2022年 日本

原作:島崎藤村

監督:前田和男

脚本:加藤正人 木田紀生

出演:間宮祥太郎 石井杏奈 矢本悠馬 眞島秀和 田中要次 七瀬公

 

【我は穢多なり。されど我は穢多を恥じず】

 

これを観て、遠い昔に穢多非人の話を泣きながらしてた社会の教師がいたことを思い出した。

 

【我は穢多なり。されど我は穢多を恥じず】

は有名な文言なので、ここだけ耳にしてる方は多いと思います。

 

藤村が33才の1905年(明治38年)の作品で、物語は明治37年の設定なので当時の現代作になります。

触れてはいけないような事を題材にした、衝撃作とか問題作だったんじゃないかと推測します。

 

冒頭に【全国水平社創立100周年記念映画】と表示が出ます。

1922年の【水平社宣言】と呼ばれるものをご存じでしょうか?

300年以上にも及ぶ差別と迫害を受け続けた被差別部落の方々が、差別からの解放を高らかに宣言した歴史に残る日から100年目の節目に、実に素晴らしい作品を残してくれました。

1948年版、1962年版と過去にも映像化されてますが、100年のタイミングで映像にしてくれた東映さんに拍手と感謝です。

 

 

ーーー信州・飯山町ーーー

物語はお金持ちの老人(石橋蓮司)が宿屋に滞在していたが、老人が穢多だと分かり追い出され、罵声や投石されたりの騒動から始まります。

宿屋の女将は塩を撒いて、畳替えをするからと間借りしてた地元小学校教諭の瀬川丑松(間宮祥太郎)にも出ていって貰います。

実はその丑松も被差別部落出身なのです。

 

1871年(明治4年)に穢多非人の称は廃止され平民同様(四民同様)と布告されてから33年経ちますが、もう普通に穢多です。

そりゃあそうでしょう、大正15年の関東大震災の福田村事件でも穢多ですもん。

 

もっと言うと、昭和33年の狭山事件は警察が被差別部落の男性を犯人に仕立て上げた冤罪事件ですし、昭和29年の島田事件も警察が軽度知的障碍の男性を犯人に仕立てました。

昭和でも部落や障碍者は差別の対象で、令和の今でもYouTubeには「部落出身の有名人」とか「ここの住所は昔は部落」など出てきます。

これだけ土地開発されて街化して何十年も経ってるのに、その住所は昔は部落という古い情報が何の役に立つんでしょうね。

なので、明治37年なんて差別が現在進行形で当たり前な時代背景です。

 

丑松は少年の頃に部落を出ます。

父(田中要次)からの最後の教えは、

「世に出て身を立てるには、ここにも帰らず部落民だと口外するな!」

「この戒めを破れば社会から捨てられる!」

「誰も信じるな!誰も心を許すな!何があっても隠し通せ!」

 

丑松はこれを強く守り、勤勉し教師となりました。

でも、部落出身を隠してる引け目で明るい人生は送ってません。

心の拠り所は穢多の作家で活動家の猪子蓮太郎(眞島秀和)の本を読むことでした。

 

宿屋から蓮華寺という寺に下宿先が決まり、寺の住職夫婦(竹中直人・小林綾子)の養女の志保(石井杏奈)と出会い、互いに惹かれますが丑松は距離を置きます。

 

同じ職場で師範学校からの付き合いの土屋銀之助(矢本悠馬)は丑松を「親友」と言ってくれますがどこか一線を引いてます。

 

日々、苦悩を抱えながらも受け持ちのクラスの生徒たちには平民も部落も関係なく平等に優しく教えを説きます。

子どもたちには平等の精神を教えますが、生徒間でも身分による関係性は生じているのです。

 

この作品の間宮祥太郎さんの芝居が序盤から実に惹き込まれます!

