ツッタカターのファロワー


中学野球小僧などでおなじみ


おおとしさんの学校訪問。。


恵まれない環境のなかでのチーム作り


勉強になります。。。


ちなみに,おおとしさんとは全中でお会いし


挨拶させていただきました。


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~~~以下コラム~~~



「狭い」とは聞いていたが、想像以上の狭さだった。
 グラウンドよりは公園といったほうがいい。両翼と呼ぶほどの広さはなく、一塁
線も三塁線も約30メートルの直線が取れる程度。外野ノック、カットプレーの練習
はとてもじゃないができない。

「みなさん、驚かれますよ」

 迎えてくれたのは、06年6月から指揮を執る石黒滉二監督で、橘学苑の初代監督で
もある。もともとは1942年に創立された伝統ある女子校・橘女学校だった。それが
2004年から橘学苑に改称し、06年には男女共学に。この流れの中で生まれたのが野
球部だった。

「はじめは同好会のようなものでした。今でも覚えているのは、夏の大会のノック
をノックバットではなく、選手が使う金属バットで打ったこと。ボールがなけれ
ば、ノックバットもない。ベースは段ボールを切ったものを使っていました」


▲石黒滉二監督(橘学苑野球部)
 石黒監督は神奈川の名門・桐蔭学園のOBで、東海大学時代には拓大紅陵(千
葉)でコーチ修行。卒業後は藤嶺藤沢(神奈川)でコーチ、厚木シニア(神奈川)の
監督を務めるなど、経験を重ねてきた。

 石黒監督に率いられた野球部は、創部3年目の08年に北神奈川大会の3回戦に進む
と、09年夏にベスト16、09年秋にベスト8、そして10年春にはセンバツ優勝帰りの東
海大相模を9対3で下し、初めてベスト4に進んだ。しっかりと着実に、階段をのぼっ
ている。


【年間通して行う「ヨガ」】

 この環境で、どうすれば勝てるのか?就任当初から、石黒監督は考え続けていた。

 基本的に中学生のスカウティングはしない。橘学苑で野球をしたい選手だけで勝
負をする。それでも、3年夏には強豪私学と戦えるチームを作り上げる。この夏はと
もに140キロを超えるストレートが武器の黒木 優太と椎名潤一という二枚看板、主
軸には高校通算30発の大砲、体重100キロを超す弓場大樹がいた。


▲ヨガトレーニングにより柔軟性を鍛える
 チーム作りの特徴は、年間とおしてトレーニングを行っていることだ。とくに力
を入れているのが、石黒監督が「ヨガ式フィジカルトレーニング」と呼ぶもの
だ。写真がその風景である。専門の講師を招いて、1週間に1回およそ90分、ヨガの
時間をもうけている。決して、一斉に行うわけではない。月曜=投手陣、水曜=内野
手、木曜=外野手と、曜日によってヨガに取り組む日をわけている。

 なお、グラウンドが狭いため、チーム全体で総合練習をするのは週に1度の金曜日
のみ。残りは土日の練習試合で出た課題を克服する「課題練習」にあてている。

 なぜ、ヨガなのか?石黒監督がその理由を明確に説明してくれた。
「いまの子どもたちは関節が硬い選手が多い。そのうえで試合数が多いため、故障
につながりやすいんです。ヨガで体の柔軟性やバランスを養う狙いがあります」

 ストレッチやクールダウンの意味合いも兼ねている。練習後、「ダウンやってお
けよ」と選手任せにするチームもあるが、その時間を意識的に練習の中に組み入れ
ている。
 冬場には、通称「パワーヨガ」と呼ばれるメニューに変わり、シーズン中よりも
負荷をかける。シーズン中とシーズンオフで、その目的を変えている。


▲ウエイトトレーニングに励む橘学苑野球部
 課題練習の中には、器具を使ったウエイトトレーニングも取り入れている。部室
の横にウエイトトレーニング場があり、シーズン中は週1回、シーズンオフは週2
回。器具は、石黒監督がコツコツと揃えてきた。フリーウエイトのスクワットでは
体重の2倍以上を挙げるのが目標となる。

