中日
05年⇒32本 05年⇒1747本 ロッテ 阪神
06年⇒60本 06年⇒1453本 日本ハム 中日
07年⇒24本 07年⇒1460本 日本ハム 中日
08年⇒49本 08年⇒1480本 西武 巨人
09年⇒35本 09年⇒1534本 日本ハム 巨人
10年⇒26本 10年⇒1605本 ロッテ 中日
11年⇒27本 11年⇒939本 ソフトバンク 中日
12年⇒56本



 夏の甲子園大会とプロ野球のシーズン本数をくらべる真意は、高校生はプロ野球
の影響を少なからず受けるのではないか、と思ったからだ。結果は減少傾向が同一
にならず、目論見は外れたように見える。

 しかし、重要なのはプロ野球の世界では過去9年、ホームランはトレンド(流
行)ではなかった、ということだ。11年に統一球を採用してホームラン数は激減し
たわけだが、04年をピークと考えれば統一球採用以前から、ホームラン数は減りつ
つあったのだ。

 プロの影響を受けやすい高校野球界が、ホームランに価値を見出していないプロ
の空気から無事でいられるわけがない。08年に前年の2倍強となる49本塁打が飛び出
しているが、09年から3年間は低めに安定し、高校野球にとってホームランは特別な
選手にだけ許される特別な結果になっているようで、一抹の寂しさはある。

 ハード面からも考えてみよう。08年の選手権はリニューアルされた甲子園球場で
行われ、ホームラン数は前年の24本から49本へと倍増した。

 改修工事により新銀傘とスタンドの間に隙間が生まれ、ここからセンター方向に
打球を押し出すような風が吹き出している、とはリニューアル当初、再三言われ
た。2回通路前の第二記者席に座っていても、リニューアル以前にくらべ風の通りが
よく、快適に観戦できることは間違いない。

 しかし、その後の3年間、ホームラン数が停滞しているので、ハード面から原因を
探るには無理があると思う。

積極的に打っていくバッティングに注目
▲第12,13号HRを放った井澤凌一朗(龍谷大平安)※写真は県大会の様子
 今年の出場校の特徴だけに的を絞って考えると、積極的に打って行くバッティン
グに注目した。2011年夏の大会にくらべると、ファーストストライクを打ってホー
ムランにした数が断然多い。


◇2011年……27本中10本(37%)
◇2012年……56本中30本(54%)

 他のデータも紹介しよう。

イニング先頭打者
本塁打 3球目以内を
本塁打 初球打ち本塁打
2011年 3回(11%) 18回(67%) 7回(26%)
2012年 22回(39%) 34回(61%) 11回(20%)


 データを取っているときはすべての面で12年の数値のほうが高いと思っていた
が、11年は総本塁打数が少ないので、どうしてもパーセンテージが高くなる。いず
れにしても2012年の史上2位というホームラン数の多さは、打者の積極打法と大いに
関係がありそうだ。そして、打者の積極的なバッティングを許容した指導者の若返
りも無視できない。


強い浜風の影響
 もう1つ大きな要因は風である。風と言っても新銀傘とスタンドの隙間から吹き出
す“人工的”な風ではなく、自然に吹く風のことである。

 今大会で最もホームランが出たのは第9、10目の8/17、18両日である。8/18に注
目すると、第3試合の新潟明訓対明徳義塾戦の7回表、2死走者なしの場面で雷鳴が大
きくなり、ボールカウント1-1のところで中断になった。再開までに要した時間が2
時間18分という長さで記憶に残るが、この日だけでホームランが7本出ている。当
然、強い風が影響したと考えるのが常識である。

 甲子園はライトからレフトに向かって吹く“浜風”が有名で、阪神タイガースの歴
代強打者は左打者でもレフトに流し打ちができなければ務まらないと言われ
る。R・バース、掛布雅之、金本知憲という顔ぶれを見れば、そう言われるのもよく
わかる。

