昭和の始り

茂はいつも虐げられていた


父は何も言わず

祖母が家の全てを仕切っていた

茂の家は医者だった

父も、祖父も、その前も

代々医者だった

昔は大名に仕えてた、とか

殿様に貰った領地で

周りの農民に途中を貸してるとか


この豪雪地帯の

山間にある日本有数の米処で

農民でないことを誇りにしてきた


茂には兄がいて跡取りだった

兄は大層祖母に可愛がられていた

跡取りではない茂はおまけだった


母は病弱で

実家へと引き取られた

結核で隔離したと言うが

祖母からの嫌がらせに心を病み

すでに幽閉していたのを送り返したのだ

母が窓越しに呼ぶのを何度か見た

実際に近づいてみたことも有ったが

狂っているようには思えなかった


祖母は病弱な母を

壊れたもんはいらんと言った

そして新しく継母になるという人が来た


その人は意地が悪かった

いつも茂を棒で叩いた

少しして、茂に弟が産まれた

継母は一段と意地悪になって

食事も抜かれるようになった

兄は跡取りだからと祖母がかばっていた

茂にはかばってくれる大人が居なかった


戦争が始まった

茂は母方の親戚の元に送られた

食い扶持が減ると祖母は喜んだ

茂が送られたのは前橋の商家だった

そこでは茂はただの青年だった

商売を見て、手伝い、遊び、

仲間たちと隠れて野球をした

良く働く下女が居た

前橋の旦那は同郷同士良いだろうと

結婚を決めた


それからまた少しして

戦争が終わらず招集がかかった

兄は跡取りだから出せんと


祖母はお国の役に立てると喜んだ

父のことは覚えていない


新潟の家から出征することになり

妻と祖母の元へ行った

祖母が珍しく喜び褒めてくれた

そして満州に行くことになった



 

 



 

 茂の故郷の米