 ただ、ヨガやトレーニングをやるだけではない。体の仕組みを書いた資料を定期
的にくばり、座学を行う。
「骨盤は1つと思われているけど、本当は3つある。右と左と中心の3つが動くことが
わかるだけで、ピッチングが変わってくる場合もあります。知識を知っておくこと
はとても大事なことです」

 石黒監督自身、東海大時代は読売ジャイアンツでトレーナーを務めたこともある
田中誠一教授のゼミで、体の仕組みやトレーニングについて学んだ経験を持つ。そ
れが指導者になった今、生きているという。

【フィールディング練習でフォームを作る】

▲地道なフィールディング練習
 取材当日、ピッチャーはフィールディング練習を行っていた。3人一組で、両端
(A・B)に捕り手が立つ。その間は約30メートルだ。捕り手の間にピッチャーが
入り、Aが転がしたボールをBに、Bが転がしたボールをAに送球する。ランナー
一塁でのバント処理で、二塁へ送球する形に近い。
 この地道な練習を10本3セット。冬場は5セットに増える。

「これは面白いですよ。持久力はもちろん、体の切り返しを覚えることができま
す。これがピッチングフォームにつながっていくんです。いまの子どもたちの弱い
ところは、体のどこかを止めて、どこかを振ることができない。常に動きが流れて
しまうんです」

 体が止まる→腕が振られる、という投げるメカニズムをこの練習で身につけてい
く。
「人間は、走っていって急ブレーキをかけたときにケガをしやすいんです。体にそ
れだけの衝撃が加わる。そこでケガをしないように、こういった地道なフィール
ディング練習を繰り返しています」

 話を聞きながら思った。外野ノックすら打てない狭いグラウンドだからこそ、地
道な練習に専念できるのかもしれない。そんな話を振ると、「そのとおりです」と
うなずいた。

「あれもこれもはできませんからね。ある意味、覚悟を決めることができます」


▲サンドボールを竹バットで打つ練習
 もちろん、フリーバッティングもできない。バッティングは年が経つごとにひと
つずつ増えていった3か所の鳥かごでの打ち込みと、ティーバッティングが中心とな
る。
 このティーで重視しているのが、重さ500グラムのサンドボールを竹バットで打つ
ことだ。飛んでも数メートルの飛距離しか出ないため、狭いグラウンドにはもって
こいだ。斜め45度ではなく、正面からボールをトスする。

「インパクトのあと、さらに10センチ先を振っていく感覚を身につけるための練習
です」

 重たいボールのため、インパクトで押し込む力がなければ、前には飛んでいかな
い。
「この練習は年間通してやっています。サンドボールは取り入れるチームが多いで
すが、続けているところは少ない。正しいと信じてずっとやり続けることが大
事。この練習で中学時代に打てなかった選手もホームランが打てるようになりま
す」

 フリーバッティングができる環境であれば、サンドボール打ちにそこまで力を注
がなかったかもしれない。このあたりも環境によって生まれた「覚悟」といえる。


▲守備練習に使用するボール
 守備練習にも、工夫が見える。特徴的なのはボールだ。硬球全体を覆うように白
いテープを巻く。あえて縫い目に指がかかりにくい状況を作っているのだ。
「難しい状況にすることで、縫い目にかけて握る意識が高まります。それに、表面
がツルツルのために、グラブの中でボールが滑りやすい。しっかりと掴まなけれ
ば、捕れません」

 この環境だからこそ、できることがある。
 その考えをもとにたどりついたのが、現在の練習スタイルである。トレーニング
と技術指導を並行しながら、チーム作りを進めている。

 夏のメンバーが3年生中心だったため、新チームは総入れ替えとなる。キャプテン
もまだ決まっていない状況だ。

「秋の目標は初戦突破。ひとつひとつです。練習も試合も、すべてが夏に向けた物
語。監督がいかに物語を作っていくかが大事だと思っています」

覚悟を持って、信じたことをやり続ける。

(文=大利実)