ヤンキー役ばかり見てたので、【魔法のリノベ】でこういう役いいじゃん!と思い、

【全員死刑】でまたヤンキーで、【変な家】でまたいいじゃん♪

結構見てきましたが丑松が1番良かった。

 

間宮さんだけじゃなく、子役に至るまで演者さん全員の演技力の高さと、原作に沿った脚本なのでとても素晴らしい完成度です。

男闘呼組の高橋和也さんも良い味出してました^^

この方も巧いです。

小林綾子さんも達者ですね^^

懐かしいし。

「おしん」は観てないけど。

 

それと、喋り方が昭和初期の映画っぽいのも良いです。

ゆりあんレトリィバァの上手なネタみたいな。

そして、とても言葉が美しい。

日本語って美しいし、美しい日本語を私たち大人が継承しなくちゃ勿体無いなと思えました。

ギャルタレの言葉の汚さも面白いけど、中年以降で汚い言葉は品も無ければ頭悪そうなので気を付けようと(^^;)

 

この作品は小・中学校で子どもたちにも是非観せてあげて欲しいです。

 

 

そんな控えめに生きてきた丑松ですが、出身地と苗字から「部落出身では?」という噂が上級国民教師の勝野文平(七瀬公)から広まり更に苦悩します。

そして、ついに父からの禁を破り、親友の銀之助に出自を伝えます。

このシーンも良かった!

隠してきたことを謝罪し頭を下げる丑松に、逆に傷付けてきたことを詫びて今後を心配する銀之助。

それまで銀之助は穢多に対する人格否定を普通に発言してたので手のひらを反すんじゃないかとヒヤヒヤしましたが、自称「親友」を謳ってただけあって、丑松に対する好意は変わりませんでした。

銀之助役の矢本悠馬さんは1番喋り方が時代っぽかったですし、やはり矢本さんは巧い^^

 

そしていよいよ物語終盤での猪子蓮太郎の演説シーンです。

出ますよ名言が!!!

会場からは野次が飛び交いますが、ビックリするほど野次が巧い!

てか、野次まで巧い作品です!!!

映画はこうでなくちゃ♪

 

【我は穢多なり!されど我は穢多を恥じず!!!】

 

もう鳥肌です!!!

さすがの眞島さんです^^

これ、1番重要な台詞ですもん!

ここヘボだと作品台無しです!!!

眞島さ~~~ん❤❤❤

 

それに衝撃を受ける丑松の全身から感動が溢れます!!!

その姿にこちらが痺れます!!!

間宮さ~~~ん❤❤❤

 

が、その夜、猪子は殺害されてしまいます・・・

 

丑松は悶絶の末に決意します。

朝、教室に入ると、

「今日は皆さんにお話しがあります」

丑松は生徒たちに出自を明かします。

最高の名シーンです!

静かに静かに語ります。

余計な音楽などありませんし必要もありません。

極限まで抑揚を抑えつつも心に響く語りです。

もう、涙・涙の名シーンです。

 

私は間宮祥太郎という役者を甘く見てました(><)

 

学校を辞め、リヤカーに荷物を積み蓮華寺を去る丑松。

東京で新たな人生を歩むのです。

駅までの道中に銀之助が志保を連れて現れます。

実は志保は勝野から丑松の身分を聞かされていました。

それでも丑松を想う心に変わりはなく、共に歩むことを願います。

 

生徒たちにも見送られふたりは歩き出します。

その後ろ姿は小さくなっていき、やがて見えなくなりジ・エンドです。

 

 

【破戒】良かった・・・

「戒めを破るな」と教えた父に背き破るので【破戒】ですが、出自を明かせない苦悩を間宮さんが見事に演じてました。

志保に心を寄せるも距離を置き、焦がれる心をひた隠し志保の名前を呟やく・・・

 

出自故に寡黙な役柄ですが、心の内の表現力に陶酔できました。

 

 

さて、あなたは差別をする人ですか?

出自は大切ですか?

障害者は必要ないですか?

高齢者は無駄ですか?

犯罪者の子どもは悪ですか?

 

差別は今も蔓延してます。

家族で観て欲しい作品に【破戒】はお勧めです。