 ホームランが7本出たこの8/18日を見ると、天久 翔斗(光星学院・右投左
打)⇒左翼ソロ、北條 史也(光星学院・右投右打)⇒左翼2ラン、田村 龍弘(光星学
院・右投右打)⇒左翼2ラン、澤田 圭佑(大阪桐蔭・右投左打)⇒左翼ソロ、田端 良
基(大阪桐蔭・右投右打)⇒中堅2ラン、藤井勝利(倉敷商・右投右打)⇒左翼ソロ
と、7本中6本がセンターからレフトに向けて放たれている。ちなみに、唯一のライ
ト方向への一発は森 友哉(大阪桐蔭・右投左打)の放ったソロホームランである。


 浜風が強かったのはこの日だけではない。日程後半は、ほとんどスコアボード上
の旗がレフト方向へちぎれんばかりにはためいていた。ホームラン倍増の最大要因
は、天然の浜風と言ってもいいだろう。

 このテーマで書き始める前、漠然と頭の中にあったのは技術的なアプローチだっ
た。ミートポイントの「捕手寄り」あるいは「投手寄り」が関わっているのではな
いか、という考察である。試合観戦しながら「投手寄り」で打つ選手と、「捕手寄
り」で打つ選手が、二極化されていると思った。つまり、力(膂力=りょりょ
く)のない選手は投手寄りのミートポイント(前さばき)で、力のある選手は捕手
寄りのミートポイントで打つという棲み分けが出来つつある、という予感である。

 これは相当に重要で、今後の野球界全般に関わってくる問題であることは間違い
ないが、今大会で「こうだ!」と確信を持って問題提起する“何か”をつかむことが
できなかった。これは来年以降の課題にして、また皆さんと一緒に考えてみたい。

参考:第94回高等学校野球選手権大会本塁打
選手名 チーム名
第1号 吉田紘大 作新学院
第2号 篠原 優太 作新学院
第3号 森井 駿太郎 佐久長聖
第4号 渡邊恭平 立正大淞南
第5号 椀田剛史 立正大淞南
第6号 松井 裕樹 桐光学園
第7号 宮里 泰悠 浦添商
第8号 笹川 晃平 浦和学院
第9号 金子 凌也 日大三
第10号 荒城 英治 富山工
第11号 斉藤慎次郎 札幌第一
第12号 井澤 凌一朗 龍谷大平安
第13号 井澤 凌一朗 龍谷大平安
第14号 北條 史也 光星学院
第15号 西口 貴大 済々黌
第16号 高野 勇太 木更津総合
第17号 笠松 悠哉 大阪桐蔭
第18号 田端 良基 大阪桐蔭
第19号 高橋快舟 県立岐阜商
第20号 会田 隆一郎 酒田南
第21号 大関匠太 秋田商
第22号 大?圭将 福井工大福井
第23号 早坂和晋 仙台育英
第24号 篠原 優太 作新学院
第25号 高山 良介 作新学院
第26号 山下 勇斗 作新学院
第27号 當眞寿斗 浦添商
第28号 園部 聡 聖光学院
第29号 笹川 晃平 浦和学院
第30号 安西聡 聖光学院
第31号 佐藤 拓也 浦和学院
第32号 金丸 将 宇部鴻城
第33号 安田翔 宇部鴻城
第34号 渡邉 諒 東海大甲府
第35号 天久 翔斗 光星学院
第36号 北條 史也 光星学院
第37号 田村 龍弘 光星学院
第38号 澤田 圭佑 大阪桐蔭
第39号 森 友哉 大阪桐蔭
第40号 田端 良基 大阪桐蔭
第41号 藤井勝利 倉敷商
第42号 渡邊 郁也 仙台育英
第43号 鈴木 拓夢 桐光学園
第44号 水海 翔太 桐光学園
第45号 照屋 光 浦添商
第46号 ?田涼太 浦和学院
第47号 森 友哉 大阪桐蔭
第48号 藤浪 晋太郎 大阪桐蔭
第49号 吉村 昂祐 天理
第50号 石井 信次郎 東海大甲府
第51号 藤井勝利 倉敷商
第52号 宋?均 明徳義塾
第53号 北條 史也 光星学院
第54号 北條 史也 光星学院
第55号 田村 龍弘 光星学院
第56号 白水健太 大阪桐蔭